第30話 いつか地球に帰るから、なるべく現地の人と深く関わらないようにしようとか思って一線を引くのは間違っているんだろうか?
盗賊事件の事情聴取も終わり、これにて一件落着! と思いきや、その事件で縁ができたアマンダさんから護衛の依頼が来た! これは新たな展開なのか、それとも因縁が続いているのか?
「新さんもこう言っているので前向きに考えてみますけど、いつからですか?」
まだはっきりと引き受けるとは言っていない。せめて条件を聞かなくては。
「それなんですが、明日早朝出発なんですが……」
「それはまた急な……あ、明日は予定が……」
「そんな……何とかなりませんでしょうか?」
「いや、そんなことを言われても……というか、普通に冒険者ギルドに依頼を出せばいいんじゃないですか?」
そうだよ、何で俺たちにこだわる?
「出したさ、ウチのギルドだけじゃなくて他のギルドにもな。今日、朝一番で」
「じゃあ、そのうち見つかるんじゃないのか?」
「無理だ。急すぎる。それに襲われたばかりの商隊だ。色々噂されて敬遠されている。これで引き受けようとする連中は足元を見てくるやつばかりだ」
「はい。もう噂になっているのは私どもも聞いております。それに期限の月末までもう日にちがありません。ですから、お二方に縋るしかないのです」
「ケント殿、こうも頼りにされているのだ。引き受けてやってもいいのでは?」
お人好しだよ、やっぱ時代劇のヒーローだよ。
「お前ら、あんなにつえーんだから、少し人が足りなくても問題ないだろ?」
「そうは言っても、明日はギルドの研修の予約が……」
「は? 研修? よし、わかった! 俺が話を付けてきてやる! アマンダさん、ちょっとまっててくれ!」
カマロのおっさんが一人飛び出していった。
新さんも乗り気だし、しょうがないので待つしかない。
その間、カマロパーティーのメンバーの紹介や、アマンダさんから今回の商取引の裏事情というヤツも聞かされてしまった。ちなみに、ユーハン(剣士・元グリフォン)、コーリン(弓士・元稲妻)、スタン(魔法職・元稲妻)という名前だった。
何でも、旦那が原因不明の病気になり、治療院での魔法治療でも一時的に治っては再発の繰り返しだったらしいのだが、色々治療方法を探したところ、南の街ウスノースの大商会の伝手で妙薬が手に入るという情報を得たのだとか。
藁にも縋る気持ちで購入を申し込んだのだが、かなり高額だった。命には代えられないが店が傾いては死ぬのと同じ。そこで分割払いを頼んだところ、そこは商人同士、何度か割安で商品を卸してくれれば、安く薬を売ってくれると持ちかけられた。当然向こうは儲かるし、ハーベスト商会も、俺にはよくわからないが、節税? みたいな観点から利点があったそうだ。
それで今回の商取引が特別契約の最終回らしい。薬も安くなるといっても、それなりの値段ではあるので、アマンダさんが直々に赴くことにしたそうだ。
んで、期限が5月36日。今日が34日だ。マジギリギリ。
「これはますます放っておけぬ。そうであろう? ケント殿」
深い事情を聞いてしまった新さんはやる気満々のようだ。
しかし、ラノベだけでなく、探偵もの、刑事もの、サスペンスなど、あらゆるジャンルが溢れている現代日本に生まれ育った俺は素直に受け取れない。
フラグが立ちそうなので口にはしないが、まさか、昨日の盗賊騒ぎ、この件に関わってないよな?
