バリーへの褒美
とりあえず思いついたので書いていきます。
ドロドロの愛憎の男女と脳筋男と周りの思惑の絡み合いみたいな話になる予定です。
【あらすじ 預けられたか→預けられ、キーワード 力づくの解決→力ずくの解決】 バリー・マクベイは男爵家の三男に生まれた。
3歳にして家宝の鋼鉄の剣を持ち上げ、5歳では父や兄が出征していた隙に侵入した賊と対峙し、鉄の棒を振り回して頭を砕く。
その力を見込んだ父親が、友人の騎士団長に頼んで7歳でアーレン国騎士団に放り込むと、大人顔負けの怪力で騎士団長を驚かせた。
それからは騎士団長に目をかけられて騎士見習いとなって鍛えられ、戦場を駆け回る。
騎士となってからは騎士団の先頭を切って突撃する役を与えられ、団員随一の武勇を誇る。
彼の口癖は、言い訳するな、YESかNOかすぐ決めろ!であり、単純明快に生きている。
バリーが16歳の時、彼の名を騎士中に広める事件が起こる。
それは隣国との戦争で、騎士団は予備隊で後方に待機していた。
先陣が誘い込まれて包囲攻撃を受け、潰走、敵軍は全軍3000騎の戦力で追撃してきた。
騎士団は300騎、十倍の勢いに乗る敵軍と正面から戦うことを騎士団上層部が躊躇した時、バリーは「獲物が群れでやって来た。これは手柄の立て時だぞ!」と大喜びする。
そして独断でわずか5騎の部下を伴い、快走してきた敵先鋒の横っ腹に突撃、当たるを幸い敵の騎士を自慢の鉄の大槍で突きまくり、殴りまくった挙げ句、何重に包囲されてもなお暴れ回る。
バリーの抵抗で進撃が止まった敵に対して、その隙に騎士団長は敗走する軍を纏めて反撃し、バリーを救出し、ついに退却に追い込んだ。
その時、返り血と自らの流血で真っ赤になり、身体中の鎧に矢が突き刺さりながらも鉄槍を振り回すバリーの姿は戦鬼そのもの、敵からは恐怖の的、味方からは畏怖と憧憬の対象である。
バリーは味方が救出に来た時に、「全部オレの獲物だぞ!横から取るんじゃない!」と叫び、心配した同僚の騎士達をドン引きさせる。
このバリーの抜け駆けに騎士団長は激怒した。
「お前は頭の中まで筋肉か!
獅子でも相手を見てかかっていくぞ。少しは敵を見ろ!
あそこで生きて帰れたのは運が良かっただけだぞ!」
と怒鳴りつけ、誉められるに違いないとニコニコ顔で戻ってきたバリーを思い切り殴りつけた。
以後、脳筋バリー、鉄血バリーが通称となる。
さて、バリーも今や20歳。身長190センチ、体重100キロ。全身に筋肉の鎧をまとっている。
彼はその後も戦功を立て続け、その人並み外れた体格と相まって、今や騎士団の英雄、誰もが知る有名人である。
その彼が今回隣国との戦で、敗色濃い中、騎兵を率いて背後から敵本陣を奇襲し、敵の総指揮官を捕らえるという大功を立てた。
その甲斐あって隣国との講和も成立し、今日は戦争の功績授与の日である。
バリーがこの勝利の一番の立役者であることは衆目が一致するところ。
彼も内心、騎士団大隊長への昇進、准男爵の叙爵、多額の褒美金の下賜ぐらいを期待していた。
(今日は仲間や部下を連れて、高級ラウンジでも行くか!
大盤振る舞いでどんちゃん騒ぎだ!)
バリーはウキウキしながら褒美を待つ。
功績順に名を呼ばれ、褒賞を与えられる。
最後にバリーが呼ばれる。
「騎士バリー・マクベイ、敵司令官を捕えた功績誠に大なり。
よってグレー伯爵の婿となり、伯爵嗣子となることを認める」
(はっ?)
