第65話 妄想に耽るか、後は人間観察くらいか
ウスノースの衛兵隊詰め所で盗賊討伐の報告をしたら、何故か隊長さんのところに連行されてしまった。俺はそこまで大袈裟なことだとは思っていなかったが、これは俺の心が麻痺してしまってるんだろうか?
「それじゃ、俺はこれで」
「ああ。なんかあったらまた来い」
幸いなことに、犯罪ギルドの報復の件は単なる盗賊の襲撃ということになった。というか、隊長さん、ほとんど調書取らなかったんだよな。門番さんの慌て様と対応が真逆じゃないか?
軽くそのことについて聞いたら、俺と新さんの過去の実績からみて何の不思議もないって判断なんだって。その代わり、盗賊の首とか提出してないので報奨金なんかもないそうだ。
あれ? そういえばドルノースの衛兵隊から報奨金なんかもらったっけ? ハーベスト商会がバタバタしてたし、報酬はまとめてもらってたから明細は聞いてなかったな。反省しよう。
盗賊の首といえば、首そのものじゃないけど、盗賊たちが持っていたギルドカードらしきもの、本人の物か犠牲者の物かわからないけど、死体と一緒に埋めたことも報告しておいた。調べるのは衛兵さんに任せます。盗賊だと確定しても、その報奨金は辞退しておくことにした。さすがにそれまでこの街で待ってるわけにもいかないからね。
隊長さんとのお話はほとんどがアークノ商会がらみからの流れで犯罪者識別装置の運用や貴族の扱いなんかについてだったけど、これで冒険者の義務は果たせただろう。
俺は隊長さんに挨拶して詰め所を出る。たぶん、もう訪れることはないだろう。フラグじゃないよ?
詰め所を出たころには日が完全に落ちていた。
ウスノースにやってきたのが午後3時か4時ぐらいだったからなあ。それから宿探しとギルドでの遣り取りがあった。ま、こんなもんかな。
ギルドに戻って新さんたちを待とう。講習もそこまで時間はかからないから、晩飯にはちょうどいい時間かもしれない。
ギルド『戦神の槍』。異世界間にテンプレートでもあるのか、それとも、この世界のギルドは営利団体だから単なる会員への福利厚生の一環と考えれば当然の帰結なのか、一階の依頼受付カウンターを挟んで依頼掲示板や買取コーナーの反対側には社員食堂があった。いや、ハッキリ言えば酒場コーナーだ。
俺はドルノースのギルド、『戦神の剣』は登録はしたものの、ほとんど利用したことがないので酒場の存在は知っていたけど、実際に目にするのはここのギルドが初めてだった。
いつ来たかって? そりゃアークノ商会の件で待機中にだよ。カマロのオッサンたちに連れられて冒険者御用達の酒場は一通り回ったよ。未成年? 残念でした。この世界は15歳で成人です。郷に入っては郷に従え。断っても角が立つからお付き合いしましたよ。酒自体は美味しくなかったからカンパイの時だけにして後はお茶でお茶を濁したけどね(笑)。
そんな酒場に一人突入する。新さんたちを待ってないと。
一人なのでカウンター席に座ってワインを一杯注文する。いくら待ち合わせだといっても何も注文しないと変な目で見られる。実際はどうだか知らないが、日本人の血がそういう気分にさせるのかね? 自意識過剰?