それから、引き受けてくれるのなら報酬も特別に倍にするといわれたが、『冒険者としては初心者なので』とはっきり断った。
たぶん引き受けることになるのは流れからしてしょうがないが、特別扱いされるのはちょっとイヤだった。
それから待つことしばらく。カマロのおっさんが戻ってきた。
俺たちが引き受けるかどうかは、もうカマロ次第になってしまった。
だが、顔を見ただけで答えがわかる。
「喜べ! 研修の日程を変更してきてやったぞ! こっちに戻ってきてからまた決めりゃいい」
「……ああ、そう……新さん……」
「うむ! アマンダ殿、この依頼、我らが引き受ける故、大船に乗ったつもりでおられい!」
はい、はっきりと言葉にしてしまいました。契約成立です。
「まあ! ありがとうございます!」
カマロが出ている間に条件はほぼ決まっていた。
護衛の日当大銀貨2枚。昨日の段階では相場どおりの、この国の若手職人の日当平均銀貨6枚を基準にした、護衛の危険手当で2倍の大銀貨1枚と銀貨2枚だったが、事件の後ということでかなり値上げしたらしい。緊急依頼の時はよくあることだ、と言われれば納得するしかない。
ウスノースの街まで二日、帰りに二日。御主人の薬をできるだけ早く届けたいという結構タイトな日程計4日だが、商談次第では街に一日滞在する可能性もあるということなので、拘束代を含めて五日分が支払われる。
一人金貨1枚だな。
そうすると入場料で金貨2枚出してもらったのはやはりもらいすぎではないかと蒸し返してしまったら、お礼と契約の報酬は違うと言われた。そうなのかな?
さて、事情はどうであれ、既に受けた依頼、キッチリこなそう!
そうと決まったら、本来は明日のギルド研修の後ゆっくり冒険者としての準備をしようと思っていたのだが、急遽今日中に終わらせなければならない。
いつまでもTシャツと学生ズボンではダメだろう。
一応ラノベ知識はあるが、優先順位が判らない。プロに聞こう。
「は? 冒険者としての装備? 今からか?」
呆れられた。仕方ないだろ? 急な話を持ってきたのはそっちなんだから。
「いやいや、そういうわけじゃねえよ。ちょうどよかった。こっち来いよ」
カマロのおっさんに連れられてきたのはハーベスト商会の倉庫。
「昨日帰ってきてから置きっ放しだった俺らの装備だ」
なるほど、馬車に積んでいたのを治療院や衛兵の詰め所やらギルドやらに行ってて取りに来れなかったのね?
それで俺に何か用?
「2パーティー分ある。他にも宿の俺の部屋に仲間から預かっていた荷物もある」
「それで?」
「新しくパーティーを組んでもどうしても装備が余る。どうせ家族なんかいない連中だ。売り払っちまってもいいんだが、もらってくれねえか? 仇を取ってくれたお前らに使ってもらえるなら、あいつらも喜ぶと思う。なあ、そうだろ?」
「ああ、賛成だ」
「俺も、青い稲妻の生き残りとして頼む」
「もらってやってくれ」
カマロをはじめ、ユーハン、コーリン、スタンの3人が言う。
いや、そんなこと言われても、『はい、わかりました、ありがとう』とは言えない日本人。ただより高い物は無い、とも言うし。
「形見分け、とういうことか。あいわかった。ケント殿、受け取るべきでござる」
おーい! 日本人! 受け取るの? なんで?
「えーと、俺が買い取るんじゃ、ダメか? 只じゃ気が引けるんだが……」
新さんを含め、皆にガッカリした目で見られた、気がした。
「おいおい、寂しいこというなよ。仲間だろ?」
仲間! これがキーワードっぽい。新さんが好きそう。
「如何にも。それでは野盗の持ち物を『ぎるど』に売り払ったのと同じ扱いでござる。それでは彼らも成仏し難いであろう」
えーと、売り払って現金を分配するより、装備そのものを分配する方が精神的に抵抗が無い、ってコトかな? あまり合理的ではない気もするが……
「わ、わかった。もらう、もらうから」
皆の眼つきが元に戻った気がする。これも精神的なものだろう。そう思うことにした。
そして始まる形見分け。
皆があれこれ話し合っている間、俺は考えていた。
『俺って浮いてるよな? 新さんは何気に溶け込んでる気がする。これってあれか? ラノベとかゲームのしすぎで現実感が無いのか? いつも部外者だからなんて考えたりしてるんだろうか? いつか地球に帰るから、なるべく現地の人と深く関わらないようにしようとか思って一線を引くのは間違っているんだろうか? 今後この考え方が異世界生活での傷害になるんだろうか? じゃあ、俺はどうすればいい?』
考えてもすぐには結論が出なかった。
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