第23話 『指南役』殿の教えがある故、心配には及ばぬ
盗賊騒ぎに関わったのが運の尽き? もう少し穏便に街に入れると思っていたが、衛兵さんが団体でお迎えしてくれた。
「入れ。一人ずつだ」
衛兵詰め所の一室、俺たちは分断されることになった。
まず俺から先に取調べを受ける。
こんなこともあろうかと……いや、真面目な話、新さんとは何度か『異世界転移あるある』に関して話し合っている。ラノベによって色々なパターンがあるが、思いつく限りのことを教えてやった。それぞれ自分ならその場合どうするとか、ナビさんも交えてシュミレートもしてみた。だって、荒野を黙々と歩き続けるのは精神的に辛かったのだ。
おかげで今更口裏を合わせなくても『この世界の人間』としての設定は完璧、のはず。
できれば『東の方』とか『事情があって国の名は言えない』で納得してくれればいいのだが。勿論、それですまない場合、偽出身地の名前も決めてある。
一番怖いのは、神殿に連れて行かれて『精霊裁判』みたいな感じで『異世界人』だとバレることである。
「そこに座れ」
部屋には机と椅子があった。まんま取調室である。マジックミラーはなさそうだが。
隊長さん(仮)は、対面に座るのかと思ったら、反対側にあるドアを開けて出て行き、またすぐに戻ってきた。手には一抱えもある道具、機械に見える何かを持っていた。
「よーし、これに手を当てろ」
その機械を俺の目の前に置くと、そんなことを言い出した。
ラノベ知識で何となくはわかるものの、爺さんからの情報とは一致しない。不安が募った。
手を当てる前に確認する。
「これは何だ?」
「知らんか? まあ、そうだろうな。だが、安心しろ。といっても、もし貴様が犯罪を犯しているならば安心などできないだろうがな」
「だから何なんだ?」
隊長さん(仮)の言い方で確信に変わったが、爺さん情報との齟齬が気になる。
「ふん、不安……ではなさそうだな。よし、もったいぶるのは止めてやろう。これはな、手を当てた人間が罪を犯しているかいないかがわかる魔道具だ。どうだ、スゴイだろう?」
隊長さん(仮)は得意げな顔だ。
だが、俺が知りたいのは何故そんなものがあるのかということである。
「そんなものがあるとは知らなかった。それは神殿の専売じゃなかったのか? 俺はそう聞いているが」
「まあ、知らんのも無理はない。こいつは最近開発されたものでな、わかるのは犯罪者かどうかだけだが、犯罪者とわかったら貴様は神殿に送られ、そこで詳しく詮議されるんだ。ただ使用するのに魔石をバカ食いするんでな、誰にでもってわけにはいかねえ。光栄に思いな。こいつは国と神殿両方が関わっている。逃げられると思うなよ。さあ! 説明はしてやった! さっさと触れ!」
なんと! 新開発とは! 爺さん情弱かよ。ナビさんもアップデートしてないのか?
『回答:先ほどアップデートしました。アップデート内容を提示しますか?』
うおーっ! 何ちゅうタイミング! 誰に突っ込めばいいかわからん! 俺はいいから新さんに教えてやってくれ。
『回答:了解しました』
ビックリはしたが、特に状況が悪くなったわけじゃないな。いや、これって逆に都合が良いんじゃ……
「わかった。最後にもう一つだけ質問いいか?」
「何だ?」
「犯罪、というのは国によって定義が違うだろ? ある国では認められていたコトが別の国では犯罪として扱われることもある。もし、俺が知らないで犯罪を犯していたらどうなる?」
「そんなもん……上が判断することだ。その時に泣いて訴えろ!」
「いい加減すぎるだろ……じゃあ、もう一つ。この国では盗賊を殺すのは犯罪か?」
「バカか? 盗賊を殺して罪になるんなら俺達衛兵は犯罪者の集まりだ」
「そりゃそうだな、ついでにもう一つ。街道の近くで狩りをしたんだが、禁止されてないよな?」
「あー、確かに王都の近くでは狩猟が禁止されているところもあるらしいな。だが、この辺じゃ聞かないぞ」
「わかった。よくわかった。もういい、ここに手を置くんだな?」
情報は十分もらった。新さんにもナビさんから伝えてもらおう。
蓋を開ければラノベの展開どおり。問題は爺さんの情報が古かっただけというオチだった。異世界に来たばかりの俺達が犯罪を犯したかを気にする必要は全くない。
逆に審査が楽になったと思えば、新開発乙! と開発者に礼を言いたい気分である。
「……よし。犯罪者ではないようだな。若いのにふてぶてしい態度、ひょっとしたら、と思ったんだがな」
ふてぶてしいのは異世界で無駄に舐められないようにするため、無理して演技してるんだ! 中身はインドア派の受験生なんだよ!
