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9.ハイウェイスター

「一馬、R.D.シューターの準備はしておいたから、いつでも乗れるよ。」

 奈央が一馬にそう言った瞬間、一馬はブチッと切れる。

「これはハイウェイスターだ。そのダサい名前やめろ。」

「何言ってるの?これは私が作ったんだから、私に命名権があるって言ったでしょ。

 雷同、アンタの名前からR.Dを取ったR.D.シューターだよこれは。」

 よく見ると、バイクには大きくR.D.シューターというラベルが貼られていた。

「て、テメエ、いつの間にこんなもんを!!!」

「いやあ、待機時間中、ちょっと暇だったからね。どう、かっこいいでしょ?」

「最悪だ。」

 一馬は頭を抱える。

「いいからさっさと出るぞ。」

 いつの間にか、バイク部屋に有騎が来ていた。

「くそっ、このケリは後できっちりとつけるからな。覚えてろよ。」

 一馬は怒り心頭のまま、バイクにまたがる。

 そして、バイクの後方に有騎がまたがる。

「えっ、まさか二人乗り!?」

 それを見たサリファが驚いた表情を浮かべる。

 でも、2人乗りそのものに驚いてるわけではなかった。

 2人乗りで飛び出して、一体何をするつもりなのかわからないと言ったところか。

 一方、奈央は一馬と有騎の準備ができたことを確認すると、バイク部屋の扉を閉鎖する。

「有騎、一馬、サービスエリアからさらにアークライダーが3台出てきた。

 今から外壁を開けるから、気を付けてね。」

「ああ、任せておけ。」

 奈央は有騎と一馬の返事を確認すると、カルティニが使っているのとは別のコンピューターを使って、外壁の制御スイッチを入れる。

 すると、右側の外壁がゆっくりと開いていく。

「この走っている状態で、一体どうやってバイクを降ろすつもりだ?」

 カルティニが端末を操作しながら奈央に尋ねる。

 そのカルティニの声は、奈央のつけていたマイクを通じて、一馬にも聞こえていたようだ。

「それは、こうやるのさ。」

 一馬はバイクのエンジンをかけ始める。

「まさか・・・」

 いつの間にか、奈央のところに来ていたサリファが、奈央の使っているコンピューターのディスプレイに映し出された映像を見て信じられないと言った表情を浮かべる。

 どうやら一馬は車からバイクで飛び降りるつもりなのだ。

 高速を走っている車から、しかも後方からアークライダーの銃撃を受けている中で・・・

「いくらなんでも危険よ。」

 サリファは奈央にそう言うが、奈央は全く心配している様子はなかった。

「大丈夫だって。」

 奈央はサリファにそう言うと、端末を操作する。

「電磁シールドオン」

 すると一馬達の乗ったバイクの周囲に電磁シールドが現れる。

「すごい、電磁シールドまで・・・」

 サリファは驚きを隠せなかった。

「あれがあるから、あのバイクをここと隔離する必要があったのよ。」

 奈央はそう言うと、ニコッと笑った。


「よし、じゃあちょっと行ってくるか。」

 一馬はアクセルを吹かせると、そこから一気に道路へと飛び降りた。

「なんて無茶苦茶な!!!」

 サリファはその光景を見て言葉を失う。

 だが、一馬は無事に道路に着地すると、一気に速度を上げてハロルド号と並走する。

「一馬は小さい頃からオートバイが好きで、アイツにとって手足みたいなものだから、あれくらい大したことないよ。」

「えっ、そうなの?すごいね。」

 サリファは先程の出来事がよほど珍しいものに思えたのか、目を輝かせてディスプレイを覗き込んでいた。

「ねえ、カルティニ、あんなことできるのって、もしかしたらSALIDにもいないんじゃない?」

 そして、サリファは近くで端末と格闘しているカルティニに声をかける。

「すみません、お嬢様、ちょうど今こちらも手ごわいことになっていて・・・」

 ワイバーンからの攻撃があったのか、カルティニは端末の方に釘付けになっていた。

 サリファは必死に端末に向かって格闘しているカルティニの肩にそっと手を置くと

「頑張ってね、カルティニ。」

と小さくつぶやく。

 それを聞いて、カルティニは小さな笑みを浮かべる。

 それは、今までSALIDの戦士として戦ってきた時には全く見せたことのない、とても優しい表情だった。

 そのカルティニの表情を見て、サリファも笑みを浮かべる。

 そんな二人の傍にいた奈央は不思議に思った。

(サリファ様とカルティニさんって、本当はどういう関係なんだろう?)

