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優しい彼は
貴方は泣かない。自分のために泣かないのだ。男とか年とかいろいろ言って泣かない。いつしか忘れてしまいそうだ。彼の泣き顔や涙の美しさ儚さ、全てを忘れてしまう。だから私はーー
「泣いてほしい」
そんな言葉に笑っていいよと答える彼は本当にお人好しだ。目を隠しているサングラスを取って大事そうに机に置く。そして私の隣に座って私の目を見た。見つめられている瞳は次第に涙を溜めて、許容量を超えて透明な液体が零れ落ちる。そうか、そうだった。忘れていたのだ。彼はこうやって泣くのだ。ただひたすら静かに涙を流すのだ。美しい顔で泣いてしまうのだ。涙は頬を伝い落ちようとする。それを拾い上げて受け止める。冷たいはずなのに温かい。
「……もういいよ。ごめんね、ありがとう」
「……ね、佳緒。怖がらなくて大丈夫だよ。俺の些細な事なんて忘れてもいいんだよ。ただいつでも帰ってきていい場所がある事を忘れないで。佳緒の心を少しでも休ませてあげたい人がいる。それだけ覚えてくれてたら嬉しい」




