-4- 星占い
目覚めの悪い朝だった。こんな日に限ってやけに朝日が目に染みるほどに輝いてやがる。だからカーテンは遮光性の高いものにしてくれっつったのに。
頭をバリバリと掻きながら、枕元の携帯電話を手に取った。なんだ。まだ八時じゃねーか。いつもならチャリンコぶっ飛ばしてバイトに向かっている時間だ。
そうだ、俺は今日から無職になっちまった。ふと、昨日の店長の申し訳なさそうな顔と言葉が浮かんでくる。
「本当に悪い。もっと早く伝えるべきだったんだが、色々とあって」
「そうっスか……」
とは答えて納得した振りをしてみたが、当然のごとく納得なんてしちゃいなかった。まさか無職で年を越すことになるなんて想像もしていなかった現実。
バンド解散、バイトをクビ。一体この負の連鎖はなんなんだ。昨日の朝にテレビでやっていた星占いは一位だった筈だ。大体あの手の占いなんてもんは、順位が低い方が当たるんだ。バカにしやがって。と、ブツブツ文句を垂れながら、部屋のテレビでその星占いを観ている俺がいる。
「――今日の蟹座のあなた! おめでとうございます! 二日連続の一位です! 突然の恋のチャンス。あなたの魅力が最大限に発揮できる一日です」
なんだろう、このモヤモヤっとした不安な占いは。二日連続で同じ星座が一位なんて今まで聞いた事がないぞ。なるほど、俺の凹み具合を案じてわざわざテレビ局が調整してくれたんだな。
「……あほらし」
バカな考えで自分を慰めるのにも限界がある。再び布団を被ってふて寝を決め込もうと思ったら携帯電話が鳴りやがった。
「おはよう」
「おはようございます」
「悪いね、朝から」
「いえ、大丈夫ですよ。いつもならもうスタジオに居る時間なんで」
「ハハ、そうだったね」
店長からだ。聞けば今月分の給料を早速払ってくれるらしい。ま、そういうことなら貰っておかなきゃな。
身支度を済ませて家を出ようとする俺に、オカンが怪訝な顔で問いかけてきた。
「今日はやけにゆっくりじゃない」
「え? んぁ……。いってきまーす」
オカンにはまだ何にも話してない。大学進学もせず、音楽に打ち込みたいと半ば強引に押し切った二年前の高三の俺。バイト代からわずかでも一応家に金は入れてきたからか、何とか親からのプレッシャーをかわし踏みとどまっていた。
でも、その音楽も、仕事までも失っちまった今、何を言えるのか。オカンはともかく、もう一年近くマトモに口も訊いてないオヤジになんてなおさら……。
うつろな顔でチャリンコを漕いでいるのが自分でもよく分かる。もうこんな清々しい朝にスタジオへ駆けつけることも無いのか。何だか感慨深い反面、突き付けられている現実を何とか振り飛ばしたい一心でもあった。
「おはようございます」
「あぁ、悪いねわざわざ」
スタジオのドアを開けると店長が忙しそうに片付けを始めていた。店長のやつれた顔から、昨日会員の常連さんらにひたすら謝り続けた疲労感が伝わってくる。
「店長、別に俺は今ヒマですから、手伝いくらいしますよ」
「ありがとう、でもな、これ以上君に迷惑はかけられんよ。こんな急な話になったことは本当にすまないと思ってる」
「はぁ」
何か引っかかった。店長は何かを隠している。俺には何となく分かったんだ。俺はその理由を尋ねてみたのだった。