 何ていうか、この2人の間にはとても強いつながりがあるような気がする。

 奈央はほんのわずかな2人のやりとりを見てそう思った。


 さて、ここで一馬の乗っている武装バイク、ここでは一馬の名前を尊重してハイウェイスターと呼んでおこう。

 一馬はハロルド号と並走していたが、しばらくすると一気にハイウェイスターの速度を落とす。

 そのため、後からハロルド号を追いかけていたアークライダーに一気に抜かれることになった。

 この頃になると、周囲にはアークライダー以外の車はいなくなっていた。

 おそらくアークライダーが出撃した時点で、一般車には高速を降りるかパーキングに入るよう指示があったのだろう。

 従って、一般車を巻き込む心配はなく、思う存分暴れることができる。

 ハイウェイスターに乗っていた一馬も有騎もそう思った。

 一度速度を落としたハイウェイスターは、アークライダーの後方に回り込むと一気に加速する。

 これで、敵のアークライダーをハロルド号とハイウェイスターで挟み撃ちにしたことになる。

「それじゃあ、一気に叩き潰すぞ有騎。」

「OK、任せておけ。」

 有騎はそう言うと、携帯していた狙撃銃を構える。


 車内ではサリファと奈央がモニターで車外の様子を見ていた。

「ところで、どうしてユウキまでバイクに?」

 モニターで外の様子を見ていたサリファが奈央に尋ねる。

「サリファ様は知っていると思うけど、アークライダーは前方の敵を追いかけて迎撃するために作られたものだから、前方に武器が集中しているんだよね。

 だからアイツらとは、ああやって後方に回り込んで戦った方がいいってわけ。」

「なるほどね。」

「一馬がバイクで後方からアークライダーに近づいて、有騎がアークライダーを攻撃する。」

 バイクの後方で、有騎が大きめの狙撃銃を構える姿がモニターに映る。

 あんな武器、さっき有騎は持っていただろうか?

 バイクに乗る時には何も持ってなかったはず。

 じゃあ、あの武器は一体どこにあったのだろう?

