第30話 沈黙が生む反発
沈黙は、いつだって誤解を生む。
第三階層について語らない。
説明もしない。
質問されても、答えを濁す。
それを続けていたら、周囲の空気が少しずつ変わった。
「……あいつ、情報を独占してるんじゃないか?」
「自分だけ安全なやり方を知ってるとか」
「第三階層に、もう入ってるらしいぞ」
噂は、早い。
そして、都合のいい形に育つ。
ギルドの一角で、職員に呼び止められた。
「少し、いいか」
個室。
扉が閉まる。
「第三階層の件だ」
職員は、困ったように眉を寄せる。
「君が、情報提供を控えていると聞いた」
「……はい」
俺は、否定しなかった。
「理由は?」
「説明できないからです」
沈黙が落ちる。
職員は、深く息を吐いた。
「分からないなら、そう言えばいい」
「それが、問題なんです」
俺は、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「“分からない”と説明した瞬間、意味を与えてしまう」
職員は、理解できないという顔をした。
当然だ。
「危険があるなら、共有すべきだ」
「危険そのものより」
俺は、静かに続けた。
「納得が、危険です」
その言葉は、受け入れられなかった。
「……君のやり方は、非協力的に見える」
職員は、きっぱりと言った。
「探索は、個人競技じゃない」
正論だった。
第二階層までは、俺もそう思っていた。
「だからこそ」
俺は、視線を上げる。
「第三階層は、違います」
会話は、平行線だった。
部屋を出ると、廊下の向こうでエリオと目が合った。
彼は、すぐに近づいてくる。
「大変そうだね」
穏やかな声。
「……あなたが、語りすぎてる」
思わず、口に出た。
エリオは、驚いたように目を瞬かせた。
「皆が知りたがってるだけだ」
「知った結果、どうなります」
「落ち着く」
「そして?」
「……覚悟が決まる」
俺は、一歩踏み込む。
「覚悟が決まった人間は、引き返せますか」
エリオは、言葉に詰まった。
ほんの一瞬だが。
「必要なら」
「本当に?」
エリオは、目を逸らした。
それが、答えだった。
「……君は」
彼は、少しだけ声を落とす。
「皆を不安にさせてる」
「はい」
俺は、はっきり答えた。
「それが、狙いです」
不安は、立ち止まらせる。
納得は、歩かせる。
第三階層では、
歩き出すこと自体が、罠だ。
その夜、酒場で小さな衝突が起きた。
第三階層に入ろうとしていたパーティが、
俺の前に立つ。
「お前、何か知ってるんだろ」
「黙ってるのは、卑怯だ」
視線が、刺さる。
「……知らない」
俺は、正直に言った。
「だから、黙ってる」
「ふざけるな」
「命がかかってるんだぞ」
「だからです」
俺は、拳を握りしめる。
「俺が語れる“安全な話”は、存在しない」
誰も、納得しない。
だが、誰も論破もできない。
沈黙は、説明にならないからだ。
ミラが、静かに割って入る。
「この人は、嘘をついてない」
それだけ言って、俺の隣に立った。
その瞬間、孤立は確定した。
だが、不思議と後悔はなかった。
第三階層は、
人を殺す前に、
**人を分断する。**
語る者と、
語らない者。
そして俺は、
意図的に後者を選んだ。
理解されなくてもいい。
嫌われてもいい。
納得の物語が広がるよりは、
沈黙の摩擦が残る方が、まだましだ。
そう、心から思っていた。
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