バリーは何を言われているのかわからなかった。
騎士団から諸侯の養子に行くことはしばしばあるが、家格の釣り合い、持参金、人柄などを調べ、事前に十分な調整が行われる。
いきなり王命で養子に行くなど聞いたことがない。
それにグレー伯爵は名家であり、貴族の末端のマクベイ男爵家とは全くつりあいがとれない。
(これは裏がある)
貴族の陰謀に疎いバリーでもおかしいことに気がつく。
バリーが思わず顔を上げ騎士団長を見ると、渋い顔で頷けと目で合図される。
バリーは唯一頭の上がらない団長の指示に従い、内心を隠し、ありがたき幸せ、恐悦至極と言って王の前を退出すると、直ぐにお呼びがかかる。
小部屋に案内されると、王と宰相と騎士団長、それにグレー伯爵が揃って、憂いのある顔をしていた。
「お呼びと聞きましたが」
「まあ座れ。先程の褒賞のことだ」と王が言う。
「今回の褒賞は異例だが、これには訳がある。
グレー伯爵は王太子の乳母夫であり、王太子は幼い頃から伯爵邸によく出入りしていた。
そこで伯爵の娘のリーリアと親しくなり、親の知らぬ間に結婚の約束をしていた。幼い頃の話だと笑っていたが、その後もずっと恋仲らしく、王太子はリーリアを妃とすると言い張っている」
王は続ける。
「常ならばそれを認めても良い。伯爵家では王妃の出身として不足であるが、グレー家は名門であり公爵ぐらいに養女にしてもらえば問題はない。
しかし、今回の隣国との講和条件に、互いの王女を嫁がせる約束がある。
王太子には隣国の王女と結婚してもらわねばならん。
かつ、隣国の王夫妻は王女を溺愛しており、愛人などもってのほか。
早々に身辺整理が必要だ」
続けて宰相が言う。
「しかし、王太子の執着は普通ではない。
ただの男では脅されて、伯爵令嬢と別れることを選ぶだろう。
そこで騎士団一、いやこの国きっての猛者であるお前を婿とし、王太子の執着を断ち切ってほしいのだ」
グレー伯爵も続けて言う。
「実際、既に三人の高位貴族の子弟と婚約してみましたが、王太子からの執拗な嫌がらせがあり、二人はそれで辞退し、それに屈しなかった三人目の方は王太子付きの側近に闇討ちされ、亡くなられました。
もう釣り合いの取れる貴族からはなり手がいません。
リーリアは一人娘。このままでは我が家が途絶える。
バリー殿、是非にお願いする」
(王太子といえば女の尻を追いかけるのに忙しく、まだ従軍したこともない軟弱者。何故オレがそんな奴の尻拭いを。嫌なこった!)
バリーには国や騎士団への忠誠心はあるが、顔も知らない王族など知ったことではない。
それに養子に行った次兄を見ていれば、妻と義両親は勿論、王宮や親族、家臣、領民に配慮を欠かせず胃薬を常用している。
次兄は、バリーに奢って貰った酒を飲みながらよく言う。
「小糠三合あれば養子に行くなとはよく言ったものだ。
バリー、お前には人並み勝れた武勇がある。
甘言に騙されて俺のようになるんじゃないぞ。
緊縮財政と言われて俺の小遣いなど雀の涙だ」
バリーはその言葉を思い出し、怖気をふるう。
そんな種馬兼雑用係のような領主になんぞなりたくなかったし、訓練と戦争さえしていればいい騎士団の仕事を天職と感じていた。
(オレに対して騎士団から出ていけだと、巫山戯るな!)
バリーの顔が怒りで紅潮する。
そんなバリーの内心がわかった騎士団長が少し慌てながら諭す。
「騎士団を愛するお前の気持ちはよくわかるが、これは国としての決定事項だ。
それにお前にとってもいきなり伯爵など前代未聞の厚遇、その若さで一軍の指揮官だ。
騎士団の全員が羨むぞ。
戦争がしたいなら家臣を鍛えて連れてくれば共闘してやる。
また伯爵令嬢は絶世の美女と聞くぞ」
どんな美女でも浮気女では御免だと思うが、仲間が羨む待遇と一軍の指揮官として戦争ができるということで少しはバリーの気持ちに迷いが生じる。
それを見た騎士団長はグレー伯爵に目配せする。
「バリー殿は騎士団のときと同じように訓練と戦に専念してもらって構わない。うちの兵も好きに使ってくれ。全権を任せる。
政務もしなくていいし、小遣いも今の給与の二倍を出そう」
バリーは伯爵の甘言に乗った。
「わかりました。やってみましょう。
ただし、闇討ちはすぐに斬り殺すし、間男が忍んできたら誰でも殴り倒しますから、よく王太子殿下にはお伝えください」
