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完璧なゴミ箱

お題は「箱」。


発明家の茂呂博士は、長年の研究の結果、超高性能AI搭載型自動リサイクルゴミ箱を創り上げる。

意気揚々と売り込む博士だったが、残念ながら商品化にはつながらない。

諦めずに新しい発明に勤しむ博士だったが……

 環境問題について喧しい昨今、ついに自分の時代が来たと感じた茂呂博士は、ひとつの発明品を完成させた。

 都市部郊外の私立大学の、古びた建物にある研究室で、博士はひとり祝杯を挙げる。

 薄暗く狭い研究室にあって、唯一スポットのようにライトの当てられた台の上には、少し大きめの箱が鎮座している。金属で出来たその箱は、家庭用の一般的なゴミ箱と同じ大きさで……というか、そのままゴミ箱だった。蓋は付いていない。

 ただし、博士渾身の発明品だけあって、ただのゴミ箱ではない。

 箱には下側に小さなボックスが付いていて、ちょうど、長方形の箱の横に小さめの正方形の箱がくっついている形だ。

 博士は試運転のために、正方形の部分に付いているスイッチを入れる。そして、あたりを見廻し、机の上にあった書類と、お昼に食べたカップ麺のプラスチック容器を手に取ると、そのままゴミ箱に投げ込んだ。

 ブンと音がして箱が振動すると、ゴミ箱の蓋が一度自動的に閉まった後、再び開く。そして、舞台のりのように、中から金属製の板が上がる。板の上には、捨てたはずの書類が、白紙の綺麗なペーパーとなって載っていた。

 博士は白紙になったペーパーを机の上に移すと、今度は正方形部分の箱を開ける。その中は、小さく圧縮されたプラスチックの粉末があった。

 実験は成功した。

 博士は満足そうに頷いた。

 不要なものを自動で判断し、可能なものはリサイクルし、不要なものは処分して圧縮して無害化する。高性能AIを搭載した、全自動リサイクルゴミ箱が完成したのだ。

 家庭用電源で動く画期的な発明品。

 茂呂博士は試作品の出来に満足すると、その日のうちに、正式に製品化するべく方々を駆け回った。しかし、友人知人を問わず、会社関係を回ったが、製品化は叶わない。

 ネックになったのは、コストと構造の複雑さだった。茂呂博士は飛び抜けて才能のある研究者だったが、その才能が世間の理解を阻んでしまうレベルだったのだ。

 しばらくして、久しぶりに研究室へ出勤した博士は、部屋の隅にある試作品をしばらく見つめた後、  肩をすくめて諦めた。そして、すぐに次の発明へ取りかかる。

 再び年月が過ぎた。

 しばらくしてその日がやってくる。

 次に完成した発明品は、微生物や化学物質を封入した、小さなビンだった。

 茂呂博士は前回同様、やっぱり書類とプラスチックカップを用意すると、フリカケのような小さなビンに入った粉末を振りかけた。

 緑色をしたその粉末は、書類とプラスチックに付着すると、瞬く間に浸食し、蒸発するように消えてなくなった。書類とプラスチックは空気と化して無害になるよう処分されたのだ。

 再び実験成功だ。

 博士は翌日から、売込みに回った。発明品も製品化されなければ意味はない。

 今度は上手くいった。

 その手軽さと生産性の良さを見込んだ商社が、商品化にこぎ着け、販売を開始した。

 すると、商品は瞬く間に世界を席巻し、博士は新たな研究に没頭できるだけの環境を手に入れた。

 しばらくして、別の研究にいそしんでいた茂呂博士は、唐突に最初に創ったゴミ箱の事を思い出した。

 ふと気になって探してみたが、研究室の隅に追いやられ、ひっそりと佇んでいたはずのゴミ箱は、けれども見つからなかった。代わりにその場所にあったのは、金属の粉末の塊だった。

 茂呂博士は少しの間訝しんだ後、結論に辿り着く。

 完璧なAI搭載型全自動ゴミ箱は、自分自身が不要になったと判断し、自分を処分して、リサイクル可能な資材に作り替えていた。


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