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バリーの婚約

バリーはグスタフとともに、これまで伯爵軍を預かってきた従士長を呼び出し、兵について尋ねる。


彼が言うには、ほとんど戦闘もないぬるま湯の職場の為、家臣や豪農の次三男の格好の預け場所になっており、ろくな訓練もしていないという。


従士長は伯爵夫人の甥、つまり実家の伯爵家の次男で縁故採用である。

王都で遊び回り、バリーの訓練にも来ていない。


バリーのことも見下し、この成り上がりが何か文句あるのかと言わんばかりにふんぞり返っている。


「奴にそんな豪遊できるほどの給金はないはず。

おそらく兵の給与や食費を横領しているな」

グスタフが囁く。


「従士長、ちょっと来い」

不満顔の従士長の腕を引っ張り、バリーは練兵場に連れて行く。

そこにはグスタフが集めた兵を並んでおり、その前に立つ。


「この男、訓練をサボり遊んでいた。

よって罰を与える」

バリーは隣りにいる従士長の頭を掴み、宙に浮かせると力を入れ始める。


「ギャー、頭が割れる!

やめてくれ!」


従士長は絶叫を上げ、頭蓋骨がミシミシといい始める。


「貴様、兵士の給与を横領していたか」


「そうだ。悪かった。

だからもう赦してくれ!」


従士長は罪を認め、泣き叫ぶ。


「バリー、その辺にしておけ。

兵がドン引きしている」


グスタフが諌めると、バリーは手を離す。


「従士長、お前は馘首だ。

文句があるなら本当に首をねじ切るからな。


さて、みんな聞いたな。

コイツの誤魔化していた金は今後お前達に払ってやる。


だからオレの言う通りに真面目に訓練しろ。

さもなければ次には頭を握り潰す」


地面を転げ回って悲鳴を上げる従士長の姿を見て蒼くなった兵は、バリーの言葉にコクコクと頷く。


バリーは満足気に寝に行くが、グスタフは内心ため息をつく。

(兵には飴と鞭が定跡だが、これまで甘えていた兵にこれは苛烈すぎる。

どう見ても猛獣に怯える子供の顔だろう)


グスタフの予想通り、その夜にほとんどの兵は逃げ出していた。


朝、グスタフがそれを報告するとバリーは大笑いして言う。


「そんな根性無しは不要だ。

伯爵領に赴き、オレの訓練に耐える兵を集めてやる」


バリーが伯爵にそのことを頼みに行くと、領地に行くのは婚約発表まで待てという。

確かにそれまではバリーは伯爵家と無関係だ。


やむを得ないなと頷くバリーを、伯爵夫人は睨みつけていた。


「私の甥を殺そうとしたと聞きました。

この野蛮人が!