 サリファは不思議に思った。


 アークライダーは、前方のハロルド号を執拗に攻撃していた。

 アークライダーは基本的に前方を走る敵を撃破するための無人兵器である。

 従って、抵抗勢力を排除できる武装も主に前面に備えていた。

 アークライダーは自立型と非自立型の2種類があり、今回攻撃してきているのは非自立型である。

 非自立型のアークライダーの場合は、モニタリングしている人が状況に応じて攻撃指示を出す。

 今回の場合は、ワイバーンで追跡している風宮伊織がアークライダーを制御していた。

 だが、ハイウェイスターで有騎が構えた武器を見て、伊織は只ならぬ危機感を抱く。

「アイツ、後方から何か撃とうとしているな。」

 だが、あくまでも第一目標はハロルド号の撃破である。

 後方のバイクは二人だけだし、第一目標を先に撃破してからゆっくりと倒せばいい。

 伊織はそう考えた。

「アイツらが攻撃する前に、先に車を吹き飛ばしてやる。」

 アークライダーの前方からは、小型ミサイルが装備されていた。

 伊織は、そのミサイル発射準備を行なうようアークライダーに指令を出す。

 すると、アークライダー前方のミサイル発射口が開く。

 だが、次の瞬間、発射口のミサイルが爆発すると、アークライダーが次々と大破していく。

「何だと!?」

 伊織は何が起こったのかわからず、録画していた記録映像を見る。

 映像では、ミサイル発射口が開いた直後に、背後の有騎の持つ武器から何か放たれて、ミサイルを破壊していた。

「あの武器はハンドレールガンか!?」

 伊織は有騎の武器の破壊力に驚いていた。


「相変わらずすごいな、そいつの威力は。」

 一馬は大破したアークライダーをかわしながら、ハロルド号とアークライダーの背後を追尾していた。

「おっと、アークライダーがこっちを攻撃対象にしたみたいだぞ。」

 アークライダーは速度を落とすと、ハイウェイスターの背後に回り込もうとする。


「ユウキの持ってるあれは?」

 モニタを見ていたサリファは目を丸くしていた。

「あれはライディーン、私が作ったハンドレールガンだよ。」

 奈央がサリファにそう説明すると、サリファは驚いた表情で今度は奈央の方を見る。

「ナオ、キミは武器とかも作れるの?」

「私はこう見ても機械に強いんだよ。

 って言いたいところなんだけど、本当はウチの技術部がほとんど作ったもので、私が作った部分なんてほんのちょっとなんだけどね。」

「でも、ナオも少しは作ったんでしょ。」

「ウン、まあね。」

 奈央がそう言うと、サリファは尊敬のまなざしで奈央を見る。

「すごい・・・すごいよ、ナオ。」

 そして、奈央の手を取って大はしゃぎする。

 そんなサリファの姿を見て奈央は思う。

(サリファ様って、大人っぽいのか子供っぽいのかよくわからない人だ。)

 だが、自分の作ったものを見て喜んでくれるのは悪い気分ではない。

 とはいえ、ここまではしゃいで喜んでるサリファの姿を見ると、少し照れくさくも感じた。

「そ、そんなことより・・・そろそろ有騎が攻撃するよ。」

「えっ!?」

 奈央の一言で、サリファは奈央の手を放すと、子供のように再びモニターに視線を向ける。

 本当にこの人はディルスターのお嬢様なのだろうか?

