第36話 仲間に引き込もう
トラブルに巻き込まれたくなきゃ冒険者なんかにならなければいい。その真理に辿り着いた時には既に遅し。今トラブルの真っ只中。わーん! 泣いても始まらない。とりあえず解決に向けて影で一仕事しよう!
「神殿に訴えます!」
そうアマンダさんは力強く言った。
「神殿ですか。話だけは聞いていますが、金がかかるんでしたっけ? でも利用したことがないので、どういう仕組みになってるんですかね?」
「まあ、俺たち貧乏人には縁がねえのは確かだ。だが、ケントの言ってることがすべてだよ」
アマンダさんの代わりにカマロが教えてくれるようだ。
「どういうことだ?」
「だから、そのまんまだ。大金を払えば神殿が『神聖魔法』とやらで訴えた相手の悪事を暴いてくれる」
「それは知ってる。そうじゃなくて、訴えるときに手続きとか、証拠とか要らないのか?」
「証拠があったら衛兵に訴えればいいだろうが。それがないときの神頼みってやつだ」
「そんな便利なら皆もっと利用すればいいのに」
「大金が必要なのは何も神殿が金儲けしてるわけじゃねえぞ。魔法にむちゃくちゃ魔石が必要なんだと。大金貨何枚、訴えの内容によっちゃ白金貨何枚分のな」
「それじゃ、金持ちしか利用できねえな。貧乏人は泣き寝入りか」
「まあ、世間なんてそんなもんだ。だが、聞いた話だと、賠償金がたんまり取れそうな事件じゃそれを担保に金貸ししてる連中もいるらしいぜ。うまくできてんだよ」
なるほど。賠償金を諦めてでも犯人を暴きたい被害者にとっては救いだな。だったら国家で主導すればいいのに。これも異世界の習慣かな。
「まあ、何となくわかった。じゃあ、アマンダさんなら金を払えるし、賠償金も取れそうだから最終的にはその方法が使えるな」
「最終的にって、どういうことだ?」
「毒だよ。毒。相手を訴えても解毒薬が手に入らないとハーベストの会長さん助からないぞ」
「あっ……」
「そ、そんな……」
「神殿のサービスで解毒薬を探してくれるなら問題解決なんだけどな」
「ど、どうします? アマンダさん……」
「ああ、あなた……どうすればいいの……」
アマンダさんは泣きじゃくるばかりであった。
「ケント殿! 前方に騎馬多数が見えたでござる! 警戒なされよ!」
そんな時新さんから一報が入った。
「け、ケント、どうすりゃいい?」
「カマロ、リーダーなんだから指示してくれ」
正直、現代日本的な考え方やラノベ知識から、この故意に文明を停滞させられている世界に対して助言してやりたいことは山ほどある。それが上から目線だということも、でしゃばりだということもわかっている。だから形式だけでいいから秩序は守りたい。
「え? あ、そ、そうだったな……じゃあ、リーダーとして命令だ。ケント、お前が指示を出してくれ」
単純な盗賊の襲撃だったら率先して迎え撃っていただろうが、このタイミングだと陰謀を疑わずにはいられない。カマロでは判断がつかないのだろう。そして俺に丸投げしたと。
リーダーの命令なら仕方ない。
「わかった。新さん! 連中の確認頼む!」
「承知した!」
馬車の外に声を掛けた。
新さんは張り切って馬を飛ばした。
こちらの馬車は状況がわかるまで停車させる。
しばらく経って新さんが報告に戻ってきた。
「ケント殿、盗賊ではない様子。兵の装束であるぞ」
「兵? 軍隊? それとも衛兵?」
「某たちが詰め所とやらで見た兵でござる」
「偽物じゃなきゃ盗賊の捜索ってところか。カマロ。行って確認してきてくれ。新さん、悪いけどカマロの警護頼むよ」
「承知いたした」
「おい、確認て何を確認すんだ?」
「そいつら本物の衛兵か、盗賊が化けてるのか。この国の人間じゃねえ俺たちじゃ判断できねえからな。でな、もし本物で、隊長さんが信用できそうだったら仲間に引き込もう」
「仲間? 何だそれ?」
「もしかしたら神殿に訴える前にアークノ商会を叩けるかもしれない。解毒薬を手に入れた後でな」
「本当ですか! ケントさん!」
「はい。衛兵さんたちの協力があれば、ですが」
「わかった。協力が頼めそうなら連れてくりゃいいんだな?」
「そういうことだ」
どうなるかわからんが、カマロは理解してくれたらしい。
チートがあるからといって一人で何でもできるわけじゃない。できてもやらない。目立ちすぎるからな。
二人が衛兵集団の許へ向かってから、俺も馬車の外に出て待つ。
程なくして5騎が接近してきた。衛兵は3人ってとこか。何人の部隊か知らないが、全員じゃないってコトはこちらの話を聞く気があるということなのだろう。
戻ってきたカマロの報告を聞いてビックリした。盗賊の捜索だろうとは予想したが、ハーベスト商会の馬車が襲われていると密告したやつがいて、その救援なのだそうだ。
