第42話 一刻も早く主人に会いたいの!
三日も足止めを食らった。これも冒険者の仕事? 現代日本と違ってすることがない。と思ったら結構あったよ。スキルの検証、おもしろ魔法の開発、生の情報収集などなど。逆に時間が足りなかった。何せ異世界だからね。
異世界転移11日目。許可が出たのでドルノースに向けて出発する。
アマンダさんは実際許可が出た昨日に出発したがったんだけど、俺を含めた全方位から反対されたので翌日の今日になった。それでも朝が早過ぎないだろうか。まだ暗いんですけど。
「何もこんな早く出て行かなくてもいいだろう」
俺と同じことを思う人はたくさんいる。アマンダさんのご両親もそうだ。
「一刻も早く主人に会いたいの!」
その気持ちまでは否定できないんだよな。
途中野営するから余り意味はないんだけど。
周りの人たちも、遅いよりも早いほうがマシだということで反対まではしなかった。
ハモンド商会の人たちが北門まで送ってくれる。
捕り物でお世話になった衛兵さんたちも笑顔で送り出してくれた。ケージン隊長もいる。
「お世話になりました」
「向こうで問題があったら知らせてくれ。口利きぐらいはしてやれる」
「そのときはお願いします」
ケージンさんと一言二言言葉を交わして、俺は馬上の人となった。
そう。盗賊からいただいた馬だ。
皆と相談してウスノースでは売らないことにしたんだ。馬車に乗る人が減ればそれを引く馬も楽になるからね。積荷は餌が増えるけど、今回帰りは商品を仕入れるのはやめたんだそうだ。向こうの状況によっては商売どころじゃないからって。
アイテムボックス? 依頼じゃなきゃ使わないよ。
ついでに俺は乗馬の実践訓練だ。
新さんも今後の冒険者活動にも役立つからって勧めるし、俺もある可能性に気がついたからやる気になったのだ。
何の可能性かって? それは『ティム』だ!
あー、キャラメイキングやり直したい。
いや、選んだスキル、みんな役に立ったよ? でも後になってほしいスキルがあれこれ出てくる。今の最優先は『治癒魔法』と『ティム』かな。
あー、ステータス強化に使った9ポイント。あれを使えばレベル1のスキルが9個も取れたのに。俺は無属性魔法Ⅹがあるから、取っ掛かりのレベル1さえあれば何でもすぐ使えるようになるんだ。
まあ、でも、そうすると俺はレベル5のまま。あの荒野を渡り切れたかもわからない。新さんに迷惑をかけることになっただろう。
そして何とか渡れたとしても、アマンダさんの救出には間に合わなかっただろうし、最悪一仕事終えた盗賊たちと出くわして、俺というお荷物を抱えた新さんも苦戦したかもしれない。
そう考えると、ステータスにポイントを振ることを思いついたあのときの俺とそれを許可してくれた神爺さんGJだぜ。まさにゴッド・ジョブだ。
世の主人公たちはレベル1から始まるのでそれに比べたら破格の待遇である。
これ以上不満を言うのは神爺さんに失礼だな。
新さんは、空間魔法のアイテムボックスが使えるようになるため日々訓練中だけど、キャラメイキングにあとから不満が出たり後悔したりしていないのだろうか?
まあ、もともと神爺さんのプレゼントを素で断った人だ。きっと、あるがままを受け入れる、とか思ってるんだろう。
だから出来もしない魔法の訓練を諦めもせず続けられるんだ。
俺も見習わないと。
よし! 絶対治癒魔法とティムスキルを自力で取ってやる!
