第58話 俺ってマヌケか!
すみません。差し替えました。
ドルノースを出発してウスノースを目指す途中、盗賊に出会った。いや、これはもう待ち伏せだね。だが、盗賊如きが束になろうと、我らが新さんに敵うはずもない。割とあっさり退治できた。あ、もちろん俺だって戦ったよ? でも、武士ではなく暗殺者っぽいスキル構成の俺は別の仕事があった。少し離れたところに監視者らしい反応があったんだ。逃がすわけにはいかない。だが、その監視者は倒したものの、そばにワケありの女性の姿が。一体何者?
「ケント殿。こちらは首尾よく終わったでござる」
新さんが合流してきた。盗賊に止めは刺したが遺体は放置したまま。それよりも重要なことがあるとわかっているのだろう。さすがだ。
「して、その女子は……なるほど、そなたがジェーン殿でござるか」
「え? な、なんで……」
「ああ。俺たちは鑑定のスキル持ちだからな。名前ぐらいわかるさ」
実は鑑定スキルのことを言わずに名前を聞こうとか考えていた。正直に答えるか、偽名を使うか、その反応が見たかった。
でも新さんがストレートに名前を呼んでしまった。ま、それはそれで話が早い。それに、このジェーンが毒薬混入の実行犯だったとしたら、俺たちが鑑定スキルで捜査していたのを知っているはずである。お互い知らない振りしての駆け引きになるかもしれない。ドラマとしてはおもしろいだろうが、今の俺たちにとっては時間の無駄だ。
そして、先ほどのジェーンの反応は、自分の名前がジーンであることを認めたようなものだ。犯罪ギルドのメンバーにしては迂闊な反応じゃないか? それも含めて演技なら恐ろしいな。
「ケント殿。場所を移さぬか? 亡骸の近くでは落ち着いて話もできまい」
「じゃあさ、先に死体の処理をしようぜ? 誰かが通りかかったら騒ぎになっちゃう」
「道理でござるが、ジェーン殿は……」
「こうしとく。《スリープ》」
新さんも心配しているが、確かに逃げられても困る。じゃあ縛っておくか? それも、通行人に見られたら俺たちが誘拐犯扱いされる可能性がある。
ということで《闇属性魔法》で眠らせた。
ナビさんに彼女の状態が《睡眠状態》になってることを確かめてもらってから、彼女を目立たないように岩陰に移動させた。あ、抱っこじゃないよ。《マジック・ハンド》でだからね?
その後は迅速に死体の処理に移る。冒険者の権利として剥ぎ取りも行う。
もう三度目になるので、倫理観や罪悪感の面では慣れたといってもいい。あとは死体そのものに対する忌避感だ。これは慣れる必要はないだろう。死ねば皆仏様。南無南無。
現金はもちろん、売れそうな武器や装備をジャンジャン俺の《空間倉庫》に入れていく。残った死体は魔法で掘った穴に投げ入れて埋めてしまう。これでアンデットになりにくくなるそうだ。強力なネクロマンサーがいたらその限りではないそうだが、そこまでは責任持てない。
リーダーっぽい男を含めて30人強。結構時間がかかったが、何とか他の旅人が通る前に処理が終わった。
全身に《クリーン》の魔法をかけて、ジェーンのところに戻る。
「なあ、新さん。この人、どうしたらいいと思う? 犯罪者ではなさそうなんだけど……」
まだ《睡眠状態》のままのジェーンを見下ろしながら新さんに相談してみる。
「……難しい問題でござるな。官憲に突き出すのが一番であろうが、元の街に戻るのも手間ゆえ……」
そうなんだよね。戻ったら戻ったで、また根堀葉堀聞かれる。そうすると別の犯罪ギルドの人間に今回のことが知られちゃうだろうし、仁義無き戦いに発展しそうだ。それでハーベスト商会に火の粉が飛んで大火事になったら、それこそ領主どころか神殿が出てきそう。そうなるとアウトだ。ドルノースには戻らない方がいいよな。
それは規定路線だからいいとして、だからどうするって話だ。一歩も進んでない。
「……話聞いてみるしかないよな……」
仕方ないよな。まさか口封じに殺すわけにもいかない。つーか、そんな度胸は無い。
だからって、このまま放置するのもちょっとな。今後の揉め事に繋がる可能性と、無実かもしれない女性を危険な目に遭わせてしまうことに対する罪悪感、この二つの理由で却下だ。
問題は、このジェーンという女性が悪党かそうでないかがわからないことだ。判断材料が乏しすぎる。
でも、話を聞いたら、それはそれで新たな問題が発生しそうなんだよな。痛し痒し?
