表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

結婚とバリー私兵団の結成

婚約の挨拶が済むと、伯爵はこれ以上横槍が入る前にと早々に結婚式を挙げることとする。


式には、名門貴族の結婚にふさわしく、王族や高位貴族が招待席に並ぶが、それとともにバリーの古巣の騎士団からも大勢の騎士が招待されていた。


そして国王の代理として王太子が主賓席に座る。

隣国王女との婚姻の詰めが進む中、王が諦めさせる意味で自らの代理として送ったのだ。

王太子は血走った目でリーリアとバリーを見ていた。


式は順調に進み、誓いの言葉の後、司祭は結婚の成立を宣言した。


式が終わり、宴会が始まる前、バリーは立ち上がり挨拶する。

手にはグスタフが持たせたペーパーがあった。


そこには、ありきたりの出席者への感謝と今後の引き立てを願う言葉が記されていたが、バリーはそれを一読すると破り捨て、戦場で鍛えた大音声で話し始めた。


「オレと妻の結婚式に参加いただき感謝する。

さて、妻と義父母そしてグレイ家の人々は古今無双を誇るオレが伯爵家の婿に来たことを喜ぶといい。


これから当家の武勇は鳴り響き、敵は恐れ慄くであろう。


ここに誓おう。

我と我が家に利をもたらす者にはその倍にして返し、仇成す者には地獄を見せよう」


それを聞いて騎士団の仲間は、さすがバリーとやんややんやと囃し立てるが、団長は頭を抱えていた。

貴族達はこの横紙破りの挨拶に苦り切った表情である。


グレー伯爵家は王国創立の功臣を祖に持つ名門だが、歴代当主は良く言えば温厚で、争いが嫌いな性質であり、王宮や周囲の諸侯からは甘く見られ、しばしば不利な決定を飲まされていた。

王太子の乳母となったのもこの家ならば余計な権力争いになるまいと思われたからである。


バリーの言葉は、オレが来た以上舐めた態度をとるなら相応の目にあわせるという意味かと捉えられた。


そして始まった宴会ではバリーとリーリアはテーブルを回り、挨拶をしていく。


騎士団仲間からは冷やかしと祝福の言葉が、諸侯や貴族の席ではトゲを含んだ祝いの言葉が飛び交った。


それに対してバリーは拳大の硬そうな石を持ってこさせ素手で砕く。

「ホンの余興です。捕虜となっても意地汚く罵倒する敵兵がいましたが、誰か一人の頭を砕くと、静かになりましたよ」と話すと、貴族らは青い顔で黙り込んだ。


そして王太子の前に立つと、バリーは礼を述べた後、近寄ると小声で言う。


「わかっていると思うが、これはオレの女だ。

今度ふざけた真似をすると自慢のイケメンが身体から離れるぞ!」


そしてリーリアを抱き寄せ、目の前で長いキスをする。


王太子は血が出るほど拳を握りしめるばかりであった。



結婚式が終わった後、伯爵はバリーとリーリアを連れて領地に赴く。

その目的は後継者のお披露目である。


「彼がリーリアの婿となり、軍を率いる陣代となる。

そのように心得てくれ」


伯爵はリーリアを女伯爵とし、バリーは軍だけを預けることとする。

婿に伯爵位を継がせるのが通例だが、結婚式で各方面にケンカを売らんばかりの態度を見て、彼が問題を起こせば伯爵家の取り潰しになりかねないという不安を抱いたのだ。


それには伯爵夫人や執事の強い意見も影響している。

彼らは結婚式後、一段とバリーへの嫌悪を強めており、状況が許せば彼を追放したいと考えていた。


領内の家臣や、富農、ギルド幹部などの有力者は、伯爵位を継がないと聞くとバリーには形ばかりの挨拶をして、伯爵やリーリアとの懇親に熱を入れる。


放っておかれたバリーは兵を集めるためと称して、グスタフを連れて農村を回り、元気で体格が良さそうな若者を勧誘することとした。


「ところで伯爵領は何故こんなに貧しそうなんだ?」


騎士団で各地を転戦してきたバリーの目にはこの地の民が随分と貧しく見える。

土地は悪くなさそうだし、川もあり水も足りている。

伯爵はとても民を虐げる暴君には見えない。


バリーの疑問にグスタフが連れてきた名主は答える。


「あなたは新しい役人か?

