第32話 初依頼
カルチャーギャップ、ホームシック。言い方は色々だが、軽く情緒不安定だった俺、新さんの男らしさにまた助けられ、何とか持ち直す。さあ、今日は冒険者として初依頼だ!
「気をつけて行っといで。戻ってきたらまたここに泊まるんだよ」
「わかってる。じゃ、行ってきます」
異世界生活5日目。
早朝、『黄金の猛牛亭』の女将さんに見送られて仕事に出かける。
同行者は勿論新さんと、新生パーティー名『稲妻とグリフォン』の4人である。しかし更に強そうな名前になったな。
今の俺の格好は異世界ルック。他の5人と変わらないので、もう目立つことは無いと思う。魔法職の俺には必要はないが革鎧も装着済みだ。これは、『どこにでもいる冒険者ですよ~』というアイコンなのである。
そして、俺と新さん二人お揃いで頭に手ぬぐいを巻いている。勿論新さんはチョンマゲ隠しなのだが、俺も黒髪ということで目立つことは目立つのだ。革のヘルメットでもいいのだが、新さんの荷物に布の端切れが結構あって(戦国時代も異世界も布は高価)何枚かもらったので使っている。
この陣容で明るくなり始めた街を闊歩した。ま、それが日常風景らしく、人通りはあるものの誰もこちらに注目しなかった。うんうん、溶け込んでる感じがいいね。
約束の時間に到着。正確な時計は普通の人は使わないので大体でOK。
「今日はよろしくお願いします」
「アマンダさん。今日こそ任せておいてください。こいつらもいることですから」
パーティーの代表は自然とカマロに決まったらしい。俺も全く異存はない。むしろ俺じゃなくてよかったよ。
挨拶もそこそこ、馬車に乗り込む。
馬車は前回同様6台。護衛は一人一台担当だ。普通なら少ないと言われるのだそうだが、今回は緊急の上、ぶっちゃけ新さん頼りなのだ。
町の中央通りを進み、南門へ差し掛かる。
あ、隊長さん(仮)だ。
「ハーベスト商会か。今度は盗賊が出んといいな。よし、行っていいぞ!」
全員の身分証を確認して送り出してくれた。そのセリフ、フラグにならない事を願ってるよ。口にはしないけど。
ガラゴロガラゴロ
馬車は進み、そろそろ俺のケツが痛くなってきた頃、前回の事件現場に差し掛かった。思えばこんな街の近くで盗賊に遭ったんだ。物騒な世界だな~。
分散してるからわからないが、たぶん皆緊張していると思う。少なくても俺の乗っている馬車の御者さんはキョロキョロし始めた。
そして、カマロがアマンダさんを連れて逃げた場所まで何事も無く進み、そこを越えてホッと気を抜いたところを襲撃……ということも無かった。
気を抜くのは論外だが、緊張ばかりはしていられないのでここで休憩を取る。主に馬が、だ。商会の従業員で水魔法を使える人が活躍する。デカイ桶に水を出し、馬に与えるのだ。
俺も手伝った。ついでにこの世界の魔法を実際に確かめる魂胆だ。
「精霊神にオン願いタテマツル。我に力を貸したまへ。出でよ『アクア』!」
これが詠唱呪文なのか……ツッコミどころが多いが、おそらく翻訳魔法の仕業だろう。陰陽師っぽく聞こえるのは、たぶん、この世界での古語なのだ、ということを俺にわかりやすく翻訳してくれたんだと思う。ありがとう、って誰に言えばいいのか……
まあ、直訳すれば、『精霊さん、精霊さん、お願い、お水頂戴?』ってコトだろう。この世界の魔法使いがそんな呪文使うとは思えない。威厳がないからな~。
でも、システム的には間違ってない。後は明確なイメージがあって、適量の魔力を放出できればいいのだから。
また一つこの世界の生の情報が得られて満足。
出発は馬の体調次第。商会の従業員なのに馬の世話は正にプロ級、の人たちが馬を点検中だ。この中では俺が一番素人だな。
こうして、道中何度も休憩を挟みながら野営予定地に無事到着した。
