初めての変身
「えっと、変身用魔道具、召喚シール、鞭、マイク……」
「エレメンタルストーンは持った?」
「ロケットの中に収納しています」
よく分からないマスコットキャラクター……もといクロム先輩がビデオ通話で必需品の指導をしてくれている。
本日私は、悪の女幹部としてのデビューを迎えるのだ。
ブラッディーマリー、それが私の通称になる。
本名と全く違う名前にしたかったのだが、あまり違いすぎる名前は魔道具に登録できないとのことだった。
万里という名前は「バンリ」と読むのだが、悪の女幹部らしい名前が浮かばなかったから、よく間違えられる「マリ」の方を採用した。
「マリー、変身用魔道具の使い方は覚えてるよね?」
クロム先輩が、小首を傾げるような可愛らしい仕草で尋ねてくる。なお、可愛いのは仕草だけで、聞こえてくる声は成人男性のものだ。
「はい。人目のつかないところで唇にリップを塗り、呪文を唱えるんですよね」
「そう、どんな呪文か覚えてる?」
「ええと、シャドウブルーム、です」
「正解!」とクロム先輩はにっこりと笑顔を向けた。
さすがのプリティーさで、何故悪の組織のマスコットキャラクターとして労働しているのかの疑問が浮かぶ。
「何か困ったことがあったらすぐ通信してくれていいからね」
小動物的な動きでわたわたする先輩を軽くあしらい、ビデオ通話を切った。あまり長話をしている暇はないからだ。
もう時間は夕方の5時半を回っている。
退勤するまであと3時間半。
絶対定時で上がってやるという誓いを胸に、家を出たのだった。
…
バス停を降りるとそこは本日のステージ、花咲中央公園だ。花咲町で一番大きい公園で、日が暮れても割と人が多いところだ。
一番端の人通りが少ない林に身を隠し、ポケットから変身用魔道具であるリップを取り出す。下唇をそっとリップでなぞり、私は呪文を呟いた。
「シャドウブルーム」
禍々しくも綺麗な光がどこからか現れ、色のついた風のようにしゅるしゅると私の体を包み始める。
眩しさに目を閉じ、次に目を開いたときには私の姿は変わっていた。
「ひっ、目線高っ!」
170センチのお色気お姉さんの容姿で初期登録したからか、普段より20センチも高い目線に驚愕する。
高所恐怖症ではないが、昔父親に肩車された時のことを思い出す。あれよりは低いが、そうだとしても普段の視点の違いが私を混乱させた。
それにしても……チラリと胸元や足元を見ると、さすがのお色気っぷりに羞恥心が勝ちそうだった。
黒いラバー素材のスーツはピチピチで丈も短く、ガターベルトが艶かしく太ももを這っていた。まさに絵に描いたようなお色気お姉さんっぷりであり、悪の女幹部としての正装であろう服装だ。
こんな格好、健全な青少年であれば一目見て顔真っ赤にするだろう。
魔法少女たちが見るのであれば、同姓同士でそんなに恥ずかしくないと思い、私はため息を一つ吐いて林から出たのであった。