第28話 集めるほど、揃っていく
証言を集めるほど、安心するはずだった。
少なくとも、普通のダンジョンなら。
だが第三階層では、逆だった。
「……増えてる」
俺は、ノートを閉じて呟いた。
数じゃない。
情報量でもない。
**同じ結論に辿り着く速度**が、異様に早い。
午前中だけで、七人。
年齢も、経験も、価値観も違う探索者たちだ。
それなのに。
「第三階層は、自分を見つめ直す場所だ」
「怖いけど、必要な体験だった」
「進むか引くかを、選ばされるだけだ」
言い回しは違う。
声色も違う。
だが、聞いているうちに分かる。
**語っている中身は、同じ物語だ。**
ミラが、腕を組んだまま言う。
「まるで、用意された選択肢から選ばされてるみたい」
「……はい」
俺は、頷く。
「しかも、自分で選んだと思わせる形で」
それが、一番厄介だった。
誰も、強制されたとは思っていない。
むしろ、満足している。
ギルドの奥で、第三階層の簡易報告がまとめられていた。
職員が、困った顔で言う。
「内容が、揃いすぎてるんです」
「揃ってるなら、いいじゃないですか」
別の職員が言う。
「危険が少ないってことだろ?」
俺は、その会話を聞いて、口を挟めなかった。
説明できない。
危険だと感じる理由が、
**“説明できないこと”そのもの**だからだ。
昼過ぎ、エリオがギルドに現れた。
相変わらず、穏やかな笑顔。
「調査、進んでる?」
軽い調子だ。
「……ええ」
俺は、言葉を選ぶ。
「証言は、かなり集まりました」
「なら、見えてきたろ?」
エリオは、当然のように言った。
「第三階層が、何を試してるか」
俺は、即答できなかった。
その沈黙を、エリオは肯定と受け取ったようだ。
「答えが揃うって、悪いことじゃない」
彼は、静かに続ける。
「混乱がなくなる。恐怖も減る」
その言葉に、反論できない自分が怖かった。
確かに。
混乱は減る。
死者も、今のところいない。
だが――
「……揃いすぎてる」
俺は、低く言った。
「現象が違うのに、結論だけが同じなのは、不自然です」
エリオは、少しだけ目を細めた。
「人間って、そんなもんだろ」
その一言が、胸に刺さる。
正しい。
正しすぎる。
だからこそ、第三階層は危険だ。
「……もし」
俺は、言葉を絞り出す。
「もし、その“答え”が間違っていたら?」
エリオは、首を傾げた。
「間違ってたら、どうなる?」
「皆、同じ方向に、間違える」
エリオは、しばらく黙った。
だが、すぐに笑った。
「それでも、納得して死ぬなら、悪くないだろ」
背中が、冷えた。
その言葉に、悪意はない。
本心だ。
納得していれば、結果は受け入れられる。
それが、人間だ。
ミラが、はっきりと言った。
「……私は、嫌」
エリオが、驚いたように見る。
「納得したまま、動けなくなるのは」
ミラは、続ける。
「生きてるって、言わない」
その場の空気が、少しだけ張り詰めた。
俺は、ノートを開いた。
新しいページに、短く書く。
――第三階層・仮説。
――証言を集めるほど、物語が固定される。
――情報共有が、最大の罠。
ペンを置く。
心臓の音が、やけに大きい。
第三階層は、
攻略情報を求める者を、
最も深く縛る。
――だから、集めるほど、揃っていく。
その事実だけが、今は確かだった。
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