第56話 旅の再開
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俺、ちょっとナーバス。現実はラノベみたいにスッキリ解決しないことってあるんだね? おかげで色々妄想しちゃった。社会の闇がーとか、アホみたい。やだやだ。早く日本に帰れないかなあ……
「お世話になりました!」
「いいえ、こちらこそ。あなた方は私たちの恩人です。これでお別れするのが残念でたまりませんわ」
ハーベスト商会と犯罪ギルドが非公式に和解してから10日間過ぎた。俺たちが異世界に来てから31日目、この世界の暦で6月25日のことだ。
治癒師のお墨付きもあり、ムングルトさんは目に見えて健康を取り戻したので、ついに商会長業務に復帰するときが来たのだ。
復帰後最初の仕事はアークノ商会とのアレコレを処理することらしい。大変そうだね。
約束どおり、俺たちの護衛は今日で終了ということになる。もちろん犯罪ギルド関連では何も事件は起きなかったからでもある。領主との面会も無事果たせ、事情を知ってもらったのも大きい。たぶんこの件で神殿が関わることもないだろう。俺たちにとってはそれが一番の朗報である。
ムングルトさんが早速商館へ出向くというのでその前に別れの挨拶をする。前々から予告はしていたので特に騒がれることはなかった。専属で護衛をという話も何度もあったけど断ったからね。
名残惜しいけど、これでサヨナラである。
ちなみに、カマロたち『稲妻とグリフォン』の4人は専属の護衛になった。邸宅の護衛か、商隊の護衛かはまだ決まっておらず、しばらくはムングルトさんに張り付いているそうだ。まあ、ドルノースに戻ってからは襲撃なんてなかったからね。もう大丈夫だろう。
門の前では、ムングルトさん、アマンダさん、ガーランドさんを始めとした使用人さんが並んで見送ってくれた。2週間以上もお世話になったから本当に名残惜しい。
「それじゃ、お元気で」
「はい。お二人とも、ありがとうございました」
湿っぽくならないよう軽い挨拶に止め、邸宅を出る。後ろは振り返らない。きっとこれからもこういう別れはあるのだろう。一生定住するつもりはないのだから。
「寂しいものでござるな。某、故郷を離れた時のことを思い出したでござる。それほど時が経っておらぬというのに……」
横を歩く新さんが呟く。
そうか。藩換えで故郷を追い出されたんだよな。
俺はといえば、そんな経験はない。精々中学校の友人が別の高校に行ったとかぐらいだ。
なんだろう? 辛い経験をしたいわけじゃないけど、そういう経験がないと立派な大人になれないんだろうか? 辛いこと悲しいことなく一生を終えられたら、それが一番幸せなのかもしれないけど、一庶民にそれは難しい。現に異世界転移なんてトンデモ体験してるんだ。
じゃあ、苦労は買ってでもせよ? 我に七難八苦を与え給え? いやー、そういうM的発想はちょっと……
やっぱり新さんの言う通り、塞翁が馬だよ。ケセラセラだね。
俺たちはそのままドルノースの街を出た。
ギルドにも宿にも寄らない。
宿はともかく、ギルドで適当な護衛依頼を受けて旅費を節約してもよかったんだが、相談の結果見送りとなった。因縁のあるドルノース、ウスノースの街を出るまでは自分たちのペースで、なるべく早く進みたいから。
軍資金は十分ある。アマンダさんから護衛料としてかなりの額を受け取った。いいのかって聞いたらアークノ商会から搾り取るってムングルトさんが笑って言ってた。ムングルトさん、初めて会った時は頼りなさそうに見えたけど毒のせいみたいだった。ホントはやり手なんだろうな。そうそう。お金といえば馬2頭の分も含まれているらしい。うん、馬はね、世話が大変そうだし維持費もね。アイテムボックス持ちの俺たちにとってそれほどメリットはないんだ。新さんなんかたぶん馬よりも足が速いからなおさらだ。
