地獄行きなんて納得いかない!
閻魔と名乗ったのは確かに厳つい顔をしたバカにデカい鬼だった。
「ずいぶん悪事を働いたようだな」
ギロリとこちらを睨む閻魔を前に俺は頭に疑問符を浮かべる。
「何を勘違いしてんだこのバカは」
「聞こえとるぞ!」
ビリビリ響く声で怒鳴られる。噂に違わぬ地獄耳。
閻魔は手元の資料をぱらぱらとめくり始める。
「まず、貴様の死因が問題だ」
そう言われて思い出すのはほんの数分前の事。
俺は木から降りられなくなって困っている猫を助けようとよじ上ったのだが、運悪く居眠り運転の乗用車がその木にぶつかり、衝撃で木から振り落とされ頭を強打し数時間後に死亡した。
何の事はない、事故死だ。
「どこが問題なんだよ?」
「自覚もないとは、よかろう教えてやる」
一つ目、近くで遊んでいた子供たちにトラウマを与えた。
二つ目、乗用車に乗っていた男の社会的信用をなくした。
三つ目、大量の血を流す事で公園の清掃をさせた。
四つ目、公園を使用禁止にする原因を作り子供たちの遊び場を奪った。
閻魔が苦い顔で言うには俺が死んだことで以上の不幸が起きたという。
「言いかがりじゃねえか! 一番の不幸は俺が死んだことだろっ!」
閻魔に食ってかかる。最近の若者は切れやすいとの批判はあるが知ったことか。
「大した損失ではない」
……この野郎。閻魔の隣で腹を抱えて笑っている赤鬼は後で始末するとして、これで地獄行きなんて不当判決も良いところだ。
「では判決を言い渡す」
閻魔が俺を虫けらでも見るような目で見据える。
「ちょっと待ってくれ」
納得のいかない俺は待ったをかける。
瞬間、足下から嫌な風が吹き上がった。続く浮遊感、閻魔が天井へ登っていく。いや違う。
「あぁ、俺が落ちてるのかぁ」
一度死んでいるせいか緊迫感がない。ニヤニヤ笑っていやがる閻魔たちがムカつくので俺は心に復讐を誓った。
「首洗って待っていやがれぇ!」
主人公が地獄に行きました。