第59話 おめでとう
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週一投稿になります。
犯罪ギルドと思われる盗賊の襲撃を返り討ち。死体を埋めて処理。ここまでは冒険者としての通常の仕事だ。問題は、犯罪称号がなかったため生きたまま確保した『ジェーン』への対処だが、ちょっと尋問したところで俺の大ポカが判明! でも、結局は同じ結果に終わっただろうな。
ちょっと言わせてもらいたい。
鑑定をデフォルトで使うと、網膜だか脳内だかに、他の人には見えないスクリーンが展開され、そこに鑑定結果が文字で表示されるんだ。
この世界に来たばかりの頃は、それが異世界ファンタジーっぽくて気に入ってたんだけど、使ってるうちにだんだんウザくなってきた。特に戦闘中は一々読んでらんない。自然にナビさんに音声で結果を教えてもらうようになってた。そのほうがピンポイントで知りたい答えがわかるし。
って、誰に言い訳してるんだ、俺? あ、新さんがいた。
「(……というわけで、鑑定結果、見逃してました。ゴメンナサイ……)」
俺は速攻新さんに謝った。混乱中とはいえ目の前にジェーンがいるから小声でだけど。
今回は無事だったけど、鑑定のし忘れで最悪の事態になることってありそうだもんね。これからは気をつけないとな。
「……なるほど。しかし某もケント殿に任せっきりであった自覚はあるゆえ責めることはできぬでござるよ。それに、《指南役》殿を頼りにしすぎるのも己の修行にならぬと存ずる。こうして二人とも無事であるならかまわないのでは?」
よかった。新さん、あまり気にしてないみたいだ。つーか、新さんにとっては不便も修行なんだね?
その後、頼りすぎ云々は一時置いといて、ナビさんも交えて何が起こってるか話し合った。というか、ナビさんに調べてもらった。
いやー、ナビさん優秀。目視だけじゃなくて俺の知りたい単語を解説してくれるんだもん。《鑑定》というより《検索》だよね? グ○グル先生か? 俺が《鑑定》機能使わなくなったのも現代日本人ならわかるだろ?
それはともかく、ナビさんの《検索》結果によると、このジェーンは『違法奴隷』だった可能性があるそうだ。
出たよ! 『奴隷』!
でも、奴隷制度自体は身分制社会においてあって当然のもののようだ。新さんにいわせると、戦国時代も、小作人、商家の丁稚奉公、遊女などは売り買いされる奴隷同然の存在らしい。そのための人攫いも横行してたようだし。現代日本だって、人身売買はさすがにないだろうけど(たぶん)、社畜と呼ばれる奴隷とどっちがマシかわからないような人たちもいるんだから、ファンタジー世界だけ責められるものでもないだろう。
で、この世界、奴隷の管理はケースバイケースらしい。犯罪奴隷なんかはきっちり魔法契約で縛っているらしいけど、待遇のマシな借金奴隷で、逃げるよりも真面目に働いて自分を買い戻す目処の立つ場合魔法で縛られることなく働いている場合もあるらしい。農奴とかに多いようだ。魔法契約は奴隷とわかるように魔法の首輪か手の甲に魔法で刺青を入れる。余計にお金もかかるから奴隷の管理がしっかり出来るのなら使わない人も多いらしい。
じゃあ、このジェーンはというと、パッと見、首輪はない。手の甲に刺青もない。どう見ても奴隷には見えないのだ。だが、ナビさんの目は誤魔化せない。それが《状態異常・隷属》のようだ。
これは、《闇属性魔法》の一つで、俺も使えるという事実。マジ?