 目の前で無邪気な表情を見せるサリファを見て、奈央はそんなことを思った。


「来るぞ!!!」

 一馬の声とほぼ同時に、アークライダーが機銃掃射を開始する。

 凄まじい銃撃が有騎と一馬に襲いかかる。

 しかし、銃弾が有騎達に届くことはなかった。

 有騎達の周りに貼ってある半透明の電磁バリアが、銃弾を全て遮断したからだ。

「後方は狙いが難しいんだけどなあ。」

 有騎はぼやきながら、いつの間にか持っていた手鏡を覗き込む。

「こんなものか。」

 有騎は銃口を背後に向けると、すかさず引き金を引く。

 次の瞬間、銃口から弾丸が放たれると、敵の先頭のアークライダーに見事に命中する。

 アークライダーは倒れると爆発する。

 後方にいたアークライダーは、先頭のアークライダーの爆発に巻き込まれて転倒する。

 だが、一機だけは回避すると、再び追撃してくる。

「まだ一機残ってるぞ。」

「ったく、しつこいな。」

 有騎は再び銃口をアークライダーに向ける。

「電磁バリアの有効時間があと5分しかないぞ。」

 一馬が有騎に向かって叫ぶ。

「それだけあれば十分。」

 有騎は鏡を覗き込みながら静かに狙いを定めて、ゆっくりと引き金を引いた。

 有騎の放った銃弾は、アークライダーの中枢に命中すると、そのまま転倒して爆発する。

「よし、とりあえず仕事は終わりだ。」

 有騎は前方の一馬とハイタッチすると、ハロルド号と並走する。


「ねえねえ、あれの原理は一体どうなってるの!!?」

 さっきからサリファは奈央の襟元を掴んで揺さぶっていた。

「く、苦しい・・・サ、サリファ様・・・」

 のどの奥から絞り出すように声をあげると、サリファはようやく奈央を放す。

「ゴ、ゴメン・・・ナオ・・・」

「ゴホッ、ゴホッ・・・も、もう・・・大丈夫・・・」

 奈央は何とか呼吸を整えると、サリファの方を見る。

「R.D.シューターはただのバイクじゃなく、戦闘用に特化したバイクなんです。

 電磁バリアもその一つで、自分の周りにドーム状の電磁バリアを貼ることができるんです。

 とはいえ、普通のバイクにそんなバリア貼ったら、あっという間に計器が壊れちゃうので、そこは色々と工夫してるんですよ。」

「へえ、そうなんだ。」

 サリファは目を輝かせながら、奈央を話を聞いていた。

「有騎のハンドレールガンは、あの電磁バリアと同じエネルギー源で、まああのバイク専用の武器ですね。」

「でも、あの武器、一体どこに持ってたの?さっきまであんな武器持ってなかったよ。」

「ああ、あれは普段はあのバイクに収容してるんですよ。」

 モニタを見ると、有騎がハンドレールガンをバイクの右側の車体に刺すように収納していた。

「ついでに、有騎の持っていた鏡もハイウェイスターの一部で、あれで照準を合わせることで弾丸の軌道をある程度調整できるようになってるんです。

 周囲に貼っている電磁バリアを調整することでね。

 まあ、調整できると言っても、角度的には2,3度程度なんだけど・・・」

「すごい・・・」

 サリファは、目を輝かせながら奈央を見つめていた。

「ナオ、ユウキ、カズマ・・・3人ともすごいんだね。」

「確かに、私はすごいけど、一馬はバイク運転しているだけだし、全然大したことないよ。

 有騎もいつもはあんなに撃退できないんだよ。」

「えっ、そうなの?」

「うん、アイツは周りに車があると、途端に攻撃できなくなるんだよ。

 周りの車を巻き込むのが怖いって言ってね。

 今日は車がいなかったから、平気で倒してたけどね。」

「ふーん、ユウキってとても優しいんなんだね。」

「悪く言えば、ただのヘタレだけどね。」

 奈央がそう言うと、サリファは思わずクスッと笑いだす。


「おーい、俺達を収容してくれ。」

 とその時、一馬から無線が入る。

「アンタはアホか?この状況でどうやってバイクを収容できるっていうの?」

 奈央が呆れながら一馬に返信する。

「確かにハイウェイスター号は収納できないけど、有騎だけなら収容できるだろ。」

「ちょっと・・・まさか高速で走ってる状態で、こっちに飛び移ろうって言うんじゃないでしょうね?」

「その、まさかだ。」

 有騎が会話に割り込んでくる。

「有騎、一体どういうつもり?」

「奈央、お前、燃料入れ忘れただろう。」

 有騎がそう言うと、奈央は「あっ」と声をあげる。

 恥ずかしいラベルを貼る暇があったら、燃料を入れておけと一馬は言いたくなったが、初めての遠征であまり責めるのもかわいそうだと思って、その言葉をぐっと飲み込む。

「このままどこまで並走しないといけないかわからない状況だ。

 少しでも燃費を良くするために、俺はそっちに戻る。」

