バリー、領主となる
バリーは、周辺の強盗騎士を調べ上げて片っ端から襲撃をかける。
「貴様、フェーデにもやり方があるんだぞ。
ちゃんと自分の受けた被害を挙げ、それに基づき決闘を申し込むのだ。
何の理由もなく襲いかかるとは強盗と同じではないか!」
夜間にバリーに襲われ、寝ているところを縛り上げられた強盗騎士がそんな文句をいうのを聞き、バリーは
「なるほど強盗騎士にも作法があるとは知らなかった。
では、以前貴様に恐喝された報復ということにしよう。
この状況で言い返すとは、貴様、骨があるな。
さすがはこのあたりで一番有名な強盗騎士だけある。
教授料に俺との一騎打ちを許してやろう」
と楽しげにのたまう。
「えっ」
驚く男に縄を解き、剣を与えて、「俺は素手でいい。さあ攻めてこい!」と挑発する。
家臣や領民が見守る中、剣も持たされ男は掛かっていかざるを得ない。
「喰らえ!」
ガチッ
全力を込めた男の斬撃を身動き一つせずに腕に嵌めた籠手だけで防ぎ、バリーはがっかりしたように吐き捨てる。
「なんだその程度か。
悪名高い強盗騎士だと聞いたので期待していたのに、弱い者から奪っていただけか。
もういい、死ね!」
バリーのもう一方の腕が轟音とともに動き、次の瞬間に男の首はあらぬ方向に曲がっていた。
「あれっ。首が飛ばなかったな。
俺もまだまだだ」
それを見ていた民衆から噂は瞬く間に広がり、近隣の強盗騎士は夜逃げした。
領主が居なくなった領地を抑え、民衆を集めてバリーは宣言する。
「悪徳領主とは言え、領主が居なくなった後、治安に責任を持つ者が居なければ民草が困ろう。
不徳ながらこのバリー、他に人がいなければ責任を逃げるわけにはいかんな」
「「バリー様、領主となってください。お願いです」」
一斉に声がする。
「民草の願い、聞き届けた。
やむを得ん。その重責、引き受けた」
無論、すべてヤラセである。
グスタフが仕込んでおいたサクラが大声で嘆願したのだ。
強盗騎士達は本来は王の直臣の中小領主。
王に訴えるかもしれないため、領民からの嘆願という形を整えたのだ。
しかし、これでバリーは単なる伯爵家の婿ではなく、独自の領地を持つこととなった。
統治など面倒なと思っていたバリーだが、伯爵領から金が流れてこない以上、独自の財源を持たざるを得ない。
バリーは、新たに得た領地に根城をおくとともに今までの紛争で頭角を現してきた手下を郎党とした私兵団を組織し、今まで以上に近隣の盗賊退治に精を出す。
そしてたまには伯爵領内の不正や搾取にも目を光らせる。
リーリアからは不正の余得は召し上げていいと言われている。
バリーの私兵団の強化には金がいる。
ある日、領内を巡検していると、肥った僧侶が見守る中、その手下が農家から馬を連れて行こうとし、必死で止めようとする農夫を殴りつけていた。
後ろで農夫の家族が泣き叫んでいる。
「貴様、何をしている!」
領民を好きにしていいのは俺だけだ、バリーは私物を荒らされたような不快感で怒鳴りつける。
「貴様、ずいぶんごついが村役人か?
この者は十分の一税を滞納しているので馬を没収するのだ。
最近は強盗も減り、懐は豊かになったはず。
依然として見逃してやった分を出せ!」
バリーを知らない僧侶はふんぞり返って反論する。
見れば肥った身体に豪奢な衣装を羽織っている。
バリーは小さい時に教会でイタズラをし、司祭からさんざん鞭打たれた。
その後、その教会を無惨なまでに壊し尽くし報復をしたが、以来、偉そうに説教する僧侶は大嫌いであり、この僧侶はその司祭によく似たタイプであった。
「お赦しを!