「某はケント殿の方針に従うでござるよ」
出たよ! この、投げやりござる侍が!
まあ、戦闘は頼りっぱなしだからな。面倒ごとの処理ぐらいやらないとバチが当たるってもんだ。あ、この世界のクソ神たちのはノーサンキューだ。
「じゃあ、起こすぞ。《ウエイクアップ》」
状態異常を解除するなら、覚えたての《治癒魔法》でもよかったんだが、自分でかけた《スリープ》の魔法だ。同じ《闇属性魔法》なら効果があると思う。
鑑定で確認したが、ジェーンの《睡眠状態》はなくなっている。
鑑定どおりに、ジェーンはゆっりと目を覚ました。
「……ヒッ!」
地面に寝かせられてままで、しかも男二人に上から見つめられている状況。寝起きだと尚更恐いだろうな。
「落ち付け。《リラックス》」
これも《闇属性魔法》である。字面は悪者っぽいが精神面に作用する魔法が多いのが特徴だ。
「あ、あの……わ、私をどうするつもりですか?」
少しは落ち着いたのだろうか、ジェーンは上半身を起こし、俺たちに問いかけてくる。
自分を抱きかかえているポーズが、信用していないと主張しているみたいで少し悲しい。ま、当たり前か。
ここでもう一つ魔法をかける。《思考誘導》だ。
アークノ商会の事件で大活躍した魔法だが、今回は気休め程度だ。何故なら彼女の立ち位置が全くわからない。仲間の振りなどできようがないじゃないか。
「少し聞きたいことがあるだけだ。正直に答えてくれ」
「な、なんでしょうか?」
どうやら問答にはなりそうだ。
俺と新さんは、いつまでも立っているのもアレなので、彼女の前に座る。もちろん地べたにだ。一々気にしていられない。
「まずは、あなたが何者かということ。犯罪ギルドの一員で間違いないか?」
「…………」
「答えないか……じゃあ、これだけは教えてくれ。あなたはハーベスト商会の使用人だったジェーンさんか?」
「はい……えっ? な、なんで……」
ジェーンが突然慌てはじめた。どうしたんだ?
俺は新さんと目を合わせるが、新さんも何が何だかわからない様子。
ここで頼りになるのは……
「(ナビさん、彼女どうした? 混乱の魔法でもかけられたのか?)」
『回答;魔法による異常状態ではないので鑑定結果には反映されません』
「(ん? どういうこと?)」
『回答;いわゆる『素』で混乱していると推測されます』
「(素でって……何があった? ナビさん、わかる?)」
『回答;《状態異常・隷属》から突然解放されたため、と推測できます』
「(ん? ん? なんか、とんでもない情報聞いた気がする!? ねえ? それってさっき聞いてないよね!?)」
『回答;先ほど鑑定時に中断の指示が出ました』
え? ああ! そういえばジェーンって名前が出て来てビックリして、なんか止めた気がする!
あちゃー……俺ってマヌケか!
「(な、ナビさん……すみませんが、さっきの記録、今度は見えるようにできますか?)」
『回答;了解しました』
ナビさんが出してくれた網膜? 脳内? パネルにはしっかりと《状態異常・隷属》と書いてありました。
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