第24話 冒険者ギルド『戦神の剣』
衛兵の詰め所。その中の取調室。出てきたのは神からの情報にない新開発の犯罪証明の魔道具。
ファンタジー万歳。楽々審査通過!
「ケント殿、お待たせいたした」
俺と交代してから数分後、新さんも入国審査? を無事通過したようだ。
「あー、お前たちもハーベスト商会に事情を聞くとき同席してもらう。宿は決まってるのか?」
隊長さん(仮)も出てきて念を押す。結構好待遇だよ? 現代日本なら多量に死者の出た事件で関係者を野放しになんかしないだろう。アマンダさんの保証が効いたのか、それとも盗賊の出現など大した事件でもないと思っているのだろうか?
両方だな。
「紹介してくれればそこに泊まるが?」
「じゃあよ、俺の使ってる『黄金の猛牛亭』に泊まってくれ。メシもそこそこだ」
カマロが紹介してくれることになった。なるほど、アルテバランか。
「そういうことらしい。じゃあな、隊長さん」
「わかった。時間が決まったら知らせる」
「承知。では、御免」
最後に新さんが締めて俺たちは本当の意味でドルノースの街に入るのだった。
異世界転移してから三日目。ホントに本当に苦労してやっと人の街に辿り着いたのだった。
「さあ、ここが俺の所属する冒険者ギルド『戦神の剣』だ。入ってくれ」
せっかくの異世界の街だったが、観光など全くしている暇がなかった。新さんも偶にキョロキョロ物珍しそうにしていたが、カマロのおっさん(22)が急かすものだから仕方がない。
ただ、観光はともかく、俺は街の清潔さに感心していた。中世ヨーロッパ風と聞いて、ラノベの展開の中で一番恐れていたのはトイレ事情。街の隅々まで見ている余裕はなかったが、どうやら下水はあるらしい。堀を巡らす技術があるのだから当然か? 魔道具だって日本より便利そうだったので、下手したら、いや、この場合上手くいったら水洗トイレくらいあるかも。
また一つ異世界での生活上の心配が解消された。
そんなことを考えながら歩いているうちに目的地に到着したようだ。
謎の異世界技術はあるくせに、見事な中世ヨーロッパ風。条例で決まってんのか? しかも三階建て。地震が来たらアウトっぽい。
カマロに連れられ建物の中に入る。テンプレどおり正面右側がカウンター。左側が酒場になっている。福利厚生施設?
しかし、この世界の方式では、同じくテンプレの『新人へのカラミ』は起こるまい。だって、営利団体なんだよ? 派遣会社で新人が面接に来るたびに社員が絡んでたら商売になるまい。一発で首だ。まあ、ライバル会社の嫌がらせとか、先輩社員の勢力拡大とか、裏では何があっても不思議じゃないけどね~。
事実俺たちには何も声はかからなかった。
だが、カマロの姿を目にした連中がざわつく。
「おい、『グリフォンと風』の連中、全滅したんじゃなかったのか?」
「そりゃ一人や二人生き残ってるだろ。荷は無事だったらしいし」
「ま、何にしても終わりだな、あいつら」
そんな声だ。
情報が早いな。
しかし、カマロのパーティー名、『グリフォンと風』って言うのか。ラノベで読むと中二っぽい気がするが、よく考えてみると、プロ野球チームは大体『企業名+動物』だし、有名どころのバンド名は『大地と風と火』とか『転がる石』とか『カブトムシ』なんだよな。ちなみに俺はその年代だと『鷲』が好きだ。
おっと、つい世の中(現代日本)の不条理について思いを馳せてしまったが、カマロは周りの声を無視して受付カウンターで何やら訴えている。
受付嬢が一旦下がり、しばらくして戻ってくると俺たちは二階に案内された。
二階にも同じような受付カウンターがあって、そこを通り過ぎると会議室のような部屋に通される。
座って待つように言われた。
新さんに椅子は平気かと聞いたが問題ないそうだ。長いほうの刀は邪魔だからか俺に預けてきたが。
「お待たせしました」
と言って入ってきたのは先ほどの受付嬢と一人の中年男。口調も体格もラノベ展開で言う『ギルドマスター登場!』ではないと思う。何か、係長、って感じだ。
「そちらの二人は初めまして、でしょうか。私はジョナサン。主に営業を担当しております。新ギルド員への教育も担当することはあるのですが、今日はその件ではなさそうですね? カマロギルド員? ハーベスト商会の依頼に関してですか?」
自己紹介から一転、本題に入ったようだ。
「ああ、この依頼、失敗だ」
「そうですね。今朝出発して二日後にウスノースに着く予定ですのに、今ここにいるということはそうなんでしょう。何があったんですか?」
「始めは小規模な盗賊だと思ったんだ……」
カマロが報告を始める。
余裕を持っての反撃。
突然の敵の増援。
押される味方。
依頼主を守るための離脱。
敵の追撃。
そこまで話してようやく俺たちに話が振られる。
「もうダメだと思ったときこの人に助けられたんだ……」
そこから俺と新さんが補足していく。勿論ジョナサンさんに聞かれたことだけ。
街道を北上中、戦いの音を聞きつけた。
新さんが先行した。
新さんが、状況がわからないので、命を奪わない程度にその場を制圧した。
俺が到着し、アマンダさんから救援要請を受ける。
俺と新さんが襲撃現場に急行した。
現場は既に戦闘が終わっていた。
偵察すると盗賊だと確信でき、頭目も確認できた。
挟み撃ちで奇襲を掛けて殲滅した。
頭目だけは生かしておいた。
「その後アマンダさんと現場に到着したんだ。それからまだ生きている味方を治療し、この人たちに街までの護衛を頼んだんだよ」
「なるほど……」
メモを取っていたジョナサンさんが顔を上げた。
「カマロギルド員が到着するまでそんなに時間がなかったのでは? 二人で十数人を相手に殲滅戦などよほどのレベル差がないとできることじゃないですね。失礼ですが……」
「いやいや。俺たちは猟師でして、気配を消して奇襲するのは慣れてるんですよ。向こうも一仕事の後で気が緩んでたみたいですし、混乱に付け込んだら割とあっさりでしたよ?」
レベルを聞かれたが、このギルドに入ると決めたわけではない。個人情報は大切なのだ。誤魔化してやったぜ。嘘じゃないし。
「そうですか……これ以上聞いても悪印象でしょう。わかりました。これで報告書を作りましょう。カマロギルド員。あなたは後で人事担当にも話して置くように。今回は災難でしたね。まずは治療院に行きなさい。怪我が完治したわけではないのでしょう?」
「わかった。だが大丈夫だ。この人たちの案内も引き受けたからな。せめて恩は返さないと」
「いや、カマロのおっさん。俺たちこそ大丈夫だから、無理しないで治療院に行ってこい。仲間もいるんだろう?」
「だが……」
「いや、後は買取してもらって、宿に行くだけだ。ガキじゃないんだからお守りはいらねえよ」
「カマロギルド員。彼もこう言っている。案内ぐらいは私に任せて行ってきたまえ」
「……わかった。悪いな」
そう言ってカマロは部屋を出て行った。
「で、ジョナサンさん、ここではギルド員以外からも買取していただけるんですよね?」
「はい。広く扱っております。税金もこちらで引かれることになりますが。ギルド員になるとお安くなりますよ?」
「ははは。勧誘が上手いですね。まあ、査定してもらってからにしましょう。案内お願いできますか?」
「はい。では一階のカウンターまでどうぞ」
こうして俺たちはやっと金を手に入れることができるようだ。
あー、早くまともなメシが食いてえ! ベッドで朝まで寝たい!
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