子どもが病気となり、その治療費がいるのです。
その馬を連れて行かれれば農作業ができません!」
傲慢な司祭は農夫の哀願も相手にしない。
「病気など神への信仰が足らぬからじゃ。
もっと真摯に祈れば治る。
そのためには教会に納めることだ」
もう司祭はバリーを見てもいない。
ムカムカしたバリーは後ろから司祭の襟を持って釣り上げる。
「何だこの重さは!そしてこの豪華な服!
教会で見る教祖の像は痩せ、ボロ布を纏っているぞ。
お前に司祭の資格はない!」
司祭に付き従う数人の手下がかかってくるが、バリーの手を煩わせるまでもなく随行する郎党が剣で斬殺する。
元は農民だったのが、幾度の戦闘を経て立派な郎党に成長し、殺人への忌避感がなくなっている。
バリーは郎党に命じて司祭の服を剥ぎ取らせ、領外に追い出させた。
「貴様、わしのバックは司教様だ。
必ず報復してやる」
司祭は連れて行かれる時にそう喚く。
「ありがとうございます!」
農夫の一家はバリーを伏し拝んでいた。
「ここは俺の領地。
お前達を守るのは俺の仕事だ」
その一家や周辺の苦しんでいた農家から、バリーは守護神のように言い伝えられる。
そして司祭のいた教会に踏み込むと、多額の金や物品が蓄えられていた。
「これはそこらの山賊よりよほど金を持っているな。
よし、司祭の試験を俺がしてやる。
不合格な奴は追放、家財没収だ」
バリーの指示で郎党が走り回り、近隣の司祭が集められる。
何事かと不安げに司祭達が見回す中、バリーが現れる。
「これからお前達が司祭にふさわしいかを俺が調べてやる」
「何をして吟味されるのか。
教典について聞かれるのか。三位一体ならば一晩でも話せますぞ。
まあ、あなたに理解できるか疑問ですが」
学識を誇る僧侶がバカにしたようにバリーを見て、嘲る。
「いや、俺のやり方はこうだ!」
バリーはその僧侶の胸ぐらを掴んで引き摺り出し、服を触り、腹の肉を摘む。
「この服は絹でできていて、相当金がかかっているな。
腹のこの肉の厚み!
不合格だ。
服を引っ剥がしてもその脂肪があれば十分。
領外追放にしろ」
「ひぃー!
止めてくれ!」
司祭の悲鳴にかかわらず、郎党は素早く服を剥ぎ取り、手を縛って荷車に乘せる。
家畜の運送と同じ扱いだ。
「次!」
机に座るバリーのもとに順番に司祭が連れてこられ、服を吟味され腹をつねられる。
質素な服装で痩せている司祭は認められ、豪華な服や太った司祭は追放である。
十数人の司祭を判定し終わり、バリーは満足そうに立ち上がった。
そこへ城に打ち合わせに行っていたグスタフが戻る。
「あ~あ、教会に手を出したか」
頭を抱えるグスタフに、バリーは「我が領地にふさわしい司祭だけに選別したぞ」と嬉しげに語りかける。
一仕事終えたという顔のバリーに一人の司祭が噛みつく。
「あなたも騎士ならば、騎士の本懐は神に仕えることということを知りませんか!
こんな強盗でもしないことをして、恥を知りなさい!」
「騎士の行うべきことは民を保護することですよ」
グスタフが反論するが、バリーが大声で被せる。
「騎士の本懐とは舐められたら殺すことだ!
坊主だから赦されると思うな。
次に恥を知れなどと言えば頭を砕く」
バリーはその司祭の頭を掴み、ミシミシいうまで圧力を加える。
「わかった、止めてくれ、ください」
声も出せない司祭に代わって、周囲が必死で止める。
「さっさと領外に連れて行け。
そしてコイツラの教会から金をもってこい」
バリーは配下に命令する。
一同が去ったあと、グスタフが苦言を呈する。
「バリー、司祭の任命は法王の権限だ。
それを巡って国王と紛争も起きている。叙任権闘争を知らないか」
「知らん。
俺の土地や領民から取り立てていいのは俺が認めたものだけだ。
当たり前のことだろう」
そう嘯くバリーを見てグスタフは溜息をついた。
そして王都では、強盗騎士たちは王へ、追放された司祭は司教へとバリーの暴挙を訴えていた。