んで、カマロから事件当事者だと聞いて驚いた部隊長さんが、さらにカマロから事件について大事な話しがあると言われて3騎だけでやってきたらしい。
こりゃ話が早い。
軽く隊長さんに挨拶して馬車に乗ってもらう。部下さん二人は外で待たせたままだ。度胸はあるようだ。ま、馬車の中にはアマンダさんと俺、カマロの4人だけだし、隊長さんはアマンダさんのことを地元の人としてよく知っているそうだからな。
一連の事件をアマンダさんとカマロから報告してもらう。この辺、同じ衛兵といっても管轄が違うし、先日の盗賊襲撃から三日で同じ商隊が襲われたと聞いて驚いていた。そして盗賊の規模にも。
そして、最後に俺から『隠れていた盗賊の会話を盗み聞きしたのですが……』と前置きしてアークノ商会の陰謀を説明する。
「そんなことが……許せんな。だが……」
「ええ、証拠はありません。アマンダさんは神殿に訴えるつもりのようですから決着はつくとは思うんですけどね~」
「それしかないだろうな」
「ところで隊長さん、衛兵の人たちって皆信用できますか?」
「何故そんなことを聞く?」
「いえ、協力してほしいことがあるんですが、悪徳商会や盗賊から賄賂を取って味方するような人がいると困りますから」
「バカにするなよ! と言いたいところだが、昔はいくらでもあった話だからな。だが、安心しろ。今はそんなヤツは一人もいない」
「今は、ですか。それだけ断言できるのは『アレ』を使ったからですか?」
「む? 知っているのか? そういえば外国人だったな。最近来たのか?」
「ええ。おかげですんなり通れました。『アレ』を使わせちゃもらえませんかね?」
「無理だな。乱用は禁じられている。試験中のようなものだ。一度に大量の犯罪者を暴き出せば国が混乱する。第一神殿の儀式が追いつかないんだ。街に入って来る身元不明者に使うぐらいに制限してある」
もし神がガチガチに人間を管理している世界だったら、そもそも俺と新さんは呼ばれなかっただろう。この適度さこそ恩恵なんだろう。爺さんを見てわかったがこの世界の神たちは随分人間臭い。
「それでも犯罪捜査の一環で使うこともあるでしょ?」
「滅多にないな」
「滅多にってコトはあるってことじゃないですか? どうすれば使えます?」
「む? そうだな。かっぱらいやスリなんかのケチな犯罪じゃなくて世間を揺るがすような大規模な犯罪で、証拠が揃わないが上司も捜査員もクロだと判断すれば使うことになるだろう」
「そうですか。大規模ね~。二つの街に跨り現れた大規模な盗賊団、大商会の会長が毒殺されかかっている。妙薬と言って商会が傾くほどの不公平な取引。これで向こうの陰謀どおりになったらハーベスト商会が潰れて流通が、この街だけじゃなく北の街も、場合によっては王都にも影響が出ると思いますよ? ほら、世を揺るがす大規模な事件じゃないですか」
「いやいや。何の証拠もないのに一介の衛兵がそこまで関われん。やはり神殿に頼んでくれ。神殿で犯罪が証明されれば俺たちが捕まえられる」
「何の証拠もないって、やっぱりあの見張り捕まえておけばよかったか」
「そうだな。今尋問して吐かせていればアークノ商会を詮議する理由くらいにはなったな」
残念。俺の判断ミス。しかし、それだと……
「今から捕まえればいいんじゃないか?」
「無理だろ。盗賊の現行犯ならともかく、護衛一人の証言だけじゃな」
「いえいえ。隊長さん、確認しますが、隊長さんたちは何故ここに来たんですか?」
「ん? だから、投げ文があったんだ」
「どんな内容で?」
「ハーベスト商会の馬車が盗賊団に襲われて全滅、だってよ。まあ、それだけならすぐには動かなかったが、会長夫人が一人取り残されているから助けてくれってあるからよ。悪戯だとしてもほっとくわけにはいかなかったんだ」
「なるほど。じゃあ、その投げ文は事実でしたか?」
「ん? 実際襲われたんだろ? 違うのか?」
「いえいえ。全滅してましたか?」
「あ……おかしいとは思ったんだよ。馬車団を見た時よ! でも盗賊に襲われたって聞いてタレコミは本当だったかって思っちまったんだ。大体何なんだ、あのタレコミはよ!」
「まるで本来の計画を知っているような内容ですね?」
「お、おう、そうだな」
「密告をした人間は盗賊の関係者じゃないですか?」
「そ、そうとも思えるな」
「盗賊検挙のため捕まえるのが衛兵の仕事ですよね?」
「お、おう。そうなんだが、誰だかわからねえと……」
「名前はコアクット。顔もわかります。どうです? 協力しますよ?」
「お、おう……」
こうして隊長さんを仲間に引き入れることができた。
今度はこっちのターンだ!
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