カミナリヤ
最近は「ストレス社会」と言われて久しい。
なんでもかんでも「ストレス」を理由にして、まるでなにかの免罪符のようだ。
ストレス、と言えば聞こえがいいが、実際本当の意味でのストレスを知り、ストレスで悩んでいる人間は少ないのではなかろうか・・・?
と、彼はふと思う。
* * *
彼は電車を待っていた。
アナウンスとともに滑り込んできた電車は手ごろに空いていた。
乗り込んで、目の前の開いている席に座る。
ベビーカーから子供を抱きかかえる母親。
ふんぞり返って座っている金髪の男。
膝の上でノートパソコンを開いているサラリーマン。
けたたましく笑い声を上げる制服姿の女子高生。
車内の乗客は、だいたいそんな感じだった。
「うそー、マジぃ・・・それ、きもくね」
「キモーイ」
優先席にどっかりと座り込み、大声を張り上げて話す女子高生が目に付く。
5人組の彼女等は、大声で話を続けながら、携帯をしきりにいじるもの、カバンの中からポーチを取り出し化粧を始めるもの、菓子パンにかぶりつくもの、様々だ。
怒りが込み上げたが、彼はそれを深呼吸で押さえ込む。
♪ピロリロ〜ラ〜ピロ〜リ〜ラ〜
「あ? 俺。なに? いま? 電車ン中・・・あぁ、大丈夫。うん、それで・・・。そう。いいよ、いまから? ん〜じゃあ・・・いまから行くけど、うん。そう、え、マジ?」
携帯が鳴るとともに通話を始める男。
これにも怒りが込み上げたが、彼は同様に深呼吸でそれを耐える。
車掌のアナウンスとともに、次の駅へ到着し、通話を続けたまま男は電車を降りる。ほっとしたのも束の間、ランドセル姿の子供たちがバタバタと乗ってきた。
奇声を発しながら車内を走り回る子供たち。車内は一気に騒然として・・・
ぎゃあーー
母親の腕の中で幼子は火がついたように泣き出した。
彼は深呼吸を繰り返す。まだだ。まだ我慢しなければ・・・。
泣き叫ぶ子供の声と、おろおろと慌てながらあやす母親を傍目に、子供たちは車内を走り回り、女子高生たちは「超ウゼェ」「マジムカツク」などと連呼しながら母親を睨み付けている。
そんな中、平然とパソコン画面を黙々と眺めるサラリーマン。
彼は、怒りをこらえる。
限界に達するまで、彼は我慢をしなければならない。
怒りのあまり握った拳は震えている。顔は真っ赤で、こめかみには血管が浮いている。
それでも彼は耐えなければならない。
泣き止まない子供。
走り回り奇声を発する子供たち。
完全に無視を決め込むサラリーマン。
「ウザイ」を連呼する女子高生・・・・・・
『次は〜●●』
お構いなしにさわやかな声でアナウンスをする車掌。
ホームへ滑り込む電車。乗り込んできたのは・・・
「ちょっと奥さん、ココあいてるわよ」
「ホラ、早くしないと・・・」
「大丈夫、ほら場所とったから」
「ありがとう助かるわぁ」
どやどや乗り込んできた大荷物を抱えた中年女性の群れ。
「ちょっと、ここ、少しずれてくれません?」
「ホラ奥さん、ココ、ココ」
彼の怒りがピークに達した。
深呼吸とは違う、大きな息を肺いっぱいに吸い込むと。
「いい加減にせんか、この馬鹿者っ!!!」
電車の窓がビリビリと震えるほどの大音声で、彼は叫んだ。
「おい、クソガキども。電車の中を走り回っちゃいかんと学校で習わなかったのかっ」
「おい、そこの馬鹿娘。口を開けばウザイのキモイの・・・それしか言葉を知らんのか」
「そんなに仕事が大事か。仕事以外は興味がないのかダメサラリーマン」
「煩いババァども、荷物で場所取りをするのはたいがいにせぇ」
彼は一気にまくし立てる。
あらぬ限りの罵詈雑言を、子供に、女子高生に、サラリーマンに、中年女性たちに向かって吐き続け。
ひとしきり不平不満をぶつけると、酸欠状態で、息も絶え絶えになった。
肩で息をする。
* * *
「いや〜。今日も良かったですなぁ」
「えぇ、ほんとに。さすがに違いますね」
「うん、すっごく怖かった」
「おじぃちゃん、かなりイケテル〜」
「マジ イケテル感じ」
次の駅へ到着し、扉が開くと同時にスッキリとした笑顔で子供たちが、サラリーマンが、中年女性が、女子高生が降りていく。
「お疲れ様でした」
笑顔の車掌が、彼に向かってそう言う。
「今日もよかったですよ」
「そうか」
「はい」
車掌の言葉に彼は笑顔で席から立ち上がる。
「では、今日の分です」
「すまんのぅ」
「いえいえ」
車掌から茶封筒を受け取り、彼はそれを内ポケットに突っ込んで電車を降りる。
駅のホームかと思いきや、そこは駅によく似た・・・良く似せた店内。
「最近の方はねぇ・・・ストレス溜めて本当はこう、誰かにぶつけたいのに、自分でやるといろいろ問題あるから・・・」
車掌姿の男性が、ぼやくように彼に言う。
「まぁ、だからこそ、こういう商売もできるのですがね」
「・・・・・・」
「じゃあ、明日もよろしく頼みますよ」
笑顔でそう言われて、彼は黙って頷き、店を後にする。
扉を閉めて、振り返る。
【雷親父のいる店 カミナリヤ】
扉にかかっている看板を見て、彼は溜息。
さて。
このストレスはどこで晴らせばいいのだろう?
すみません。なんか即興で一気に書いた作品で…
支離滅裂ですみません。