アイテムボックスといえば、新さんがついに空間魔法を獲得した。まだレベル1で容量も旅行用トランク一つくらいだけど、これは大きな一歩だ。無属性魔法があるから両方鍛えれば成長も早いはず。いずれは瞬間移動も夢じゃない。
俺? 俺も当然新しい魔法をゲットしたよ。念願の治癒魔法。ナビさんに再三神殿に関わらないか確認して特に問題ないとのことだったので張り切って修行していたのだ。ムングルト邸での待機期間中ようやくものになった。まだレベル1だけどな。これで心残りはテイムスキルだけかな。ゴブリン君のことがあるので魔王扱いされないかが恐いところだが、せめてスライムはテイムしてみたいじゃないか。きっとお約束のテイマーズギルドなんかがあるはず。相談してみよう。
「ケント殿、囲まれているでござる」
ウスノースに向かって、心持ち早足で進んでいると新さんから警告する声が。
しまった。頭の中でリザルトしてて周りに注意いてなかった。反省、反省。
改めて見回すと、ここは初めてアマンダさんたちに出会った、荒野近くの街道である。大きな岩や枯れ木が無数にあるので隠れる場所には事欠かない。マップと気配察知を確認すれば、30人ほどが俺たち二人を囲もうとして近づいてきているのがわかる。
「あー、これって犯罪ギルドかな?」
「そう考えるのが妥当でござろうな」
このタイミングで普通? の盗賊とは考えにくいよな。ハーベスト商会とは手打ちしたけど、今は無関係の俺たちがドルノースを出て行くのなら襲っても問題ないと。仕事の邪魔した俺たちに報復しようと。うん。ありそう。てか、逆恨みの八つ当たりだよね。
「どうする? 逃げる?」
俺の頭では対策は2つしか思いつかない。戦うか逃げるかだ。
逃げるとしたら、進行方向に突っ切ってウスノースまで走り抜ける。或いは、今ならドルノースの街もそう遠くないので一度戻って衛兵さんに御注進だ。
「逃げるなら正面突破でよかろう。こうも囲まれてはどちらを向いても同じこと。であるなら前に進むのみでござる」
なるほど。新さんも大体俺と同じ考えだね。口にはしないけど、ドルノースに逃げ戻るのは嫌みたい。俺だって、そう思う。恥ずかしいとかじゃなく、アマンダさんたちに迷惑がかかりそうだから。まったく、折角手打ちしたんだから大人しくしておけっつーの! 契約違反だと看做されて、領主どころか神殿にまで話が行ったらどうしてくれるんだよ!
「じゃあ予定通りってことで。戦って勝てそうなら全部倒す。勝てそうになかったらダッシュで逃げるってことで」
「奪取? ああ、指南役殿、かたじけない。わかり申した。だっしゅでござるな?」
「そうそう、ダッシュ。さて、突っ込みますか」
スキル『言語理解Ⅸ』は神爺さんにもらったチートじゃないからか、どうもバグがあるっぽい。新さんの『ござる』とかな。一体俺の現代日本語は新さんにはどう聞こえているんだろうか?
おっと、目の前に盗賊たちがいるんだ。くだらない妄想は止め、止め。
俺たちは素知らぬ振りして、且つ、少しペースを上げて進んだ。
すると、左右から矢が射掛けられた。それも何本も同時に。
俺は槍で、と見せかけて無属性魔法のマジックハンドで飛んできた矢を叩き落とす。新さんは、刀ではなく剣で。レベルが高いからそれほど難しくはない。
ちなみにこの剣と槍は『稲妻とグリフォン』の前のメンバーの形見分けでもらったものだ。役に立てたよ。迷わず成仏してくれ。
「死ねー!!!」
矢のあとは盗賊たちが自ら襲い掛かってきた。
おかしい。
テンプレならここで『命が惜しかったら身包み脱いで置いて行きな』とか盗賊らしい口上があるはずなんだが……そこまで恨まれてたか。
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