第22試合 埼玉英修学院戦②
もうこれ以上は負けられない、ダブルス。
向こうは先程早坂を一蹴した、主将・北大路と、表裏速攻タイプの高1、赤田朗。
こちらは表ソフトのスマッシュ使い影山と、全国模試2位の鹿鳴館だ。
「では、埼玉英修学院対光栄高校のダブルスをはじめます。コイントスを」
主審が投げると、表が出た。
埼玉英修学院のサーブで始まる。
ここで、こちらの作戦を明らかにした。
そもそも卓球は、テニスやバドミントンと違い、ダブルスは交互に打たなくてはならない。
しかし、こっちはそんな正攻法では勝てない。
とくに、カゲとロクでは。
サーバーは北大路。レシーバーはロク……のはずだが、ロクはすでに相手に裏面を向けてバックで返す気満々だ。
しかも、次に打つカゲはロクの横ではなく後ろにいる。
そして。
ロクはずっと、左手にラケットを持っている。
「小田切先生」
慌てて聞いてみた。
「普通にやって勝てる相手じゃない。垂木くんのを参考にしたわ。ロクには基本左で粒高で返してもらって、浮いた球を影山に仕留めさせる。赤田くんを、悪いけど集中的に攻める。幸いロクは両利き(※1)だから、食事は左利き」
「それって、行けるんですか?」
廣瀬が聞くが、
「これしかないのよ」
小田切先生は苦渋の表情だ。
北大路のサーブに、「シャシャシャ!」と奇声をあげてロクが粒で合わせる。
そして、台の下で指で左を示した。
「あれ、まさか……」
廣瀬が呟くと、赤田のレシーブは、ロクの指した方向へ上がった。
高さはないが、カゲは表ソフト。直線的な攻撃は大得意だ。
「ふっっっっっっ!」
回り込んで、フラットにスマッシュ。
北大路のバックサイドを切っていった。
あれは、まさか。
「ロクに託したの。あの子の頭脳なら、相手のレシーブ方向を読むことも、できるかも……ってね」
小田切先生はまだ渋い顔のままだ。
確かに今のはうまくいったが、続くとは思えない。
今度の北大路のサーブは意表をついてロングの横回転、サイドを抉った。
「ヒャハハハァ!甘ェェェ!」
ロクは右手に持ち替え、大石ばりのカーブドライブを北大路方向へ曲がりつつ放った。
「なっっ!!」
赤田は追いつくことはできない。2-0。
「あれ?おれが両利き(※1)なの知らなかったのか?クロスドミナンスなんす、ってな。意味違うけど」
「君、私語は控えなさい。次やりすぎると、埼玉英修にポイントを与えます」
前の試合のときのように、主審から声が飛ぶ。
「はい、申し訳ありませんでした。以後、気をつけます」
いつものように、主審と赤田・北大路に深く礼を返す。
ルールに則った、ギリギリのラインだ。
サーブ変わって、ロク。
なんと王子サーブを出した。しかも粒のほうだ。
レシーバーの赤田が混乱し、オーバー。
「もいっっちょいくぜェ!」
2連続の王子サーブ。
しかも、打つ直前で台の下で右に指を出してカゲに指示している。
おそらく打つ直前に裏ソフトにして、右にレシーブするように回転を変えている。
「赤田!バックスマッシュ!」
北大路の声を聞き、赤田が思いきって振り込んだ。
スパン、とカゲの届かない方向へスマッシュが決まった。
『王子サーブは横か純横しかない。振っていいぞ』
『ありがとうございます』
「やるじゃ、ねええええかぁぁ。でも、そううまくいかないだろぉぉ。カゲ、作戦通り全部頼むぜぇぇぇ!」
「わかった。ここからは、『蜘蛛の巣』だぜ、お前ら」
暗く、不気味な声をカゲが出す。珍しい演出をカゲがした。
ちょっと照れている様子だったけどな。
ロクのコーチングと頭脳プレー。
煽り、駆け引きがつづいた。
しかし、百戦錬磨の北大路はともかく、赤田はロクの頭脳プレーに全部引っかかった。
経験値が足りなさすぎた、というより、ロクの煽りに、乗っかってしまった。
いや、赤田が高1とはいえ、ロクも高1から卓球をはじめたのだが……
煽り。騙り。嘘。意表。持ち替え。カット。サーブ。トス。レシーブ。回転。ロブの高さ。
すべてが、ロクの手の内だった。
11-4、11-6、11-8。
北大路には下回転のブチ切れをロク・カゲともにショートで出し、北大路に攻めさせなかった。ひたすら、意表を突く攻撃をカゲ、ロクともに行い、赤田のミスだけを待った。
何もさせずストレートでダブルスを取り、シングルス3の天堂につないだ。
ラケットを合わせにいく。
「あんた、汚えぞ!色々変な声とか叫び方とか……」
涙を流しながら、赤田がロクに突っかかる。
「こっちが素だ。俺は高1で卓球はじめた初心者なもんでな。基礎がない。俺も勝つために必死なんだ。気を悪くしただろう。すまない。謝るよ」
素直にロクがいつもの声色に戻ったことにより、赤田が驚いている。
「相変わらず、埼玉の変態プレーヤー、ここにありだな」
北大路がロクに呟く。
「今回は経験の違いだ。赤田は鍛えとくよ」
北大路の声に、ロクが答える
「そんなことしないでも、赤田くんは強い。今回は、作戦勝ち。初見殺しってやつ」
そして影山。
「ありがとう。また、附属大の練習試合行かせてもらう」
「お、影山くん大学こっち?よろしくな」
埼玉英修学院大は文武両道の学校としても有名だ。カゲは一応、そこに推薦をもらっている。
カゲは全国模試はロクにはかなわないが、数学と英語では模試全国順位1桁を取ったこともある秀才なのだ。
ベンチに戻ると大騒ぎだ。
「よくやった!ロク!お前に託して正解だった!カゲ、お前もさすが、崩れなかったな!」
「赤田くんが、素直だっただけです。北大路が2人いたら絶対勝てなかった」
ダブルスのロク。
また、違う一面を見た気がした。
※1 両利きのサッカー選手は多く、両脚どちらも同じ威力で蹴れる選手は多いが、卓球ではスウェーデンのタルルス・モーデゴード選手や、丹羽孝希選手が持ち替えてのブロックやロブを見せることがある。




