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慎重すぎる探索者は、ダンジョンで長生きする 〜攻略しない探索者の、純冒険成長記〜  作者: 風間レオ


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第22話 線を引く者

 カインは、そのまま動けなくなった。

 脚の骨は粉砕していないが、関節が完全に壊れている。治療を受けても、以前のように即断で動ける身体には戻らない。


「……終わりだな」

 担架に乗せられながら、彼は淡々と言った。


 俺は、何も言えなかった。

 終わりだという言葉を、否定できなかったからだ。


 ミラは、治療室の外で立ち止まった。

「あなた、分かってるわよね」


「……はい」

 喉が、少し痛む。

「第二階層は、続ける場所じゃない」


 ミラは、ゆっくりと頷いた。

「ええ。個人で向き合う段階は、もう越えた」


 その日の夜、ギルドで簡易の会合が開かれた。

 第二階層に関わっていた探索者、数名。

 顔ぶれは、少ない。


「生還率が、下がりすぎている」

 ギルド職員が、淡々と数字を読み上げる。

「短時間侵入でも、負傷率が高い」


 誰も反論しなかった。

 カインの姿が、全員の頭に浮かんでいる。


「……第二階層は」

 ミラが、一歩前に出た。

「現段階では、**立ち入り制限をかけるべきです**」


 ざわり、と空気が動く。

 だが、否定の声は出ない。


「攻略できないから、ではありません」

 ミラは続ける。

「“続けられない”からです。ここは、慣れた者ほど危険になる」


 その言葉は、第一階層のときと、似ていた。

 だが、意味はまるで違う。


「第二階層は、学習を拒む場所です」

 ミラは、俺を一度だけ見てから、はっきり言った。

「挑み続けることで、必ず判断が鈍る」


 沈黙が、肯定として落ちる。


 結論は、早かった。

 第二階層は、当面の間――

 **個人探索禁止。**

 必要最低限の調査のみ。

 深追いはしない。


 会合が終わり、俺は一人、境界の前に立った。

 もう、ここを自由に出入りすることはできない。


 胸の奥に、奇妙な感覚があった。

 悔しさではない。

 達成感でもない。


「……線を引いたんだな」


 そう呟くと、背後から声がした。

「ええ」


 ミラだ。

「越えられなかったからじゃない」

「……」

「越え続けられないと、分かったから」


 俺は、ノートを開いた。

 白いページに、ゆっくりと一行だけ書く。


 ――第二階層。

 ――攻略不能。

 ――通過不可。

 ――**撤退を選び続ける場所。**


 それは、答えではない。

 結論でもない。


 ただの、線引きだ。


 地上に戻ると、音がある。

 人の声がある。


 その現実が、少しだけ重く、そしてありがたかった。


 第二階層は、俺たちの背後で、何も言わずに口を閉じた。

 だが、分かっている。


 次に進むとき、

 この“線を引いた経験”が、

 必ず武器になる。


 俺は、境界から目を逸らし、歩き出した。

 次の階層は、まだ見えていない。


 だが――

 **進まない決断をした者だけが、次を選べる。**


 その事実だけが、確かだった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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