第40話 日程変更
異世界生活7日目。
こちらの世界では今日から6月。一年の後半に入るのだ。ちなみに昨日が夏至だった。とにかく夏本番である。
でもそんなに暑くない。島国日本とは気候が違うのか? 環境破壊が起こっていないから過ごしやすいのかもしれない。ま、ナビさんに聞くまでもなく、旅しているうちにわかるだろう。
そんなことよりも今日からの日程変更である。
本来の予定では『万能薬』を受け取って実家に一泊、早朝にはドルノースに向けて出発するはずであった。
しかし、アークノ商会の陰謀が暴かれると事情は変わった。
まず、『薬』は必要がなくなった。これは今のところ俺が漏れ聞いた話だけなのでアークノ会長の悪足掻き次第で引っくり返る可能性もある。早く神殿なり高レベル鑑定士なりに確証を得てもらいたいところだ。
そして、内通者の存在を匂わせる発言も要注意。治療しても、今度は致死量の毒を盛られる可能性もある。これはなんとしてもアークノ会長の口を割らせたいところだ。衛兵さんたちの活躍に期待する。
そして、俺たちだが、朝早くに衛兵さんがハモンド商会にやってきて『捜査方針が決まるまで出発禁止』を言い渡された。
これで早くても明日早朝出発、遅ければ何日も拘束されることになった。
「ごめんなさい。カマロさん。あなたたちまで巻き込んでしまって」
「よしてくれ、アマンダさん。こいつは俺たちの敵討ちでもあるんだ。結果が出るまで何日でも待つさ。勿論護衛料はとらねえよ。宿まで世話になって逆に申し訳ねえくらいだ」
相変わらずコントにしか聞こえない遣り取りだが、本人たちは至って真面目なんだよな。新さんも『うんうん』って感動してるし。
俺たちは、平常営業中のハモンド商会の迷惑にならないように馬車置き場で駄弁っている。名目は荷物の見張りである。
ハーベスト商会とアークノ商会の取引契約に問題がないか、衛兵さんが荷物の調査に来るまで当時の状況を維持しておかなければならないのだ。がんばったよ、『倉庫』から再び5台の馬車に荷物を移し換えるのを。
午後になり、荷物確認の衛兵さんが来た。
ハーベスト商会の従業員さんが相手をし、誓約書を写しながら商品をチェックしていく。
しばらくかかったが、ハーベスト商会に瑕疵がなかったことが証明された。まあ、御主人の命がかかってたんだ、手は抜かないだろう。
あ、今思うと、アークノ商会の手口が盗賊の襲撃じゃなくて荷物をちょろまかすっていう手に出られていたら、たった一個の荷物の紛失で不利な条件を突きつけられていたかもしれない。向こうがバカでよかった~。
仕事が終わった衛兵さんに捜査状況を聞いてみた。
「ここだけの話だが~」と結構軽く情報を漏らしてくれた。
なんでも、今回の事件は二つの街に跨っての捜査なのでその調整に手間がかかるらしい。ドルノースの街にもアークノ商会の手先が潜んでいるらしいし、毒を盛った実行犯も当然あっちの町にいるのだからドルノースの衛兵隊の協力が不可欠なのだ。
まあ、あれだな、○○県警と△△県警の合同捜査でどっちが主導権を握るかで揉める話は現実・ドラマ両方でよく聞く。
さらに、王都の犯罪組織が絡んでる可能性もあるので、そちらにも話を通さなければならなくなる恐れもあるという。ああ、警視庁まで出てきたら主導権は完全に取られるだろうな。
色々話を聞かせてくれた衛兵さんにお礼を言い、彼を見送った。
さて、これからどうしよう? 一応アマンダさんの護衛役なんだよな。
カマロたちとなおも駄弁っているとハモンド商会の方からぞろぞろと人がやってくる。アマンダさんもいる。そのお父さんも。
「皆さん、ご苦労様です」
アマンダさんが俺たち護衛役を集めて説明してくれた。