「大きなお世話だ。もう行っていいか?」
「待て待て。まだ調書が残っている。名前と出身地を言え」
この後メッチャ聞かれた。
しかーし! 俺は乗り切ったよ! 異世界人ということ『だけ』は口を割らなかった。誰か、褒めてもいいんだぜ?
最後に入場税として金貨1枚を払わされた。これは、まだこの世界、この国の物価はわからないが、どこのギルドにも商会にも所属していないということで最大の金額だという。
銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨があり、この国の貨幣単位はミル。銅貨1枚が1ミルで金貨1枚は10,000ミルだ。1ミル=1円でも毎回1万円は高い。1ミル=1米ドルならべらぼうに高すぎるな。
う~ん、そう考えるとギルド登録はますます必要かな?
さて、俺の入国審査はこれで終わり。
新さんは俺からの(ナビさん経由)情報があるからもう少しは早くなるだろう。
取調室の外に出る。
ありゃ、カマロのおっさん、律儀に待っててくれたわ。
でも、新さんが手続き中、いい話し相手になってくれるだろう。
「じゃ、新さん、交代だ」
「うむ。『指南役』殿の教えがある故、心配には及ばぬ」
「あはは、そうだね。俺たちの指南役サマはすごいからな」
隠語になってるだろうか。どうやら情報伝達は上手くいったみたいだ。
そして新さんが取調室に入っていく。
「カマロのおっさん、付き合ってもらって悪いな」
「かまわねえ。こっちも頼みがあるからよ。というか、おっさんって呼ぶな! 俺はまだ22だ!」
えーっ! 見えねえ!
日本人が若く見られる=外国人は老けて見える説には懐疑的な立場だったんだけどな? ほら、ハリウッド映画なんかじゃ、何年過ぎても高校生役やってるスターもいるじゃん。もう、人によるとしか言えないな。
「あ、あははは。まあ、貫禄があっていいじゃないか」
「それは褒め言葉なのか? お前こそガキの癖に大した度胸だよ」
「えーと、ちなみに俺のこと何歳だと思ってる?」
「ん? 15、6だろ?」
うん、微妙。コメントに困る。俺って、現代日本では身長は高くも低くもないはずだし、髯は薄いけどマッチョではないし……うん、本当にコメントに困る。
「えーと、17だから、そんな感じかな……あ、頼みって何?」
困った時はさっさと話題を変えてしまおう。
「衛兵への報告は後日になったが、俺はギルドにも報告しなきゃなんねえ。2パーティーがほぼ壊滅しちまったからな。できればお前たちからも説明してやってほしいんだ」
「ああ。新さんも問題ないと思うぞ。どうせギルドには用もあるしな」
「用って、盗賊からの戦利品か?」
「それもあるけど、もともと俺らは狩りで稼いでるんだ。獲物を買い取ってもらいたい。この国じゃギルド員じゃないと絶対に買い取れないとか、思いっきり買い叩かれるとか言う決まりがあるなら登録しても良いし、ま、その辺の情報がほしくてな」
「なるほどな。狩人か。ん? それにしちゃ弓も槍も持ってないようだが」
「俺は魔法使いだ」
「ああ、そういえばそうだった。『箱持ち』だったしな」
ん? 今の翻訳に何か意味があるのだろうか。すぐに『アイテムボックス』のことだろうとはわかるが、ニュアンス的に小さそうな……こりゃ、『倉庫』の大きさは秘密だな。ラノベのチート主人公たちのより大分小さいんだけどな。
「ま、まあな……」
こうしてカマロのおっさんと情報交換をしながら新さんを待っていたのだった。
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