日が沈むまでまだ間があるのだが、ここはドルノースとウスノースのちょうど中間地点で、宿場町こそ無いものの、長い間旅人が使っているうちに広場ができ、井戸が掘られ、簡単な屋根と風除けだけの建物が作られたのだ。
ここを素通りする手は無い。
早速野営の準備にかかる。
馬車を一箇所に集め、馬の世話をする。水と飼い葉。そしてブラッシング。後は逃げない程度に近くの草むらに放しておけば勝手に草を食べるのだ。
それ以外の者は夕食作り。今回のように行程が短い場合は新鮮な肉野菜を準備できるのでテンションは高い。
昼は携帯食という異世界物の定番を食ってみたのだが、悪くは無かった。黒パンより固いパンというだけで小麦粉の味がする。干し肉はしょっぱいから食べ過ぎると身体に悪そう。確かに食の楽しみは無いし、毎食同じメニューだと喉を通らなくなるかも。総合評価はマイナスになるな。
「む? 何か来る!」
新さんが南の方を見て言う。
俺もマップを見た。6つの光点。街道を通ってるから人だろう。
そのうちガラガラと馬車の音が聞こえてきた。別の意味で緊張が走る。何せ彼らは盗賊に襲われたばかりだからな。
見えてきたのは一頭引きの荷馬車。一人は御者、二人は荷台に乗っていて、二人は後ろを歩いているようだ。
ふ~ん、そういうハードな護衛方法もあるんだ。まあ、馬車も長距離ではペースが遅くなるし、一頭引きなら尚更だからな。
人数的に勝ってはいるが、カマロたちは警戒を解かない。
そこへ、御者の人と、護衛の冒険者一人が近づいてきた。御者が代表者のようである。おそらく個人商人。
「どうも。王都の商人のガスケスと申します。お邪魔させていただきますが、よろしいですか?」
なるほど、後から来た人間が挨拶するルールがあるのかな?
こちらの代表はアマンダさんなのだが、安全のため前に出すわけにはいかない。当然カマロのおっさんが出る。
「お互い様だ。こちらこそよろしくな」
「はい、ありがとうございます。ところで皆さんはドルノースからいらっしゃったので?」
「……ああ」
「おお、これは幸運。実は私、魔物素材の買い付けでやってまいりまして、ギルドの担当者様を紹介していただけませんでしょうか?」
「悪いが護衛の任務中だ。直接ギルドに聞いてくれ」
「あっ、これは失礼しました。どこのギルドかは聞いてもよろしいですかな?」
「……『戦神の剣』だ。」
「ありがとうございます。『戦神の剣』ですね。かならず伺います。それでは、お休みのところ失礼しました」
まだしつこく聞いてくるのかな~と眺めていたら、割とあっさり引き下がった。これも商人的な情報収集の仕方なのだろうか。
商人は荷馬車の方に戻り、野営の準備をし始めた。
「メシができたぞ。交代で食ってくれ」
こちらも準備はできたようだ。新鮮な肉と野菜のスープ。黒パンを美味しくいただいた。
後は見張り番である。
アマンダさんたちは馬車の中で寝てもらい、護衛は交代で外で寝る。
俺と新さん二人のときは半分ずつだったが、今回は三交代制だ。寝心地はともかく十分休めそうだ。
組み合わせは剣士3人で分け、ユーハン(剣士)&コーリン(弓士)が前半、カマロ(剣士)&俺(魔法職)が中間、新さん(剣士)&スタン(魔法職)が後半を担当することになった。
俺と新さんの組み合わせでもいいといわれたが、二人とも気配察知を持っているので分けたほうがいいと提案してこの組み合わせになった。
一組大体三時間担当。時間を計る魔道具もあるが高いのでカマロたちは持ってないとのこと。普通の冒険者は星や月を見て勘で交代するんだそうだ。
俺、時間がわかるスキル(鑑定Ⅹ)持ってるんだけど……どこまでが普通か聞き出してから教えるかどうか考えよう。
今は交代まで休む。
おやすみなさい。ぐう~。
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