バリーの言葉を聞いて、王は「殴られるくらいなら仕方あるまい。それで反省してくれればいいだろう」と言うが、慌てて騎士団長がフォローする。
「こいつに殴られれば普通の人は死にます。
バリー、絶対に殺すな。加減しろよ!」
バリーは不承不承頷くが、そんなやりとりを見て、宰相はため息をつき言う。
「こんな面倒なことをするなら、王太子を伯爵家に婿入りさせ、王太子に別の王族を持ってくればいいものを」
「そうはいかん!あれが唯一のわしと王妃の子。
別人にすると王位の継承を巡り争い、内戦になるわ!」
王の悲壮な言葉で会合はお開きとなり、バリーはグレー伯爵に連れられ、伯爵屋敷へ赴く。
彼らが立ち去ると、王たちは話を続ける。
「アイツで大丈夫か。政治的な配慮はできなさそうだが」
宰相の疑問に騎士団長が答える。
「隣国との和平、王位継承争いの防止、王太子の恋心、この3つを成り立たせることはできない。
王太子を恐れず前者の2つを成立させるためには、バリーのように豪勇かつ空気を読まない男が必要と思い、断腸の思いで推薦した。
嫌ならば喜んで騎士団に戻す」
「嫌とは言っておらんが、どうしても上手くいかなければ、やはり王太子をグレー伯爵家に婿入りさせ、別の王族を立てて隣国の王女と結婚させるのも考えて置かなければならん」
「バリーを使い捨てにするなら騎士団は黙っておらんぞ!
王太子の代わりはいるがバリーの代わりはおらん。
どうしても適当な候補者がいない、国の危機だというので断腸の思いで虎の子を出したのだ。
あまり騎士団を馬鹿にしないでくれ!」
宰相と騎士団長の口論に王が割って入る。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず。
リスクはあるが、しばらくあの男に任せてみよう。
恐れを知らない奴を見て、王太子も行動を慎むかもしれん」
さて、バリーは、伯爵領でリーリアとの顔合わせが予定されるが、事情を伝えるので暫く時間が欲しいと言う伯爵家の都合により待たされる。
バリーは、その間に伯爵軍の訓練を見に行く。
(何だ、このぬるい訓練は!)
グレー伯爵軍はせいぜい山賊退治など領内の治安維持くらいしか出動もなく、訓練といっても形ばかりのものしか行っていない。
それも交代で休暇を取り、今日は半分の兵しか参加していなかった。
早く訓練を終えて酒でも飲みに行くかというだらけた雰囲気のところへ、国の最精鋭の騎士団の中でもクレージーモンスターと言われるバリーがやってきて、
「オレが次期伯爵になるバリーだ。
これからお前たちを騎士団を凌駕するまで鍛え上げる」
と猛訓練を開始したから堪らない。
血反吐を吐き、負傷し、倒れる者が続出する。
バリーは彼らに命じた訓練の二倍を自ら実践し、最後に全員でかかってこいと言う。
何をコイツ!とバリーの名を知らない兵は向かっていくが、その兵士を一人残らず足腰立たないまでに倒す。
「今日の訓練はここまでだ。明日は朝6時から開始する。
他の兵にも伝えておけ。
これから一人前になるまで休暇など無い」
みな倒れ伏す中、バリーの声のみが訓練場に響く。
その頃、グレー伯爵家では伯爵夫妻と娘のリーリアが口論していた。
新たな婚約者を連れてきた父の伯爵に対して、リーリアは、「これ以上、無駄な犠牲を出さないで下さい」と訴え、新たな婚約を嫌がっていた。
彼女は、王太子のストーカーじみた執着に、幼い頃からの彼の愛情を感じて嬉しく思うとともに、理性では辟易するというアンビバレントな思いを持っていたが、三人目の婚約者が殺害され、王太子の執念に恐れも感じ始めていた。
憂いた顔をする娘に、窓の外を見ていたグレー伯爵は、外を見てみろと窓を指差す。
リーリアが屋敷の窓から外を見ると、顔馴染の伯爵家の兵が倒れ伏す中、一人の巨漢が数本の鉄棒を小枝のように振り回し、訓練している。
「あれが今度の婚約者だ。
100名の兵を打ち倒して、なお物足りずに訓練している。
我が国最強の騎士と言うぞ」
グレー伯爵は苦笑いして言う。
リーリアはその巨漢を見て、思う。
(この方なら、或いは王太子の執着から私を解放してくれるかしら)
いつもの憂いある美貌に珍しく笑みを浮かべた娘を見て、伯爵は
「では、邪魔されないうちにすぐに婚約を公表するぞ」
と言い渡した。