アークノ商会へ売る予定だった商品は衛兵のチェックが済んだのでもう自由にしていいそうで、ハモンド商会をはじめ、この街の知り合いの商会に引き取ってもらうことになったそうだ。
その作業に冒険者は、はっきり言えば邪魔だとのことで夕刻の鐘までどっかに行ってほしいんだと。
「あははは。わかりました。じゃあ、俺と新さんはこの町初めてなんで観光でもしてきます」
「おう! それなら案内するぜ」
結局カマロたち4人も着いてくることになり、6人の冒険者が揃って街を練り歩いた。
観光といっても名所古刹があるわけでもない、単なる散策だ。
しかし、新さんにとっては何もかもが珍しいのだろう。言葉に出してはしゃがないものの雰囲気でわかる。
俺にとっても似たようなものだ。映画やアニメで見たような光景に、テーマパークにでも来た気持ちになる。
カマロのオッサンたちは冒険者にとって役立ちそうな、各種ギルドや武器・装備の商会、神殿などを案内してくれた。いや、神殿には近づきたくなかったんだけど……幸い、観光で入るところではなかったようで門の前で説明のみだった。
貴族街もそうで、冒険者が用もなくワイワイ練り歩く場所ではなかった。フラグは回避したいよね。
あと抑えておきたいのはフリマのような市場があるらしい。さすがにこの時間は終わっているが、屋台関係は日暮れまで出ているらしいので冷やかすことに。いや、もうすぐ夕食だし。
「ただいま」
「おかえりなさい。どうでした? この街は」
夕方になりハモンド商会に戻るとアマンダさんが出迎えてくれた。
この町出身のアマンダさんからすると、同じ町の人間が悪事を働いていたことで肩身が狭い思いをしているのだろう。
「活気があっていい町だと思いますよ」
俺はそう答えるしかなかった。
新さんも同意してくれたし、何よりアマンダさんが笑顔だったからそれでいいとしよう。
その後は夕食をご馳走になる。カマロたちと一緒だ。
危機は脱したものの完全解決には至っていないため祝杯を上げるわけにも行かない、質素なメニューだった。
これは、俺が現代日本人として舌が肥えているため、つい上から目線になってしまうのだ。
新さんなんかは『この街は豊かでござるな』と真逆の感想を持ったようだ。戦国の下級武士の悲哀を感じてしまう。浪人したらどんな酷い生活になってしまうのか。魔物はいるけどギルドがある分、異世界のほうが庶民にとって恵まれているのかもしれない。
神爺さんは神界でクーデターを起こし、政権交代に成功すれば俺たちを元の世界に返してくれるという。
俺はともかく、新さんはこっちの世界にいたほうが幸せなのではないだろうか。水も合っているようだし、冒険者として大成すれば立身出世も叶うだろう。
こちらに来たタイミングが悪い。もし関ヶ原の合戦前に帰れたら、新さん無双で歴史が変わり、大名にでもなれただろうが、神隠しの時点に帰るだけなら、その後大阪の陣で豊臣方に組しても、いくら新さんが強くてもおそらく歴史の流れは変わらないだろう。
藩換えになった秋田は、現代でこそ米どころなのだが、それは昭和になって品種改良が発達したためだ。それまでは長いこと東北全体が貧しかったと爺ちゃんから聞いている。武士が強いだけでは役に立たないのだ。
「ケント殿、どうされた?」
食事が終わってもぼうっとしていたらしい。
新さんに変に思われたようだ。
「いや、これからのことを考えていた。新さんにも相談に乗ってもらいたい」
「それがしが役に立つかはわからぬが、承知したでござる」
そうだ。俺一人で勝手に決めるわけにいかない。直接本人に聞けばいいんだ。
さあ、明日はどうなるのかな?
【作者からのお願い】
「面白かった」「続きが読みたい」と思われた方は下記にある【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。