どうやら不意打ちで倒した監視役の男が術者だったらしい。ナビさんのログに残ってた。いや、術者が命令しておけば誰にでも従うので《闇属性魔法》を持ってるからといって大元の術者とは限らないんだけど、その辺は後でジェーンに確かめてみよう。あ、でも、俺が男を殺した後ジェーンの《状態異常・隷属》がなくなってたんだから術者で間違いないんだろう。これは棚ボタといっていいのか? 怪我の功名ってやつか? 契約によっては術者の死と連動して奴隷が死ぬってパターンもありそうだから今後は気を付けよう。
「落ち着いたか?」
新さんとナビさんとの話し合いが一段落して、俺はジェーンに話しかけた。
「……はい……」
「こっちでちょっと話し合ったんだが、どうやらあなたは違法奴隷だったようだ。違うか?」
「はい。そうです……でも、おかしいんです。そのことは口に出来ないはずなんです」
「それは、あの男が死んだからだろうな。《鑑定》しても今は状態異常が見られない。おめでとう。もう奴隷じゃないよ」
「それは、本当、ですか……ううっ……」
事実を告げるとジェーンはしばし信じられないという表情をしたあと泣き出してしまった。
しばらくジェーンが泣き止むのを待つ。
「すみません。どうしたらいいかわからなくて」
「かまわないよ。気持ちはわかるから。それで、全部話してくれるか?」
「はい。話します。何でも聞いてください」
それからジェーンの話を聞いた。
やっぱり攫われて奴隷にされたらしい。攫ったのはさっきの男ではないというのが面倒な点だ。術者は複数いて、どうやら契約の引継ぎが行われたらしい。ま、これは予想の範疇だったけど。
それで、奴隷にされた後、マネーロンダリングならぬ奴隷ロンダリングで普通の借金奴隷として娼館に売られるところを、別の犯罪ギルドが商会への内通者に仕立て上げるといって強引に買い取っていったそうだ。あとは、俺たちの推測どおり、ハーベスト商会で暗躍させられていたとのこと。情報の漏洩から最後は毒殺? まで。おいおい、ハーベスト商会マジで危なかったんじゃね? 商隊の日程とか護衛の数とか知られていたら襲うのも簡単だ。
「あの、私はどうなるのでしょう? 捕まってしまうんでしょうか?」
ジェーンは俺たちの質問に一生懸命答えてくれた後、恐る恐る聞いてきた。
「ん? いや、ジェーンさんは魔法で無理やり言うことを聞かせられていただけだ。罪にはならないと思う。身分を証明するものは持ってないだろ? 次の街に入るとき『犯罪者識別装置』で調べられるからすぐにわかるよ。もしそこで犯罪者と判断されたら、ま、諦めて正直に何もかも話すといい。今の衛兵さんは真面目な人たちばかりだから、きっと悪いようにはしないと思う」
実際はナビさんの検索で罪に問われないことはわかっていたが、俺たちが高レベルの《鑑定》持ちであることは秘密なので、あくまでも一般論として説明する。出来ればジェーンさんには捕まって神殿行き、なんてことになってほしくない。ハーベスト商会もこれ以上事件を蒸し返されたくないようだから、違法奴隷を解放されたのなら黙ってもとの生活に戻ってもらいたいものだ。ま、ジェーンさん次第だけどな。神殿に訴えて誘拐犯に報復するといわれても俺たちに止める権利はないからな。
でも、この世界だけじゃなく、戦国時代や現代の日本でも、理不尽に対して泣き寝入りするのは一般的な手だった。一高校生の俺はニュースやネットでしか知らないが、国に訴えて勝利しても一時的なことで、その後は更に不幸になる未来しか見えない。報復の報復、結局弱者が負ける。なら泣き寝入りはベストでなくともベターであろう。もちろん中にはすべてを投げ打って一矢報いようとする人もいる。それもまた人間らしさなのだろう。
さて、ジェーンさんはどちらのタイプかな?
「……わかりました。悪いことさせられるより犯罪奴隷の方がマシです。お願いします。次の街まで連れて行ってください」
犯罪称号が付いていないことからも予想できたが、ジェーンさんは真面目な人だったようだ。
一時的だが、旅の仲間が増えました。
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