あなたなど我が家の婿に相応しくないわ。

辞退しなさい!」


「ほう、辞めてもいいのですか」

バリーが伯爵を見ると、首を横に振る。


「君しか婿になれる者はいない。

お前も余計なことを言うな」


「でも、これでは…」

伯爵は夫人を放っておいて、バリーを大広間に連れて行き、家臣に紹介する。


男衆は執事を、女衆は侍女長を筆頭に家臣が並び、バリーに挨拶する。

しかしその目は好意的なものは僅かで、殆どは敵意か隔意を持つものという様子である。


敵意には敏感なバリーはすぐに気づく。


「名門を鼻にかける貴族のところに野蛮人が来たんだ。

まあ嫌われるに決まっている。特に女連中は酷いな」


「お前の容姿は、貴族の奥向きではなかなか慣れまい。

それにこれまで出入りしていた王太子はまさに女の憧れる貴公子という風だからな」


「まあいい。文官や女中に好かれることがオレの仕事ではあるまい。

ところでグスタフ、お前がこれから従士長だ。頼むぞ」


グスタフはげんなりしながらも仕方無いと頷き、給与は弾んでくれと注文をつける。


数日後、宮廷に婚約の届け出を行い、バリーはリーリアとともに、王族や重臣に挨拶まわりに赴く。


殆どは家臣が挨拶を伝えると言って終わったが、王太子のところに伺うと、奥に通されて面会するという。

リーリアの顔色が悪い。


「大丈夫か?」

バリーが問うと、「ええ、ご心配なく」と答えるが今にも倒れそうである。


「王太子殿下、御目通りいただきありがとうございます。

今日をもちまして、私、バリー・マクベイとリーリア・グレイは婚約いたしました。

以後、よろしくお願いいたします」


バリーは伯爵に教えられた通りの言上をし、リーリアとともに一礼する。


「よかろう。

ところで両人に話がある。別室に来い」


人払いして少し離れたところの部屋に行き、その椅子に腰掛けて、王太子は機嫌良く話し始めた。


「余も父に説教されて、とにかく帝国の王女との結婚が必要であることはよくわかった。

そしてグレイ家を残すために婿が必要なこともな。


それで名案がある。

表向きはリーリアの結婚を認めよう。


そして密かに余の愛人となれば良い。

できた子供は伯爵家の世継ぎだ。爵位を上げ、加増もしてやろう。


おい、お前は表向きはリーリアの夫を務めろ。

しかし彼女に指一本触るな。

代わりに金でも名誉でも好きなものをくれてやる」


王太子の言葉を聞き、バリーは跪く姿勢からすくっと立ち上がり、大声で笑い出した。


「クックック

妻を売女にしろとな。

これほど舐めたことを言われたのは物心ついてから初めてだな。


オレに言うことを聞かせたければ言葉も金もいらん。

力で勝ってみろ!」


そして吐き出すように言う。

「女の尻を追いかけるしか能のない男という噂は本当だな。

リーリア、帰るぞ」


「戦うしか能のない野蛮人に人間の話は通じんか。

お前たち、殺す寸前まで痛めつけろ!」


王太子の指示で、後ろにいた護衛の近衛騎士が4名襲いかかる。


「武名高いバリーとて、無手で完全武装の騎士に勝てるものか。

今のうちに殿下に土下座して許しを請え」


リーダーらしき男の言葉が終わらないうちにバリーは踏み出す。


巨漢ゆえに動作も鈍いだろうと思っていた騎士たちの意表を突き、俊敏に正面の騎士を剣を抜く暇もなく抱き抱え、腰を強く引きつけると上から全体重をかけた。


いわゆるサバオリというバリーの得意技である。


「ギャー!」

その騎士は膝を折り、後ろに倒れ込んだ。


「お前ら相手に武器などいらん。

腰と膝を破壊した。

コイツはもう歩けんぞ。次は誰だ?」


獲物を見る肉食獣のような顔つきのバリーは舌なめずりしているようだ。


「くそー!死ね!」


緊張に耐えきれず剣を抜いて斬りかかる騎士の胸を思い切り蹴り付ける。

後ろに飛んだその男がもう1人の騎士にぶち当たり二人が倒れ込む。


バリーは残る1人に素早く近づき、その膝の上から強く押し出すように蹴ると、その膝は曲がるはずのない方向にグニャリと曲がる。


「うぉー、俺の膝がー!」

その騎士は大声で泣き叫んだ。


「あと2人か」

ニヤリと笑うバリーを見て、王太子は、『笑いとは本来攻撃的なものである獣が牙を剥く行為が原点である』という教授の講義を思い出し、震え出した。


「ヒィ!」

すっかり腰が引けた二人の騎士にバリーは襲い掛かる。


剣を振り上げる男の腕を掴み捩じ上げると、捻れたロープのように腕はあらぬ方向を向き、

その男は気絶した。


もう1人は後ろからバリーの肩に斬りつけるが鋼鉄のような筋肉にその刃を弾かれる。


「嘘だろう!」

バリーが振り向くと男は腰を抜かして失禁する。


「そいつ等を連れて消えろ!」

戦意を亡くした男に興醒めしたバリーが一喝すると、男は同僚を引き摺りながら姿を消した。


さてと、バリーは王太子に向き合う。


「余は王太子だぞ!

余に拳を振るえば死罪だ!

誰か助けに来い!」


震えながら後退りする王太子は必死で叫ぶ。


「バリー様、アーサーを赦してあげて。

酷いことをしないで」


リーリアも後ろで哀願する。


その頃には大きな物音を聞きつけたか、あちこちから人がやってくる。

その中にはちょうど王宮に来ていた騎士団長もいた。


「バリー、何をしている?」

団長は怯えた王太子とめちゃくちゃになった部屋を見て、大体を察したのかうんざりしたように言う。


「王太子殿下に婚約のご挨拶をしていただけですよ。

ちょっとした誤解があったようですが、それも解決したところです。

ほら、和解の握手ですよ」


バリーは素早く王太子の手を掴み、握手する。


「貴様、何を…」

言いかけた王太子の顔が苦痛に歪む。

バリーがわずかに力を加えたのだ。


「やめろ、手を離せ!」


「まあ今日はこのくらいにしますか」


ミシッ、バリーがもう少し力を加えてから手を離すと王太子は崩れ落ちた。

「痛い!余の手が…

医者を呼べ」


涙を流し医者を呼べと叫ぶ王太子をバリーは冷たく見る。


「戦場では腕がちぎれれば足で、足も無くなれば口で噛みついても敵と戦いますよ。

女の尻の半分でも武芸に熱心になればいかがですか。


いつでもお相手しましょう。

リーリア、太子はお疲れのようだ。帰るぞ」


バリーは、同僚を破壊された王太子近衛隊の刺すような視線をものともせずに、疲れた顔つきのリーリアを連れて退出する。


後でこの一件を聞いた王と宰相は、バリーの無礼を怒るよりもこれで王太子が諦めてくれればと願った。




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[良い点] 主人公の突き抜けっぷりが素晴らしい 男の憧れですな
[一言] 本来なら、いくら何でもやり過ぎで処罰もんでしょうが、王太子のアレぶり対策で彼を呼んだ事も有り、王も宰相も逆にこれで王太子まともになればですか。 大丈夫かいなこの国。
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