とにかくカウンターで目立たないようにチビチビやって新さんたちを待つ。ナビさんにその旨を伝言してもらった。向こうの状況は詳しく聞かない。聞いても特に意味はないからだ。異常があれば、それこそ新さんから連絡があるだろう。予想通り新さんからの返事は『了解。講習が終わり次第合流する』っていうシンプルなもの。そうそう異常があってはたまらない。
さて、暇だ。
日本ならスマホをいじって時間を潰せる。なんなら時間を忘れてのめり込むまである。
でも、ここじゃちょっと……いや、スマホあるよ? いざ地球に帰還に備えてアイテムボックス内に保管してるから。問題は、こんな酔っ払いがタムロしているところで未知の物体を取り出したら変に騒がれてしまう可能性が高いということだ。犯罪者識別装置も大概トンデモ性能だけど、それと同じレベル扱いになるんじゃないかな。アーティファクトだとか神器だとかさ。それが噂になって貴族や、ましてや神殿が出張ってきたら大変だ。
ということでスマホは封印継続。
じゃあ何をしようか、というと何もない。気の利いた人間ならコネクション作りのため、盛り上がってるテーブルに突撃して一杯おごるから仲間に入れろ、とか行動的なんだろう。この辺は異世界とか関係なさそうだ。
俺はちょっと……いや、特にコミュ症ってわけじゃないよ? ウチは秘密が多いからねえ。少なくともドルノース、ウスノースの勢力圏ではこれ以上目立ちたくない。いつ犯罪ギルドに目を付けられるかわかったものじゃないからね。
ここでできることといったら、妄想に耽るか、後は人間観察くらいかね。
人間観察といっても、俺は《鑑定Ⅹ》がある。もし相手が《直感》スキルとか持ってたら鑑定されてるって気付くかもしれないけど、ナビさんに聞いたら《無属性魔法Ⅹ》で強化された《隠蔽》スキルのおかげでバレないだろうってさ。ホント《無属性魔法》様様だね。戦闘でもお世話になりっぱなしだよ。
マナー違反? その辺は実はよくわかってない。『勝手に他人に鑑定スキルを使ってもいいのか?』って改めて確認しにくいじゃん。それに、これまで盗賊とかアークノ商会関係者とかバンバン使ってたけど誰からも文句を言われたことないし。なんなら衛兵隊の人にドンドン調べてくれって言われてたほどだよ。
ま、ジェーンさんをどこかの街に送って行くまで一緒にいることになるだろうから、さりげなく聞いてみよう。
今日はバレないことを祈りながら使ってみる。
ほうほう。皆さんのレベルがわかるよ。スキルもね。
新さんより強そうなのはいないな。というか、俺の偽装後のレベル25を超えてるのも数えるほどしかいない。これでいいのか冒険者たち!
ま、ここは地方都市らしいし、高レベルの人たちもいるところにはいるんだろう。この世界、『死の森』みたいな呼ばれ方をしている魔物の領域は無数にあるらしいし、そこを拠点にしているパーティーなんかもいるかもしれないしな。それに、そんな高レベルの冒険者は酒場で管巻いたりせずにストイックな生き方をしてる可能性もある。うん、これもテンプレだね。
人間観察するなら、そんな高レベルの冒険者がよかったよ。酒場に入り浸ってるような冒険者だと、レベルも所持スキルもしょぼくって参考にならない。《剣》とか《槍》とか、ありきたりでスキルレベルも低い。
そうそう。レベルといえば、俺と新さんの総合レベルは上がってないけど、スキルレベルは結構上がった。神爺さんが『人を殺してもレベルが上がらない』って言ってたけど、スキルは人間相手でも使えば使うほど上がるらしい。ま、当然もとからレベルⅩだったのは変化無しだけどな。それでも、今後魔物相手に戦うつもりのない俺たちにとっては朗報だ。いやー、キャラメイキングでポイントをステータス上げに使って正解だよ。このままレベルアップなしでも余裕だ。スキルレベルが上がったり新しいスキルを覚えていけば戦闘も楽になると思う。主に盗賊相手だから、そこまで高レベルな人間はいないと思う。どっちかって言うと暗殺者的な搦め手対策の方が必要になるかもしれない。それに、国や神殿相手に戦いになることは避けたい。徹底的に逃げるつもりだ。戦いは数だよ、というのは真理だと思う。いくらレベルを上げても、波状攻撃、持久戦に持ち込まれたら個人じゃ太刀打ちできないからね。魔法ありきの世界だから《メテオストライク》とか《ダイダルウェーブ》とかぶちかますパターンもあるけど、魔王認定一直線じゃないか! クソ代表神の計画が復活しちゃうじゃないかよ。
「待たせたでござるな」
よし、もっと《隠蔽》関連のスキルを鍛えよう、などと決意を新たにしていると待ち人がやってきたのだった。
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