第48話 死んだ人間はもう捕まえられん
突然姿を消した使用人、誘拐か、それとも逃亡か。証拠らしいものはベッドの上にポツリと置かれた毒のビン。だが、思いもよらぬ証言が飛び出してきた!?
執事っぽいガーランドさんの口から、失踪した使用人ジェーンの身元について紹介者が衛兵隊の幹部だという話が出てきた。
そして隊長さんからは、その幹部が犯罪者ギルドと癒着しているという内部情報がダダ漏れした。
「えーと、その話、俺が聞いていいんですか? 外に出てましょうか?」
「かまわん。恥だが今更隠すことじゃねえ。ていうか、隠したら俺も犯罪者になっちまう。冗談じゃねえよ」
「ああ、そうでしたね。あの装置があったんでした……じゃあ、その人捕まえればジェーンさんが実行犯かどうかもわかるし、犯罪者ギルドに繋ぎを取ってこれ以上ハーベスト商会に手を出さないように交渉もできますね? 一件落着ですか?」
「そうもいかねえんだよ、これが」
「え? 庇うと共犯になるんじゃ……」
「違えよ! 物理的に捕まえられねえんだよ」
「よくわかりませんが……」
「粛清だよ、粛清。死んだ人間はもう捕まえられん」
「あ、もういいです。聞きたくありません」
「かまわねえから聞け」
「えーっ?」
政治の闇になんて関わりたくないのに、隊長さん、俺は部外者ですよ!?
「知っての通り、神殿にお告げがあった」
いいえ、知りません。とは言えないだろうな。神妙な顔して聞いてるフリした方がいい。神妙ってなんだろ?
「この町、この国だけの話じゃねえ。世界中でだそうだ。上の連中は大騒ぎだったろうよ。今でもだがな。だが、神託に逆らうワケにはいかねえ。それでも貴族連中は悪足掻きした。判別装置が少ないことを言い訳に審判の順番を後回しにしやがったんだ。完全に逃げられるとは思ってはないようだが、罪状を減らせればせめて生き残ることぐらいはできるかもしれねえからな。司法の改革から始めた方が効率的だって名目もある。それで俺たち衛兵や下っ端の役人が審判を受けたんだが、犯罪者の反応が出るわ出るわ。神殿主導だから否定もできねえよ。その上、貴族に関わりがあった連中はロクに調査もしないまま処刑だ。ま、口封じだな。神殿で調べればわかることなのに、悪足掻きがすぎるぜ。ただ、時間稼ぎにはなったろうよ。衛兵が減りすぎてその後の平民の審判も滞ってる。判別装置が大量に出回らないととても貴族にまでは手が出せねえってわけだ。わかったか?」
「いや、それマジで俺が聞いていいことなんですか? ていうか、この事件と関係あるんですか?」
「そのうち神殿から正式に発表されるだろうし、耳聡い連中なら知ってるだろうよ。それに、問題のエーゲルは、ちょっとした悪さなら衛兵をクビになるだけで済んだんだろうが、貴族にも通じてたからな、文字通り首が飛んだってことだ。」
「あー、そういうこと……あ? じゃあ、この件、その貴族が関わってたり……」
「それはわからん。だが直接は関わってないだろう。精々犯罪者ギルドの後ろ盾ってところだ。わかりやすく関わってるんなら逆に話が早い。もしかしたらその貴族が犯罪者ギルドをこの件から手を引かせたってことも考えられる」
「どういうことですか?」
「いや、お前さんも言ってただろ? ジェーンのいなくなったタイミングがおかしいってな。だが、報告によると今日使用人すべてを調べる予定だったんだろ? その前にいなくなったんだから別におかしくはないな」
「でも、それならもっと早く逃げればいいんじゃないんですか?」
「お前さんにとっちゃそうかもしれんが、雇われただけの人間にその判断はできねえだろうよ。今の衛兵に内通者はいないはずだから、ヤツラがウスノースでの一件を知ったのは俺たちがハーベスト商会に護衛を手配した後のことだろう。それから事実確認するとなると数日はかかる。今日逃げたというなら早い方じゃないか?」
「なるほど。それはわかりましたが、貴族が手を引かせたっていうのは?」
「ああ、そういう可能性もあるってことだ」
「なんだ、可能性の話ですか……」
「だが、馬鹿にはできねえぞ? 少し頭のいい貴族なら悪事の揉み消しに躍起になっているところだ。すでに発覚した事件に関わっているならさっさと手を引かせて自分に辿りつかないようにしたいだろうよ」
「頭のいいって……もし、頭の悪いのが相手だったら?」
「そん時は諦めて、神殿に頼ればさすがに手は出してこないと思うぞ?」
「結局神殿ですか……」
チラリとアマンダさんを見てみる。
どうしても犯人がわからず、ご主人のムングルトさんが狙われ続けるのならば、神殿に高額の費用を払ってでも事件を終わらせたい。そうアマンダさんは言っていた。
だが、長い間アークノ商会に騙されていて資金繰りも悪いのに、ペイバックがなさそうな神殿を頼っていいものだろうか?
もちろん、人の命は金で買えない。いや、安全を金で買うと思えば、神殿という選択もアリなのか?
わからん! あー、新さんがいてくれたらなー。
「話はわかりましたが、これから俺はどうすれば? 言われた毒の発見と鑑定はしましたけど」
「あー。そうだったな。悪いが最後に発見現場に立ち会ってくれ。それでお前さんの仕事は終りでいい。会長夫人、ジェーンとやらの捜索は続けますが、名前は変えるだろうし、スラムに逃げ込まれたりすると現状では手が出せません。申し訳ない。こう言っては何だが、この事件で死んだのは使用人と護衛の冒険者だけです。金銭的損害もウスノースからの報告では戻ってくるようで、我々が掛かりきりになるほどの事件じゃないと上には判断されるでしょうな」
「……わかりました。死んだ人には申し訳ないですが、主人はまだ生きております。これからは私が主人を守ります」
アマンダさんは一瞬落胆したあと、何か決意したような表情になっていた。
隊長さんは一礼すると部下とともに臨時会議室を出て行った。
俺も、何も言うことができず、黙って後に続く。
事件現場、というか、ルビーさんとジェーンの部屋には俺が二人を案内することになった。
終始無言のまま。非常にツライ!
「ここです。毒のビンには触ってませんが、鑑定は出来ました。確かにウスノースのアークノ商会で鑑定したビンの中身と同じです」
「そうか。記録して回収しろ。ウチの鑑定持ちにも調べさせる」
「はい」
隊長さんの指示で書記係が記録し、その後直接ビンに触らないようにして持っていたカバンにビンを回収した。
これで俺の引き受けた仕事は終わった。
正直、不完全燃焼な気がしてならない。
新さんはこれからどうするのだろうか。
隊長さんに聞くと、これから使用人全員の身元を調べ、もしジェーンの他に怪しい人間がいなかったら少なくとも屋敷の中は安全だと看做して護衛役の衛兵も引き上げさせると言う。
俺に反対する理由も資格もない。
ただ『そうですか』と答えた。
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