第47話 俺が聞いててもいい話なの?
毒は見つかったが、犯人の姿は杳としてしれない。しかも衛兵隊の捜査方法にケチをつけてしまった。侮辱罪とか不敬罪にならないだろうな?
「いや、気にするな。後手に回ったのは確かだからな。だが、毒は見つかったし使用人の女も消えた。これで大々的に捜査ができる。身元確認もする。その前にお前さんの意見も聞いておきたい」
「必要ありますか?」
「捜査の参考にはなる。ウスノースで主犯を捕まえたんだろ? 俺たちより状況に詳しいはずだ」
「あー、そういわれればそうなんだけど……じゃあ素人考えですが、毒が見つかったことと使用人さんが消えたことについては、なぜ今日というタイミングなのかという疑問はありますが、大まかに二つのパターンが推測できます。証拠も何もありませんが」
「言ってみろ」
「いいんですか? 只の憶測ですよ? 捜査の邪魔になりません?」
「かまわん」
「じゃあ……一つ目は、いなくなったジェーンさんに罪を着せるパターン。その場合どうやってジェーンさんを連れ出したかという点と毒の発見場所があからさま過ぎるという点がネックですけどね」
「……ベッドの上だそうだな。その場合、容疑者は同室の使用人になるが……」
ルビーさんは隊長さんの発言を聞いて今にも卒倒しそうな表情だ。
「……まあ、犯罪者判別装置を使えばわかることだ。だが、他に犯人がいるとしたら同室のこの子に気付かれないようにジェーンを連れ出したってことになる。難しいんじゃないか?」
「ええ。でも、魔法がありますから」
「お前さんならできるってか?」
「ええ、まあ……って、何を言わせるんですか!」
これは、俺まで容疑者候補に!?
「冗談……でもないな。魔法のことは頭に入れておく。捜査は面倒だが逆に容疑者も少なくなる。使用人の人数ぐらいなら片っ端から装置にかけるって手もあるから心配するな。で、次は?」
「全く……えーと、二つ目のパターンですが、これはメッセージじゃないでしょうか」
「メッセージ?」
「ええ。闇ギルド? 犯罪者ギルドでしたっけ? アークノ商会が捕まった情報が流れたんなら、依頼を受けた人間はどうするんでしょうかね? 律儀に依頼を遂行し続けるのか、それとも依頼を破棄するのか。まあ、俺はそのギルドの人間じゃないのでどんな掟があるのか知りませんけど、こうもあからさまに『毒』を置いてったってことは……」
「なるほど、犯罪者ギルドは手を引くって言いたいのか」
「そういうパターンもあるってことです。まあ、これが陽動で、こちらが油断したところで暗殺しに来るって可能性だってあるので何ともいえませんが」
「おい、パターンとやらが増えてるじゃねえか」
「仕方ないでしょう。証拠がないんだから。推測だけならいくらでも出来ますよ。一番恐いのはアークノ商会だけじゃなく犯罪者ギルドに恨まれていないかですね」
「事件の発端は横恋慕からの逆恨みだったな。犯罪者ギルドは金さえ払えば大抵の仕事は引き受ける。くだらん理由だが、金ヅルを一つ失った連中がどう出るか、確かにわからんな。下っ端とはいえ大量に殺されてるしな」
横恋慕という発言にアマンダさんは俯く。本当にくだらない理由だな!
「おっと、会長夫人、申し訳ない。あなたが悪いわけではないのは重々承知している。我々も以前の衛兵隊とは違いますからな。必ずやこの事件は解決してみせますぜ」
「どうかお願いします。主人の命さえ助かれば何もいうことはありません」
「……それは実行犯が捕まらなくてもかまわないってことですかな?」
言い方!
それじゃあ犯罪者ギルドと取り引きしてもOKって聞こえるよ!?
「はい。お任せします」
あー、アマンダさんもそのつもりらしい。
部外者の俺が口を出す問題じゃないな。別に俺は正義感の強い主人公になりたいわけじゃないから、安全さえ保障できるなら、それもアリかと思う。
新さんはどう思うんだろう? 戦国時代も正義だけで世の中回ってるわけじゃないから、何とも感じないかもしれないし、悪即斬とかいうかも知れない。わからん。後で聞いてみよう。
「会長夫人の考えはわかりました。ですが、隊の規律を修正したばかりでしてね、私も下っ端から抜擢されたんですよ。裏社会にコネなんぞありませんや。まあ、それでも捜査はハーベスト商会が恨まれないように気をつけるようにしましょう。こちらもこれ以上仕事が増えても困りますからな」
「どうぞよしなに」
隊長さんはハッキリと犯罪者ギルドとの関係を否定した。今の衛兵隊は犯罪者判別装置を使って選別された隊員で構成されているのだろう。だが、口ぶりからして『悪即斬』の過激な正義漢なわけではなさそうだ。よく聞く『水清ければ魚棲まず』や『清濁併せ呑む』を私利私欲のための御題目じゃなくて公共の利益のために柔軟に利用できそうなタイプなんだろう。たぶん。
そんな隊長さんがクルっと俺の方に顔を向けた。
「なんだ? そんなに見つめて何か問題か? 悪党は徹底的に叩けとでも言いたいのか?」
「え? そんな顔してました? とんでもない。隊長さんの方針、男前だなーって思いましたよ。俺なんかじゃ落としどころがわかりませんし」
「お、おう、そうなのか。まあ、俺も前の上司に嫌われて甘い汁を吸う機会もなくてな、結果的に首が繋がっただけのことだ。自慢できるようなもんじゃねえよ。おっと、のんびりしちゃいられねえ。会長夫人、これから現場検証と使用人の身元を洗うつもりなんですがね、名簿なんかはありますかい?」
あまり部外者に内情をバラさないでいただきたい。
隊長さんもマズイと思ったのか、慌てて本題に戻した。
「はい。すぐに持って来させます。ガーランド」
「かしこまりました。名簿は執務室に保管してございます。こちらにお持ちしますので少々お待ちください」
今まで黙ってアマンダさんの後ろに控えていた執事? のガーランドさんが話を引き取った。
「いや、部下を行かせる」
「かしこまりました……あの、僭越ながらジェーンについて先にお話したいことがございます。よろしいでしょうか?」
「情報があるなら隠さず出してくれ」
「奥様、名簿を提出すればわかることですので、かまいませんでしょうか?」
「ええ。こちらも隠すことはありません。ガーランドも私にかまわず協力してください」
「はい。そのように。隊長様、私どもハーベスト商会にお仕えする使用人はほとんどが先代のころよりお世話になっております。若い者も親からの引継ぎでしたり親類縁者だったりでございます。ですが、ジェーンに関しては外部からの紹介でございました」
「ほう? どこのどなた様からの紹介なんだ?」
「それが、衛兵隊の幹部さまからのご紹介でした。ある貴族様の添え状もございましたので雇わないという選択はなく……」
「そいつは……聞きたくない話だが、そうも行かないところが辛いな。一体誰なんだ?」
やっぱりウスノースから連絡が来てすぐに身元を洗っておけばよかったんじゃないか? 誰が聞いても怪しさで一杯だ。隊長さんもそう感じてることだろう。
「エーゲス、という方でございます」
当然俺にとっては知らん名前だが、隊長さんはその名前を聞くと額に手を当て天を仰いだ。かなりショックのようである。
「……そいつで決まりだろう」
「えーと、隊長さん? その人がどうかしました?」
「……身内の恥を晒すことになるが、今更隠せねえ。エーゲスは犯罪者ギルドと癒着してたんだ」
これ、俺が聞いててもいい話なの?
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