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コンビニ帰りに宇宙人を拾った  作者: 草野猫彦


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3/7

3 実在する彼女

 翌朝。

 ソラは静かに目を覚ました。

 視覚情報を取得。室内環境を確認。昨夜の会話ログを再生する。


 ――生活費。

 ――共同生活。

 ――人間社会に適応する条件。


 結論。資金の確保が必要。

 ソラはネットワークを経由し、通信を開始した。

 株式市場。仮想通貨市場。短時間での利益獲得手段を複数シミュレート。

 解決手段に到達。

 数時間で当面の生活費は確保可能。

 だがその瞬間、通信の向こうから応答が返ってきた。

《その方法は未承認です》

 ソラは少し首を傾げる。

『影響度は限定的と判断します』

《地球文明の金融市場に対する影響が不確定です》

『正規手続きによる資金供給を要求します』

 数秒の沈黙。

 そして。

《却下します》

《端末自身の行動により処理してください》

 通信終了。


 ソラはしばらく無言で立っていた。

「……なるほど」

 人間社会のルールで、生活費を獲得しろということらしい。

 ソラは次の行動を決定した。

 まず朝食である。

 冷蔵庫を開ける。

 内部の食材を確認。米、卵、味噌、豆腐、ネギ。


 レシピはネットワークから取得。

 人間の朝食データを参照。

 調理開始。

 しばらくして。

 室内に味噌汁の香りが広がった。




 タブレットに覆いかぶさるようにして、幸一は眠っていた。

 目が覚めたのは感覚への刺激。

 鼻の奥をくすぐる味噌の香りだった。

「……ん」

 ゆっくり顔を上げる。

 画面には描きかけのネーム。

 振り返ればやつがいる。

 そしてちゃぶ台の上に朝食が並んでいた。


 ご飯。

 味噌汁。

 目玉焼き。


 そしてその向こう、対面してソラがこちらを見ていた。

「おはようございます」

 幸一は数秒黙った。

「……なんで朝飯がある」

「作りました」

「なんで」

「生活活動の一環です」

 あっさり言われた。


 幸一はちゃぶ台で対面する。

 ソラの前にも同じ朝食が並んでいた。

 味噌汁を一口。

「……普通に美味い」

「レシピ通りです」

「なるほど」

 冷蔵庫の中身を思い出す。

「材料は?」

「冷蔵庫にありました」

「勝手に見たのか」

「生活共同体なので問題ないと判断しました」

 幸一は肩をすくめた。

 確かにそうだ。


 目玉焼きを食べる。

「一応自炊はしてたんだけどな」

「最近していませんでした」

「なんでわかる」

「冷蔵庫の食品状態と食器使用頻度から推測しました」

 幸一は少し感心する。

「味はどうですか」

「だから、美味しいよ」

「了解しました。次回から好みに合わせて微調整します」

「そんなことまで出来るのか」

「私の性能はこんなものではありません」

 やや自慢げである。

 幸一としてはむしろ、言葉の裏の意味を読み取ったことに関心したのだが。


 ソラはそこから続けて言う。

「生活能力は高いです」

 指を一本立てる。

「洗濯、掃除、料理、家電操作、家計管理」

 もう一本。

「ゴミ分別、電気料金計算、交通経路最適化」

 さらにもう一本。

「地域スーパーの特売情報取得」

「それはどうでもいい」

「重要です」

 ソラは真顔だった。

 幸一は笑いそうになるのをこらえる。

 そこでふと思い出した。

「そういえば」

 ソラを見る。

「ベッド、変な匂いしなかったか?」

 ソラは一瞬考えた。

「平均的でした」

「平均ってなんだ」

「成人男性一人暮らしの平均的匂いです」

 幸一はそれ以上聞くのをやめた。




 朝食を食べ終え、幸一は言った。

「今日は仕事休む」

「了解しました」

「お前の私物を買う」

「私物」

「服とか布団とか色々だ」

 そこで幸一はふと気づく。

「そもそも、お前」

「はい」

「貴重品は?」

 ソラは答える。

「ありません」

「ない?」

「昨夜、男性にホテルへ連れ込まれた時点で逃げました」

 幸一は顔をしかめる。


「財布とか」

「持っていません」

「スマホ」

 ソラは胸を張った。

「私自身がスマホです」

「はいはい」

 幸一は軽く流した。

「それでも金と身分証は必要だろ」

「その通りです」

「どうするんだ」

「検討します」

「……とりあえず俺が出すけど、後で必ず返せよ? 絶対返せよ?」

「フリですか?」

「フリじゃない」

「ではやはり夜のご奉仕で」

「現金払いだ」

 本当に大丈夫なのだろうか。




 午前。

 二人は近所のディスカウントストアにいた。

 布団。

 パジャマ。

 タオル。

 歯ブラシ。

 必要そうなものをカゴに入れていく。

 幸一は歩きながら考えていた。

「金も稼がないとな」

 ソラを見る。

「お前も」

「可能です」

「何が」

「金銭獲得」

「どうやって」

「方法は複数あります」

 そして少し間を置く。

「ですが」

「ですが?」

「アルバイトもしたいです」

 幸一は驚く。

「なんで」

「人間との直接的接触が必要です」

 観測目的らしい。

「なるほどな」

 幸一はうなずく。

「非言語コミュニケーションか」

「幸一さんの推測は正確です」


「バイト、バイトかあ。でも経歴とか……」

「履歴書は作れます」

「え?」

「鹿児島の孤児院出身。高卒」

「……」

「これは実在します」

「え?」

「行方不明になった人物の経歴です」

 幸一は歩きながら固まった。

「それ大丈夫なのか」

「問題は低いです」

「ないわけじゃないのか……」




 午後。

 二人は役所に来ていた。

 窓口でソラが言う。

「財布ごと身分証明書を紛失しました」

 ソラは落ち着いた声で言った。

(平然と言うことじゃないよな……)

 幸一は思ったが、職員も動揺せず説明する。

「確認と再交付には少し時間がかかります」

 ソラは深くうなずいた。

(……そんなのでどうにかなるのか?)

 時間はかかるが、どうにかなるらしい。


 部屋に戻る。

 ちゃぶ台の上の履歴書は、これも幸一の金で買った。

 証明写真もまた同じ。

 ソラが書いている。

 幸一は横から見ていた。

「そこ変だ」

「どこですか」

「その志望内容は、普通じゃない」

「修正します」

 そんなやり取りを何度も繰り返す。

「意外とそのあたり、人間への擬態が不充分だよな」

「仕様です。現在は適応中です」

「さよか」

(宇宙人かどうかはともかく、少し違うのは確かだな)

 機械的であって、むしろ不器用にさえ見える。


 最終的に決まった。

 応募先はスーパー。

 理由は単純。

「接触する人間が多いからです」

 ソラがそう言った。




 夜。

 夕食もしっかりと、ソラが作った。

 布団は畳まれた、ちゃぶ台の横に敷かれている。

 そしてアイマスクをして、既に就寝している。

 幸一が夜更けまで作業するため、特別に買ったものだ。


 幸一は空中を見ながら思った。

 宇宙人。

 偽履歴書。

 スーパーのアルバイト。

「……違う方向に怖いな」

 そう呟いて、また新しいネームを作成し始めた。

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