いろんな悩みがあるものさ。
「落ち着いたか?」
涙が止まった様子の美少年に声をかける。
「すみません。初対面で女の子だと分かってくれた人は初めてで」
「やっぱり、そういう落ちか」
「え?」
小首を傾げての疑問符を頭を撫でてやることではぐらかす。感動は大事に扱わないと。
裏切られると殺意に変わるから。
「というか君」
「朝貴です、古野朝貴。いいですか、朝貴です朝日ではありません。あぁさぁきぃ、ですからね」
何故か熱心に売り込んでくる勢いに飲まれる俺。復唱させられる始末だ。
「とにかく、朝貴は何で地獄に堕ちたんだ?」
名字で呼ぼうとして噛みつかんばかりに睨まれたため、名前の朝貴で呼ぶことにする。
「沢山の人に嘘を吐いたからだそうです」
言いながらまた涙を滲ませて、朝貴は続ける。
「私は性別を偽った事なんてありません。みんなが勘違いするだけで本当の被害者は私です!」
堪えきれず再び溢れ出す涙を拭う朝貴。
不当判決で地獄に堕ちた奴、俺以外にもいたんだ……。
その事実に感動するより呆れてしまう。閻魔のバカ、耄碌してんじゃねえのか?
特に悪事を働いたわけでもないなら根は善良だろう。
俺が地獄行きになった理由も伝えておく。朝貴は自分の事のようにいや、自分の時より更に憤った。
「この古野朝貴、あなたの無実を信じ、たとえ地の果てだろうとお供させていただきます!」
ヒートアップして両拳を握り締め『打倒閻魔』を誓う朝貴。
そんな訳で美少年、じゃないボーイッシュ少女の古野朝貴が仲間に加わった。
それは良いとして、問題はあの鬼だ。
「あれなんですか?」
俺の視線の先を辿ったらしい朝貴が誰にともなく問う。朝貴が俺に「答えまだ?」と言いたげな視線を向けてくるがここは無視する。質問は先生にしましょうねぇ。
そうじゃなくて問題なのはあの鬼が持っている2m程の鉄の棒。朝貴との会話中ずっと横目で見ていたがあの鬼は棒を丹念に削っていたのだ。
「あぁ、針ですね。きっと」
不意に朝貴が掌を合わせて納得する。
「そうか針地獄に使うのか」
一本づつ鬼が削っているとは。こんなとこで職人魂を発揮せずともよかろうに。
俺達の話声に気付いたのか、鬼が振り返ったと思うと針を担いでやってくる。その顔には閻魔達と同種の笑みが浮かべられているのに気付いた。
「朝貴、いつでも動けるようにしとけ」
俺は注意を促して逃げる準備を整えた。
次は戦闘かな?