第27話 同じ言葉、同じ顔
第三階層から戻ってきた探索者たちに、共通点があることに気づいたのは、その日の夕方だった。
数は、五人。
全員、別々のパーティ。
侵入時間も、深度も、装備も違う。
――それなのに。
「……同じだ」
ギルドの待合で、彼らの様子を眺めながら、俺は小さく呟いた。
全員、落ち着いている。
怪我はない。
声も、表情も、穏やかだ。
だが、その穏やかさが、どこか揃いすぎている。
「どうだった?」
新人らしい探索者が、恐る恐る声をかける。
五人のうちの一人が、柔らかく笑った。
「悪くなかったよ」
「……怖く、なかったですか?」
「怖さはあった。でも、意味のある怖さだ」
意味のある怖さ。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がひやりとした。
別の探索者が続ける。
「第三階層は、理不尽じゃない」
「ちゃんと、向き合えば答えてくれる」
「だから、無茶しなければ大丈夫だ」
言葉は違う。
だが、着地点が同じだ。
ミラが、俺の横で低く言った。
「……まるで、同じ文章を読んだみたいね」
「はい」
喉が、乾く。
「それぞれの体験なのに、“感想”だけが一致してる」
俺は、一人の探索者に近づいた。
年配の男だ。経験も、腕もある。
「何が、印象に残りましたか」
できるだけ、具体を引き出すように聞く。
男は、少し考えた。
「……言葉にすると、難しいな」
「構いません。断片で」
「断片……」
男は、目を閉じる。
しばらくして、ゆっくりと話し始めた。
「光が、揺れた」
「音が、遠くなった」
「……自分のことを、考えた」
具体的な事象は、曖昧だ。
だが、最後だけははっきりしている。
「自分のこと?」
「そう。今まで、何を大事にしてきたか」
「それが、分かった気がした」
――分かった気がした。
その言葉が、頭の中で反響する。
別の探索者にも、同じ質問をする。
返ってくる答えは、似ていた。
現象は違う。
だが、結論は同じ。
「納得した」
「腑に落ちた」
「受け入れた」
誰も、続きを語ろうとしない。
語ろうとすると、言葉が止まる。
それなのに、表情だけは晴れている。
「……これ、危険だ」
俺は、思わず口に出していた。
ミラが、静かに頷く。
「ええ。第二階層より、ずっと」
「恐怖が、残らない」
「疑問も、残らない」
「だから、立ち止まれない」
俺は、ノートを開いた。
だが、具体的な現象は書けない。
書けるのは、傾向だけだ。
――第三階層・証言分析。
――体験は個別。
――結論は共通。
――全員、“納得した顔”をしている。
ペンを止める。
背中に、じわりと汗が滲む。
第三階層は、何も強制していない。
ただ、問いを投げただけだ。
そして人は、
自分で答えを作り、
その答えに、縛られている。
エリオの言葉が、頭をよぎる。
「覚悟だ」「自分を知る」
もし、あれが“正しい説明”だとしたら。
――どれだけの人間が、同じ答えに辿り着くだろう。
俺は、ゆっくりとノートを閉じた。
第三階層は、
人を殺さない。
壊さない。
ただ――
**同じ物語を、静かに配る。**
それが、今の俺の結論だった。
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