第28話 服が高いのは当たり前
三日間歩いた疲れが出た。朝まで爆睡コース。起きると筋肉痛の嵐。もう異世界ヤダ!
「いないのか! ケントとシンノスケ!」
俺と新さんを呼ぶ声はますます大きくなる。
「アンタたち、何かやったのかい? 衛兵が来てるよ。アンタたちのことだろ?」
心配した女将さんが食堂に入って来る。
「衛兵か? なら心配ない。カマロの話は聞いていただろ? それで俺たちも呼ばれたんだ。そういや、カマロはどうしたんだ?」
「なんだい、そうだったのかい。カマロならとっくに起きて出て行ったよ。依頼人と話があるんだってさ。じゃあ、呼んで来ていいね?」
「ああ、お願いする」
自分で行けばいいのだろうが、今は立ち上がるだけで悲鳴が出そうだ。回復魔法覚えよう。せめてポーション作れるようになろう。
「食事中だったか? それはすまなかった」
食堂に入ってきた衛兵は、イメージによらず、とても丁寧な人だった。
「いや、こちらこそ迎えにも出ないで失礼しました」
礼には礼を。頑張って立ち上がる。
「いや、かまわない。私は伝言を持ってきただけだ」
「聞きましょう」
「では、本日正午の鐘が鳴った後一時間半後、衛兵詰め所本部に来られたし。以上だ。これが呼び出し状である。本部に行ってこれを見せれば案内が来る。わかったな?」
「えーと、本部って門のところの?」
「いや、本部は西の大通り、領主の館の近くにあるから行けばすぐにわかる」
「わかりました。ご苦労様です」
「ありがとう。では失礼する」
気持ちのいい衛兵さんはあっさりと帰っていった。何か武士っぽい。新さんも『うんうん』と頷いてて感心しているみたいだ。
出頭時刻は午後一時半。良かった、今すぐ来いって言われなくて。満足に歩けないよ? もうちょっと休んだらマシになるかも。
ところで、中途半端な時間に呼び出されたような気がして、ナビさんに確認してみたところ、この国の時間の表し方は、正午を基準にしてるそうだ。まあ、それはどの世界でも共通なんだろう。で、日の出と日没(これが翻訳魔法で6時と18時になる)と正午、その中間(9時と15時)、そして夜の9時ごろの6回鐘が鳴らされるのだ。
さらに鐘と鐘の間は三分の一(一時間)とか、半分(一時間半)とかで表される。面白いな。
新さんに聞いたところ、戦国時代とほぼ同じだそうだ。へー。へー。
ついでに二人でカレンダーの確認。
この世界は一ヶ月が36日。1年は10ヶ月だ。1年360日で夏至とか冬至とか閏月もあったりして結構正確らしい。最初ナビさんに確認した時はビックリしたよ。ちなみに今日は5月34日。ナビさんによると真夏らしい。
一週間=七日という概念はない。まあ、キリスト教じゃないからな。
それはともかく、今日の予定。
新さんはまだ元気なので一人で買い物に。できるかな? なんて、心配しすぎだな。頼りになる男だからな。
最低靴とシャツとズボンは手に入れてほしい。帽子は……最悪タオルでラーメン屋のオヤジ巻き風にすればいいか。
あ、軍資金、金貨2枚でいいかな?
そして俺は寝る。
正確にはベッドでゴロゴロする。体調回復も立派な仕事だって、新さんも言ってた。だから遠慮なくゴロゴロ。
魔力は余ってるからゴロゴロしながら色々検証中。ゴロゴロ。
昼前、新さんが帰ってきた。うん、当たり前だけど無事でよかった。変なイベントも起きなかったみたいだし。
俺の部屋でファッションショー? いや、実は新さんが男装していたお姫さまだった、という時代劇風のオチも無く、只只、違和感があるのみ。
チュニック? トーガ? 名前は聞いたことあるけど詳しくは全然知らん。貫頭衣でいいじゃん、みたいな服に、ボンタンか、というズボン。
その格好にチョンマゲ、日本刀はないな。
「新さん、やっぱり髪の毛が伸びるまで頭を隠そう。とりあえず、タオルか布切れを女将さんに借りてきて……」
「それならば手拭いがござるよ」
そう言って新さんは脱いでいた着物の中からハンカチのような物を取り出した。
ああ、剣道の授業で使ったことある。『和手ぬぐい』とか『豆絞り』とか呼ばれてた木綿の布だ。新さんが持ってるのは、木綿かどうかもわからない無地の布。『サラシ』ってヤツかもしれない。チラッと見たんだけど、『フンドシ』と同じ生地なんだろう。
ともかく、新さんに頭に巻いてみるように勧める。
ほ~。いいんじゃない? ラーメン屋のオヤジというよりは、ゴワゴワした上下の服が一見作業着っぽいのでガテン系の兄ちゃんに見える。
「いいじゃん。生成りの服もそれなら似合うよ」
「きなり? 色のことでござるか? これは鳥の子色でござろう?」
何やら翻訳魔法に異変が。
おかしいな、ラノベでは染色していない服を『生成り』と表現していたのだが……まあ、戦国時代と400年の差があるんだ。言葉にも色々あるのだろう。
ところで『トリノコ』って? え? 『卵』? 『鳥』の『子供』だから? 卵の殻の色? 卵の殻は白じゃん。え? 違う?
あー、そういえばちょっと高級な卵に茶色っぽいのがあったわ。真っ白なのは改良されたニワトリの卵なんだな。
こうやって、偶に新さんと戦国時代と現代日本との違いを話し合うのはすごく楽しい。新さんも現代の話を興味深く聞いてくれる。スマホを見せた時の反応はラノベのテンプレどおりだった。早く『雷魔法』覚えて、自力で充電したい。
靴に関してだが、既製品が見つからなく、或いは中古だったので買うのを控えたそうだ。注文して何日もかかるならと、今回は木のサンダルを購入。
サンダルといっても足の甲から足首までしっかりと紐で固定できるので、ワラジなどよりは余程履き心地がいいはずだ。
しかし。
新さんは『足の裏が固定されて摺り足ができない』と不満げだった。あー。もう剣の達人の心境まではわかりません。何とか靴に慣れてください、としか言えなかった。
気になるお値段は、なんと、大銀貨8枚と銀貨6枚。
靴を買ってたら軽く金貨越えだったな。まあ、必要だからいつかは買うけど。
しかし、服は中古でも構わないと言っていたはずだから中古なのだろうが、それにしても高い。ラノベからの情報があるとはいえ、つい現代日本と比べてしまう。
そのことについて新さんは『服が高いのは当たり前』と言っていた。
反省。あるがままを受け入れよう。
そんなこんなで昼になり、俺の筋肉痛もかなり治まってきた。おそらく、以前の6倍強、レベル32のおかげだろう。
食堂に向かう。
お昼のメニューは、言い方が悪いが、朝と代わり映えしなかった。よく知らんが、スープがポトフになった感じ。味も若干香辛料が利いているかな、ぐらいの違い。別料金大銅貨4枚。
ごちそうさまでした。
(鑑定時間で)1時前になった。そろそろ出かけよう。日本人として10分前行動だ。
大通りだからわかりやすい。30分ぐらいで街の中央へ。
あった。あれがたぶん『領主の館』だ。そして衛兵さんが立っていたので本部とやらもすぐにわかった。
「すみません、呼ばれて来たのですが」
呼び出し状を警備っぽい人に見せる。
「うん。入ってよし。中でもう一度見せろ」
会釈して中に入る。
俺、日本でも警察署とか入ったことない。緊張するな~。
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