第44話 こっち見んな!
やっと帰ってきたら衛兵本部で取り調べ。俺は無実だ! ……ちょっと嘘の報告をしただけです。それも自分のスキルを正確に教えていないだけです。どうせ証拠能力はありませんよ。
沈黙を破ったのはアマンダさんであった。
「あの! 犯罪者判別の魔道具を使って調べることは出来ませんか?」
アークノ商会の捕り物にも参加していたアマンダさんは現物を見ているので、そのアイデアが出てきたのだろう。当事者としては一刻も早い、手っ取り早い解決が望みなのだ。
「バカいっちゃいけませんぜ。そりゃ容疑者が一人二人で済むんでしたらそれも考えていい方法ですがね、怪しい人間を片っ端から調べてたら魔石がいくつあっても足りやしませんよ。そうなったらいっそ神殿に駆け込んだほうが早い上安上がりでしょうな」
隊長さんからわかりやすい答えが出る。ホント、神殿が安く使えるなら誰も犯罪を犯さないよね? これも神どもの予定調和なんだろう。この世界はユートピアでもデストピアでもない。
「……やはり神殿に頼むしか……」
「毒の判別さえできりゃあなあ……」
アマンダさんが最終兵器を頼ろうとしたとき、隊長さんは意味ありげにこっちを見た。
こっち見んな!
そんなネタは振れない。
しょうがない。ナビさんと相談して、ギリギリの線を攻めよう。新さんにも伝言を頼もう。
「あのー、一応報告はしたハズなんですが……区別ぐらいは出来ると思いますよ?」
「なに? そんな報告はもらってねえぞ?」
「いや、そんなこと俺に言われても……」
「ケントさん! それは本当ですか? 教えてください!」
隊長さんの追及が始まる前にアマンダさんからインターセプトが入った。グッドタイミング!
「そ、そうだ。まずはそれを教えてくれ」
隊長さんもその流れに乗るようだ。よしよし。
なんか、俺、こんな性格だったか?
「いえ、そう難しい話じゃないんですけどね、確かに俺の鑑定ではあの商会長の言ったとおり毒だとは判別できませんでしたが、見えた内容に聞いたこともない成分があったので、それを見たらわかるんじゃないかと……」
これは本当のことだ。
ナビさんに鑑定のレベルごとに表示を出してもらって疑われないギリギリの内容を教えてもらったのだ。
「それはお前さんが鑑定すればわかるってことか?」
「ええ、まあ。たぶんほかの人でもわかるとは思いますが。だって、見たことのない成分のものって怪しいでしょう?」
「その成分てのはどんなものだ?」
「いや、さすがに全部は覚えてませんが、言ったとおりもう一度見ればわかると思います。あ、一つだけ覚えてました。『ウーメのエキス』だった気が……『ウーメ』ってこの辺では一般的なものですか?」
「いや、知らんな。部下にも調べさせる。毒になるっていうんなら治療院にも聞いてみるが、そこでの治療で今までわからなかったんだから望み薄だな」
「ケントさん! お願いです! 主人の身の回りを調べてください! 依頼料はいくらでもお支払いしますから!」
隊長さんが景気の悪いセリフをいうと、アマンダさんが興奮気味に俺に依頼してくる。
まあ、予想の範疇だけどね。
「俺からも頼むぜ。アマンダさんたちには世話になってるんだよ」
カマロまで参加。はいはい、わかってます。
俺は新さんに目配せする。
「ケント殿、こうまで頼まれては引き受けてもよいのでは? これも乗りかかった船でござるよ」
「ああ、そうだな。このままサヨナラじゃ後味が悪いからな」
あくまでも仕方なく依頼を引き受けるというポーズを演出してみた。
目立ちたくないというアピールでもある。
「そうか。そっちで動いてくれるんならありがたい。犯罪ギルドの調査なんて、どれも怪しいやつしかいねえからな。絞りきれねえよ。
そうだ、ウスノースじゃ臨時の衛兵になったんだろ? こっちでもそうしてくれ。後始末が楽になる。お前さんも目立ちたくはないんだろ?」
う、見抜かれてる? 怖いな、この隊長……それとも俺の態度がわざとらしい?
「わ、わかりました。それでオネガイシマス……」
こうして俺たち二人はまた衛兵の格好をすることになったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
気が早るアマンダさんとそれを抑えるカマロ。
それとは別口で、俺と新さんは衛兵の格好をして、もう一人本物の衛兵さんと3人でハーベスト商会に向かった。
この衛兵さんは隊長さんから事情を聞いていて、俺たちのサポートをすることになっている。もちろん犯罪者判別装置を潜り抜けた真面目な衛兵さんだ。
ハーベスト商会に行くと思っていたら別のお屋敷に馬車が入っていった。到着と同時にアマンダさんは中に駆け込む。
ああ、そうか。自宅は店舗と別なんだ。
それはともかく俺たちも続いた。
護衛役で来ていた衛兵さんに捜査に来たことを報告する。もちろん一緒に来た衛兵さんがだ。
「こちらです。あなた、ただいま帰りました! 身体は大丈夫ですか!」
建物に入るとアマンダさんは俺たちを引き連れ、奥まった部屋に直行した。ドアを開けるとそこがご主人の寝室らしい。いや、病室かな?
「アマンダ……君こそ無事でよかった。また襲われたんだってね。ごめんよ、何もできなくって……」
ベッドに寝たまま、アマンダさんの旦那さん、ハーベスト商会の会長さんはアマンダさんが入ってきたことに気付くとか細い声で出迎えた。
「いいえ! 私こそ、あんな男の企みに気付かないで、あなたをこんな目に合わせてしまって、ごめんなさい!」
「アマンダ……」
「あなた……」
ベッドの上の旦那とその脇のアマンダさんが見詰め合っている。
「コホン……あー、すみません、ちょっとよろしいですか?」
夫婦二人っきりにしてやりたいところだが、ここは敢えてお邪魔虫になってやろう。
「ハッ……あ、あら、申し訳ございません。あなた、こちらのケントさんにお願いして毒を探してもらえることになったのです」
「話は衛兵さんたちから聞いたよ。鑑定できない毒なんだってね、信じられないよ。恐ろしいね。ああ、ケントさん、こんな格好で申し訳ございません。この度も私どものことでお手数かけます」
ご主人のムングルトさんが無理に起き上がろうとしながら俺たちに挨拶してくる。この前初めて会った時よりも更にやつれている気がする。治療を受けて治ってはいるらしいが、ホントか?
「ああ、ムングルトさん、そのままで結構です。安静にしててください。では、時間も時間ですから早速調べさせてもらいます。ああ、アマンダさんもお疲れでしょう。休んでてください」
ウスノースから戻ったばかり、かなりの強行軍で予定より早くドルノースに到着したものの、もうそろそろ夕方になる。アマンダさんだって着替えぐらいはしたいだろう。女性なんだから。
「……わかりました。少し席を外しますが、どうぞよろしくお願いします」
「微力を尽くします」
アマンダさんは俺の言いたいことがわかったようで、ご主人と俺たちや衛兵さんに挨拶すると部屋を出て行った。
「さて、やってみますか。衛兵さん、手伝ってください。新さんも頼んだ」
「おう、何でも言ってくれ」
「任せられよ!」
さあ、見つかるといいな~。
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