「ゴメン、有騎、私のせいで・・・」

「いいさ、俺も奈央もこんな大遠征に参加するのは初めてだしな。

 そんなことより、右側の扉を開けてくれ。

 バイクを接近させて飛び移る。」

「気をつけてね、有騎。」

 奈央はそう言うと、制御端末の方に向かう。

 奈央が端末のスイッチを入れると、右側の扉が開く。

 右側の扉は車内に入る時に使っている扉だが、走行中は自動的にロックされるので、開ける時にはこうしてロックを解除する必要があった。

「よし、バイクを近づけてくれ。」

 バイクはハロルド号に並ぶと、扉のすぐ近くを並走する。

「でも、この先でまたアークライダーが出てきたら、一馬は無防備になってしまうな。」

 有騎が一馬にそう言う。

「そうなったら一目散に真っ先に逃げるさ。

 幸い少しバリアエネルギーも残ってるしな。」

「その時は、ハロルド号から援護射撃するよ。」

「ああ、頼んだぜ。」

 一馬はバイクをハロルド号に近づける。

「やっぱり少し怖いな。」

 有騎が小さな声でそうつぶやく。

 だが、いつまでもこのままでいるわけにもいかない。

 有騎は一度深呼吸すると、覚悟を決めて、ハロルド号の扉の横にある手すりにつかまり、バイクから体を離す。

 そして、素早くハロルド号に飛び移る。

 何とかハロルド号に戻ることができて有騎は安堵する。

 有騎は一馬に手を振ると、車内に入り扉を閉めた。


「有騎おつかれ。」

 いつの間にか、有騎の後ろには奈央が待っていた。

「わっ、びっくりした。」

 有騎は奈央に気づいていなかったらしく、奈央に声をかけられて驚く。

 その有騎の驚く声で、奈央も驚く。

「な、なに驚いてるの?」

「い、いきなり声かけるからだ。」

「わ、悪い。」

「もういいよ。そんなことより、敵の動きはどうなってる?」

「あっ、今のところ動きはないみたい。ただ、あの武装ヘリはついてきているみたいだけど。」

「そうか。」

 有騎と奈央が中に入ると、サリファが近寄ってくる。

「ユウキすごいね。私、ちょっと感動したよ。」

 サリファは有騎の手を握り締めて、少し興奮した様子で有騎の方を見る。

「いやあ、それほどでも。」

 有騎は少し照れながらそう答える。


「まさか!!!」

 とその時、カルティニが大きな声をあげる。

「どうしたの?」

 サリファがカルティニの元に近づく。

「ワイバーンにロックオンされた。ミサイルを撃つつもりだ。」

 カルティニがそう言うと、車内は騒然となる。

 アークライダーに搭載されているミサイルは車を吹き飛ばすためのものなので、威力はかなり抑えられていた。

 だが、戦闘ヘリワイバーンに搭載されているミサイルは、軍事用のミサイルである。

 その破壊力は、アークライダーのそれとは比較にならない。

 ミサイルを撃てば、高速道路ごと吹き飛ばしてしまうことだろう。

 そうなったら被害甚大である。

「まさか、いくらなんでも・・・もうすぐ神戸に入るってのに。」

 奈央の表情が強張る。


 ハロルド号はもうすぐ神戸に到達しようとしていた。

 元々神戸は大都市であったが、北関西州の州都になってからさらに人口が増え、今では人口が500万人を突破していた。

 そんな大都市のど真ん中を阪神高速が横断しており、有騎達の乗るハロルド号はその阪神高速をつき進んでいた。


「依然としてロックオンされたままだ。まさか、本当に撃つつもりか!?」

 有騎はディスプレイのロックオンの文字を見つめていた。

「大丈夫、カルティニなら何とかしてくれる。」

 サリファが硬直する有騎の肩をポンと叩くと、ニコッと微笑んだ。

「とにかく、このまま車を走らせて。」

 サリファは運転手にそう言うと、カルティニの元に向かう。


「どう、カルティニ?」

 端末に向かっているカルティニの顔を覗き込む。

 さっきからカルティニは、モニターしながらしきりにキーボードを叩いていた。

「任せてください。これで行けるはずです。」

 カルティニは端末にタイプを完了すると、Enterキーを押した。

 しばらくすると端末に何やらズラズラと文字が表示される。

 それと同時に、別のモニタで覗きこんでいた奈央が驚いた表情を浮かべる。

「嘘っ、敵のロックオンが解除された!!」

「ねっ、カルティニに任せておけば大丈夫だって言ったでしょ。」

「一体何をやったんですか?」

 奈央はカルティニに尋ねる。

「ちょっとばかり逆ハッキングを仕掛けただけだ。」

「すごい!!!」

 逆ハッキングと聞いて、奈央は目を輝かせながらカルティニに近づく。

「一体どうやったんですか?詳しく教えてください。」

「いや、そんな大したことは・・・」

