表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
慎重すぎる探索者は、ダンジョンで長生きする 〜攻略しない探索者の、純冒険成長記〜  作者: 風間レオ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/28

第10話 通過点にするために

 第一階層から出たあと、俺はそのままギルドには戻らなかった。

 入口近くの岩に腰を下ろし、ノートを膝に置く。


 まだ、胸の奥が落ち着かない。

 だが、それは恐怖というより――整理が追いついていない感覚だった。


「……一度、まとめよう」


 第一階層。

 音に反応する個体。

 振動に反応する例外。

 安全地帯という錯覚。

 慣れによる判断遅れ。


 ページを遡り、線を引き、余白に追記する。

 最初は雑多だった記録が、少しずつ“形”を持ち始める。


 ――第一階層・基本原則。

 ――音は危険だが、唯一の要素ではない。

 ――静か=安全ではない。

 ――慣れた判断ほど、一拍置いて疑え。


 書いていて、ふと気づいた。

 これはもう、「俺が生き残るため」だけのノートじゃない。


 誰かが読めば、少なくとも――

 入口で死ぬ確率は、下げられる。


「……重いな」


 そう呟いたとき、足音がした。

 顔を上げると、ミラが立っていた。


「戻ってこないと思ったら、ここにいたのね」

「……頭の中、整理してました」


 ミラは、ノートを覗き込む。

 しばらく黙って読み、ゆっくり頷いた。


「第一階層を、“場所”じゃなく“工程”として見てる」

「工程?」

「ええ。踏破する場所じゃない。通過するための準備段階」


 その言葉に、胸の奥が静かに鳴った。


「……俺も、そう思います」

 自然と、言葉が出る。

「ここは、攻略する場所じゃない。次へ行くための、確認作業です」


 ミラは、少しだけ目を細めた。

「じゃあ、聞くわ」

「はい」

「あなたは今、第一階層を“一人で”通れる?」


 即答は、しなかった。

 頭の中で、これまでの失敗と成功を並べる。


「……死亡率は、かなり下げられます」

 俺は、正直に言った。

「でも、ゼロじゃない。想定外は、必ずある」


「それでいい」

 ミラは、はっきり言う。

「完璧に安全な階層なんて、存在しない」


 彼女は、入口の裂け目を見た。

「でもね。ここを理解した人間だけが、次に進める」


 次。

 その言葉を聞いても、胸は浮き立たなかった。

 むしろ、重く沈む。


「……第二階層は、もっと理不尽ですか」

「当然」

 ミラは、ためらいなく答えた。

「第一階層が“慣れを殺す”なら、第二階層は“考えを壊す”」


 俺は、ノートを閉じた。

 指が、少しだけ強く紙を押さえる。


「でも」

 ミラが続ける。

「あなたは、入口を通過した。少なくとも、第一階層に“食われる側”じゃない」


 その評価が、胸に残った。

 誇らしさじゃない。

 責任に近い重さ。


「……明日からも、周回は続けます」

 俺は言った。

「ここを、完全に通過点にするまで」


 ミラは、静かに笑った。

「ええ。それでいい」


 夕方の光が、ダンジョンの入口を照らす。

 相変わらず、何も語らない裂け目。


 だが俺は知っている。

 第一階層は、もう“未知”じゃない。


 理解しきったわけじゃない。

 安全になったわけでもない。


 それでも――

 ここを、通過点にできるだけの視点は、手に入れた。


 俺は立ち上がり、入口に一礼した。

 感謝でも、挑発でもない。


 ただの、区切りだ。


 第一階層。

 生き残るための最初の工程は、ここで終わる。


 次に進む準備は、整った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