第50話 あれ? 依頼料ってどっからもらうんだ?
ハーベスト商会に対する一連の犯罪行為は全貌が明らかになった。被害は商取引上の詐欺による損害と従業員や護衛に死傷者が出たこと。幸いなのは商会長であるムングルトさんの命に別状がなかったことだけだ。首謀者は捕まったけど、実行犯には逃げられた。しかも更に後ろには犯罪者ギルドの影が。これってどうすればいいの?
「では、我々はこれで引き上げます。行方不明の使用人は引き続き捜索しますが、何か異常がありましたら通報してください」
昼下がり、衛兵隊はハーベスト商会の事件から一旦手を引くことが決まった。形だけは捜査継続中になるが、商会長であるムングルトさんの護衛は不審人物の失踪により当面の安全が確保されていると判断されたのだ。ぶっちゃけ、そこまで付き合っていられないということらしい。
「お世話をかけました。護衛はこちらで探します。ありがとうございました」
アマンダさんも結構淡々としている。俺と違ってこちらの世界の価値観が近そうな新さんも焦りはないようだ。
いや、俺だって理屈はわかる。ただ一点だけ、この先神殿が関わってくるのかどうかが不安なのだ。こう考えると自分が自己中の人でなしみたいに思えて嫌になってしまう。現代日本人のメンタルの弱さなんだろう。
ああ、なるほど。ラノベの主人公が正義感を振りかざすのはきっとこの感覚が嫌で堪らず、他人にいいところを見せようと張り切っているのかもしれないな。
さて、俺はどうしたらいいんだろうか?
とりあえずお暇しよう。宿でゆっくり休んでから考えるか。
「じゃあ、アマンダさん、俺たちも今日はこれで。さすがにギルドの研修は受けないとマズイですから」
「ああ、ケントさん、シンノスケさん。本当にありがとうございました。おかげで主人も助かりました」
何度目になるかわからないアマンダさんの礼の言葉。聞き飽きたなんて失礼なことは言わないが、さすがに気恥ずかしい。完全に解決したわけじゃないので一層居心地が悪い。
「アマンダ殿、まだ安全と決まったわけではない。しばらくは注意されよ」
ああ、新さんも同意見のようだ。
「はい、気をつけます。あの、これからも護衛の依頼を引き受けていただけますでしょうか?」
俺と新さんは顔を見合わせる。
え? 俺が決めるの?
新さんとの付き合いは、それほど長くはないが短いともいえない。なんとなく言いたいことはわかった。
「あー、アマンダさん。その件はギルドの研修が終わってからにしてください。状況によってはまた旅に出るかもしれませんので、ここでは確約できません」
「そう、ですか。わかりました。ギルドには指名依頼を出しておきます。ご一考ください」
「はい。考えておきます。それでは失礼します」
俺たちは衛兵隊が去った後、同じようにアマンダさんと使用人さんたちに見送られて屋敷を出て行った。
大通りに出てアマンダさんの屋敷が見えなくなる。俺は思わず背伸びをした。
「あー、何か疲れた。新さん、メシ食って、さっさと寝ようぜ?」
「そうでござるな。某もさすがに気疲れしたでござるよ。ああ、ケント殿、ギルドとやらは行かなくてよいのでござるか?」
「それかぁ。うーん、いまいちシステムがわからん。依頼もギルドを通してなんだかアマンダさんから直接受けたのかも把握してなかったな。研修前の緊急事態だったし、今回はしょうがないとしてもこれからは気をつけたほうがいいな。あれ? 依頼料ってどっからもらうんだ? 新さん、もらってる?」
「そういえばもらってないでござるな」
「アチャー。どうしよ? あー、頭が働かない。新さん、やっぱり今日は休もう。明日ギルドに行ってから相談しよう」
今からアマンダさんの屋敷に戻って依頼料の話をするのはバツが悪い。この感覚も現代日本人っぽいのかもしれん。でも、休みたいのは本当だし、そういうことにしておこう。
「そうでござるな。まずは身体を労わるのが上策でござろう」
新さんの同意が得られたのでそのまま宿に向かう。
この街では俺たちはほとんど活動していないので道は不案内だ。スキルにマップがなかったら確実に迷子だな。何せこの街に初めて来たときは筋肉痛で寝てたし、その後もハーベスト商会と衛兵本部にしか行ってないもんな。ちょっと買い物に出かけた新さんも似たようなものだろう。いやー、スキル様様だな。
そんなスキルのおかげで迷うことなく定宿? 『黄金の猛牛亭』に到着した。
「女将さん、部屋空いてますか? あ、カマロのおっさん、帰ってきてます?」
「おや、帰ってきたんだね。部屋は空いてるよ。二部屋でいいんだね。カマロは昨日から泊まってるけど、今日は出かけたっきりまだ帰ってきてないよ。一緒じゃなかったのかい?」
「じゃあ、二部屋お願いします。カマロのオッサンは、昨日までは一緒といえば一緒だったんだけど、あっちは追加で依頼を受けてるんじゃないかな? そういえば、カマロたちって部屋を借りっぱなしなんですか?」
「一部屋だけは長期で借りてるんだよ。期限まで生きてりゃ、また泊まってくれるからね、いいお客さんだよ」
「へ、へー。そうなんだ……」
生きてりゃって、恐いこと平然と口にするなぁ。
しかし一部屋だけ長期で借りてるのか。そういえば仲間の荷物が置いてあるとか言ってた気がする。あれはこのことか。ま、荷物全部持ったまま仕事は出来ないよな。アイテムボックスがあるわけじゃないし。そうすると宿に住んでる冒険者も大変なんだな。せめてアパートがあればいいんだろうけど。
それより、今日はアマンダさんのお屋敷でカマロに会わなかったな。今まで忘れてたけど、何してるんだろ。ギルドに報告には行ったんだろうけど、そのあとは屋敷の警備でもしてたのかな?
「何だい? カマロに急用かい?」
「急用ってほどじゃないです。ギルドのことで聞きたいことがあるだけで、明日直接ギルドに聞いてもいいですから。それより、もう食事はできますか? 食べて寝たいです」
「夕食には早いけど、構わないよ。食堂で待ってな」
「はい。ありがとうございます」
「かたじけない」
カマロがこの宿に泊まっているという情報は手に入れたが、焦る必要のない俺たちは宿泊の手続きをしてから食堂に向かった。
待つことしばらく、日替わり定食みたいな夕食がやってきた。
もうこの世界の料理には慣れた。美味しくいただくと急に疲れが増した気がする。
時刻はやっと夕方になったぐらいだ。少し早いが今日はもう寝てしまおう。
新さんも同意見らしく、無言で部屋に向かう。
「それじゃ新さん、お休み。あ、明日はゆっくりでいいよね?」
「それで構わぬでござる。ケント殿もゆっくりお休みくだされ」
部屋の前で挨拶し、新さんと別れる。
部屋に入ってベッドに飛び込んだ。風呂があれば浸かりたかったが、ないものはしょうがない。クリーンの魔法があるだけ贅沢なことだろう。
寝たまま魔法をかけてスッキリ。
ではお休みなさい。
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