「ケント殿。馬上で考え事は危険でござる。馬は聡明でござるからな、不安が伝わりまするぞ」
アマンダさんは急いでいるが、カマロたちや御者さんたちは状況をわかっているのでスローペースで進んでいる。
おかげで俺もゆっくりと馬に揺られていることができるんだが、コーチ役の新さんがこうして時折ダメ出ししてくる。
「わ、わかってる。ごめんな、これからも頼むぞ?」
「ブルルルッ」
さすがに言語理解Ⅸでも馬の言葉はわからない。しかし、コミュニケーションが大事だといわれているので、思いついたら馬を撫でて話しかけるようにしている。
馬もなんとなく返事をしている気がする。
馬上での考えごとは怒られたが、ただ揺られているだけじゃ暇なので新さんと会話することに。
実はこの待機中の三日間も今後のことで相談してたんだよね。
主に新さんの身の振り方について。
何せ俺は歴史を知っている。
受験生レベルだけど、俺の田舎の爺ちゃんが郷土歴史マニアなのでうろ覚えだけどその辺の受験生よりもピンポイントで秋田の歴史には詳しかったりするんだ。
俺は現代に戻っても先のことはわからないけど、たぶん不自由なく暮らせると思う。もちろん自分の努力次第だけど。
でも、新さんの場合は違う。
苦労することが歴史的にわかっているんだ。
ちゃんと教えたよ。関ヶ原の合戦以後、二度の大阪の陣で豊臣方は滅び、徳川の体制が磐石になって十五代二百数十年続くって。東北の農民は三百年以上貧困で苦しむって。
一人の武勇じゃ歴史の流れは変えられない。
もちろんやってみないとわからないとも伝えた。チートも一つもらえるんだし。
こればっかりは本人の意志次第だからね。
「それでも某は戻りとうござる。苦労するとわかってしまえばお家を見捨てることなどできもうさんよ」
う~ん、求道者か。
違うな。ご恩と奉公? これも微妙に違う気がする。
ああ。仲間か。
新さんにとって一番大事なのは仲間なんだろうな。
じゃあ、もしこっちで新しい仲間ができたら新さんはどうする? 置いて日本に帰れるのか?
ま、それはそのとき考えればいいか。
「じゃあ、一つもらえるチートは何にするか、考えないとな」
「ちーとにござるか? 神仏からの賜りものとあらば断るのも不敬ゆえありがたく頂戴いたすが、こなたから願い出るのもまた不遜というもの。某は天命に任せるでござる」
「うん。なんだかよくわからんが、何でもいいってのはわかった。でもなあ、せっかくなんだから、役に立ったほうが神爺さんも喜ぶんじゃねえの? 拝領の刀を後生大事に仕舞っておくっていうのもわかるけど、もらったお金は使うだろ? スキルも使ってナンボだと思うぞ」
「ふむ。それも道理でござるな。確かに神仏が選べというなら真摯に臨まねばなるまい。しかし、役に立てるといわれても、某には選べぬでござるよ。どれも常軌を逸しておりもうす。ケント殿の存念は如何か?」
「ぞんねん? ああ、俺の考えね? そうだなあ、消去法でおおよそを決めてその中から選ぶしかねえかなって今んとこ考えてる」
「消去法でござるか?」
「うん。たとえば武芸スキルなんか現代日本、俺のいた時代じゃ使いどころがねえもん」
「ああ、そういうことにござるか。某は今後武芸のみで世を渡れる時代ではなくなると聞いて落胆しもうしたが、そもそも武芸とは己自ら鍛錬して身に着けるものと考えておりもうす故、確かに必要ないでござるな。異世界では悪鬼妖怪が蔓延り人もまた我らの世とは異なる摂理で強者になると聞き及び神仏の加護を借り受けたまでのこと。時至らばお返しするのに異存はござらん」
「うん、難しいけど、たぶんそんなところ。で、魔法も攻撃魔法はマズイ。俺の時代じゃ大騒ぎ確定だ」
「某の時代はおそらくそれほどの騒ぎにはならぬと存ずるが、某、修験者や祈祷師に鞍替えするつもりはござらんので同意見にござるな」
「じゃあ生産系の魔法かなって考えたけど、結局は魔法だから同じように騒ぎになっちまう。俺も選べねえなあ……」
「そうでござろう? 難しき選択にござる……」
そんな話をしながら俺たちはドルノースに向かって進むのであった。
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