「またまた謙遜しちゃって。凄腕のハッキング技術を私にも教えてくださいよ。」

 それからしばらく、カルティニは奈央につきまとわれることになった。


「一体何が起こった!?」

 戦闘ヘリで追撃していた風宮伊織は、突然の制御不能状態に苦しんでいた。

 本部からミサイル発射命令が出た時は歓喜した伊織であるが、まさかの発射トラブルに四苦八苦していた。

「ダメだ、全然操作できない。」

 その時、大阪にあるディルスター本部から通信が入る。

 パネルに映し出されたのは、日本のSALIDを統括するライー司令官からだった。

「司令官!?」

 まさかの司令官の登場に驚く伊織。

 しかし、ライーは伊織の様子を気にすることなく命令を下す。

「何をしている。さっさとミサイルを発射しろ。」

「それが、突然こちらの操作が一切効かなくなってしまい・・・」

「何だと!?」

 ライーは一瞬驚いた表情を浮かべるが、すぐに何かを思いついたのか、近くにいた部下に何やら調べるように命じた後、伊織に話しかける。

「機銃は操作できないか?」

「いえ、全ての武器が操作できません。」

「ワイバーンの武器は複数のシステムで管理されており、どれかがダウンしても別のシステムで制御可能なはず。

 全ての武器が一度に使えなくなるなんてことは通常考えられない。となると・・・」

 ライーはそう言うと、先程調査を命じた部下の方を見る。

 しばらくして部下からメモを受け取り、メモの内容を確認すると、やはりと静かにため息をつく。

「伊織、どうやらワイバーンのシステムは逆ハッキングされたようだ。」

「なんですって!?」

 伊織は驚いた表情を浮かべる。

 敵のシステムに侵入してハッキングしたつもりが、逆に潜入されて逆ハッキングを受けたのだ。

 しかも、相手は戦闘ヘリの全ての戦闘制御システムを一斉に使用不能にしてしまった。

 ディルスターの軍事セキュリティシステムはSL3以上であり、このワイバーンに搭載の戦闘システムもSL3である。

 普通は侵入することすら不可能である。

 しかし、敵は侵入するだけでなく、全システムを制御不能に陥れたのだ。

 こんな高難易度な技を、レジスタンスふぜいができるわけがない。


「まさか、アンノウンの中に凄腕のハッカーがいるのですか?」

 伊織がそう言うと、ライーは首を横に振る。

「SL3のハッキングなど、どんな凄腕ハッカーでも侵入不可能だ。

 だが、高いセキュリティレベルのアカウントを使い、敵の油断をつけば不可能ではなくなる。」

「ということは、ま、まさか・・・これを行ったのは・・・」

「あの車には、サリファとカルティニがいる。

 サリファはセキュリティレベル5のアカウントを持っている。

 恐らく、サリファのアカウントを使い、カルティニがハッキングを行ったのだろう。

 アレはSALIDでもサイバーテロを扱う部隊にいたことがある。」

 ライーに説明を受け、伊織は察する。

 自分の油断がこの事態を招いたことに。


「では、まさか奴らは・・・」

「そうだ、カルティニは貴様のつないだセッションを逆利用して侵入を試みた。

 どうせ貴様は、最初のハッキングで敵の端末とつなぎっぱなしにしていたのだろう。

 セッションからDICTの特定は、SL5アカウントならゼウスネットワークを使えば容易に特定できる。

 戦闘ヘリのシステムのDICTが特定できれば、SL5アカウントを使えば外部から容易にアクセスして制御できる。

 しかし、複数のシステムを一度に制御不能にするとか、権限を持っているとはいえ並の技術力ではないな。」

「申し訳ありません。まさか、敵に侵入されるとは思ってもいませんでした。」

「いいか、アルシア公の性格は知っているだろう。

 失敗したら、ディルスターグループからの追放もありえるぞ。」

 ライーの言葉に、伊織の表情が引きつる。

 また、ディルスターグループから追放されて、惨めな生活には戻りたくない。

「わかっています。私にお任せください。」

 伊織の表情が険しくなる。

「だが、全ての武器が使えない今、どうやって殺すつもりだ?」

「このヘリには、墜落時に備えていくつかの武器が装備されています。

 これらの武器は、ハッキングの影響を受けていないので使用できるでしょう。」

「よろしい。ではそれらを使い、直ちに敵を撃破せよ。」

 ライーはそう言うと通信を切る。

「こんなチャンス、もう二度とやってこない。絶対にやり遂げて見せる。」

 伊織はヘリの操縦を自動追尾モードに変更すると、武器の置いてあるヘリ後方へと向かった。


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