貧しいってあんたらの税の上に、教会税が乗っかり、おまけに山賊まで来てみかじめ料を取っていかれりゃ誰だって貧しくなるわ。


せめて税を取るなら賊から守ってくれんかね。

あの領主の兵っちゅうのは賊が襲っても一向に来てくれんぞ!


おまけに今度は御領主の娘さんの結婚で臨時税だと。

いい加減にしてくれんか。

もう農民は夜逃げするぞ!」


みすぼらしい騎士の格好をしたバリーを新米の役人と思ったらしく言いたい放題本音をぶちまけて、その名主は帰っていった。


「執事は金がないと言って領兵の金も出し渋っていたが、どこに行っているのやら。

まずはその山賊をぶち殺しに行くか」


バリーとグスタフは近くの農民に手近の山賊のアジトを聞き出し、二人で夜襲して十名ほどの賊の首を持って帰る。


翌日、村の真ん中でその首を前にしてバリーは大音声で呼ばわった。


「見ろ、近くの山賊を討伐してきたぞ。

オレは次の伯爵軍の司令官だ。

これから賊が来ればオレが全てぶち殺してやる。


オレとともに山賊を退治しようという勇気のある奴は兵になれ。

好きなだけ飯を食わしてやるし、銀貨で給金を出してやる」


バリーの強そうな巨漢ぶりと、飯が腹一杯に食えるという文句に惹かれて、領内の村々からたちどころに家を継げない次三男が集まった。


「これは集まり過ぎだな。

グスタフ、選抜しろ」


しかし、いくらしごいても、ここしか行くところはないと死に物狂いになっている貧農の息子たちは誰も脱落しない。


ついにグスタフが音を上げた。

「バリー、皆雇ってやれ。

これからお前が死ぬほど鍛えて実戦に行くんだろう。死傷して減っていくよ」


伯爵領の領民は約一万人。

兵士はこれまでは300、バリーは500を考えていた。


ところが伯爵に隣接する領民からも応募が来て、定員の3倍の1000人ほどとなった志願者を前にしてバリーは吠える。


「よく来た。

ここは地獄の門だ。

これからは実戦、生き死にがかかっているぞ。


オレの下に卑怯者、臆病者はいらん。逃げれば逃亡兵で死刑だ。


生き残って功績を立てた者には欲しい物を与えてやる。よく考えろ。

どれだけがついて来れるか楽しみだ」


バリーの脅しにも関わらず、一向に逃げ出す男はいなかった。


仕方がない、バリーは執事に対して兵の飯代を交渉する。


「千人!陣代殿は計算ができませんか。

そんな金があるわけ無いでしょう」


けんもほろろの執事に、民からの税額と伯爵領の税収額の違いがわかる裏帳簿を見せる。

グスタフが執事の部下を締め上げて出させたものだ。

まずは伯爵に見せたが、よく検討しようなどと惚けたことをいうので直接交渉する。


「これはなんだ!

汚職は死罪。貴様の首をすぐに折ってもいいのだぞ」


そう言いながら首を絞めあげて空中に吊るす。


「苦しい!わかりました。出しますとも」

息絶え絶えの執事から言質を取ると、バリーはニヤリとする。


「分かればいい。

ついでに反省の印としてお前の家にある不相応の財貨は没収しておいた。

それからオレの結婚をダシに税を取っていれば次は殺すぞ」


グスタフに兵を連れて行かせて執事の屋敷から金目の物は全て運ばせている。


ちょっと待て!という執事を無視して、バリーは兵舎としたオンボロ丸太小屋に向かう。

千人の兵を養うのにとにかく金がいる。

食糧はもちろんだが、武装させねばまともな戦には連れていけない。


バリーは実戦訓練も兼ねて、領内の山賊を片っ端から襲い、その金を手に入れることとした。


山賊の持っている金などたかが知れているが、実戦訓練と一石二鳥と考えていたバリーは、密かに領民から高い人気を受けつつあることに気がつかなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 普通ならバリーも結構ひどいキャラしてるんだけどそれ以上に王家や伯爵家がロクデナシやボンクラ揃いだから爽快感あって好き
[一言] 明快で爽快な形で気持ちよく読ませてもらいました。 更新たのしみにしております。
[良い点] バリーは結婚を完全に政略的な意味合いと捉えているので仮に寝取られたとしてもノーダメージなところ。 むしろ争いの火種が出来た事を喜びそうw [一言] 続きが楽しみ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