第21話 野盗相手に正々堂々など笑止千万
異世界に転移してきてから初めて出会った現地人。それが盗賊? 襲われている馬車? どこまでテンプレなんだ異世界!
「ギャハハ! 大漁だぜい! おかしら! 酒飲んじまってもいいか!」
「バカヤロウ! アジトに戻ってからにしろい! おら! てめーらもだ! 女は売りモンだ! 手を出すんじゃねえ!」
「そりゃねえですぜ。せめてトーマス達が戻ってくるまで……」
俺たちは『隠蔽』の効果で連中に気が付かれないうちに近くまでやってこれた。
話からするとこいつらが盗賊で間違いないようだ。鑑定しても『職業』とかは無いので言動から判断するしかないが。レベルは20前後。素の俺だったら勝てなかった。
戦いは終わっていたようだが、荷物を漁るのに夢中みたいだし、殺されていない人たちもいるようだ。馬車は5台。馬も戦利品扱いなのか無事である。
一応馬車の陰で作戦を立てる。
「新さん、奇襲は嫌いか?」
「いや、それも兵法の一つ。それに、野盗相手に正々堂々など笑止千万」
「よかった。じゃ、俺がやつらの注意を引くから、新さんは後ろから遠慮なく斬っちゃっていいよ」
「承知した。今度こそ某の『でびゅー』でござるな」
「お、おう……どこで覚えた? ま、いいか。じゃあ、行ってくるね」
こうして俺は盗賊たちの前に姿を晒す。怖いと言えば怖いけど、魔法があるから負けはしないだろう、という気分だ。
「よう、盗賊ども。年貢の納め時だぜ!」
「ああん? 何だ、てめえ! どっから湧いて出やがった!」
「かしら! コイツ、鎧も得物も持ってねえぜ?」
「はん! そんな棒っきれで何するつもりだ? 魔法使いの真似か? ガキが!」
言いたい放題である。確かに密かにお気に入りの『枯れた木の枝・付与「硬化(微)」』を構えているだけじゃ脅威とは思えないだろう。
「まあ、待て。せっかく出てきてくれたんだ。可愛がってやろうや。おっと、顔には傷つけるなよ。変態の金持ちに売れるかもしれねえからな!」
うおっ! 寒気が! 俺の尻、ピーンチ!
「ゲハハハハ! なら俺g……がふっ……」
「へっ?」「あっ」「えっ……」
新さんが瞬く間に4人斬った。手加減はしていないようだ。これで新さんは童貞を切ったことになる。しかし、思い切りがいい。
「な、なんだ! だ、誰だ!」
「くそ! もう一人隠れてやがった!」
「このやろう!」
盗賊は全部で14人だった。残り10人。俺と新さんに挟まれて混乱中だ。
中には何の考えもなく俺に飛び掛ってくるヤツもいた。
「あべし!」
何かどこかで聞いたセリフだが、爆散はしてないよ。マジックハンド(当社比10倍)で叩きのめしただけだ。たぶん死んでない。
ただ、新さんとは逆の意味で手加減ができない。もしかしたら首の骨が折れてそのまま……ってコトもあり得る。
でも、覚悟はできてる。正直、ウサギを殺した時より罪悪感は感じない。見るからに盗賊だからだろうか。まあ、血は勘弁してほしいが。
結構あっという間だった。
俺も何人か相手にしていたので見学の暇はなかったが、チラリと見た新さんの戦い方はそりゃ見事だった。敵の剣と刀を合わすことなく、首の急所を一斬り。それを複数人相手だ。『剣術Ⅹ』とレベル40がどれほどのものかよくわかる。
『おかしら』と呼ばれていた男だけ俺が取り押さえている。見るからに臭そうなのでマジックハンドでだが。
「放しやがれ! てめーっ! 後悔するなよ! 俺たちのバックにゃなあ、お貴族様が――むぐっ」
「はいはい。そういうのはいいから。大人しくしてろ」
何やら面倒なフラグが立ちそうだったので速攻で落ちていた石ころを口に詰めてやった。
辺りを探すと、盗賊が用意した物か、荷馬車に積んであった物かわからないけど、ロープがあったので拝借する。
石を詰めたまま猿轡(なんで猿なんだろうね?)を咬ませ、後は身体をグルグル巻きにする。マジックハンドでなのだが、これもう念力だよね?
「あ、ありがとうございます!」
盗賊に捕まってた女性が泣きながら礼を言ってきた。何をされたかは、或いは、何もされなかったか、は聞かないでおく。命があっただけでよかった。
そのタイミングで南から馬車が近づいてきた。
一瞬戦闘態勢に入りそうだったが、カマロのおっさんの顔が確認できたので、警戒を解く。
「奥様!」
「ああ! あなただけでも無事でよかった!」
馬車から降りてきたアマンダ婦人と生き残った女性が再会を喜ぶ。うん、感動的だ。
カマロのおっさんは俺たちに近寄ってきた。
「おいおい。これを二人でやったのか? すげーな。あんた達」
スゴイのは新さんなんだけどね。まあ、今回は俺も役には立ったはず。
「ところで、まだ息のある人たちがいるんだが、確認してくれるか?」
商人や御者なら見分けは付くが、盗賊と冒険者ははっきり言って区別が付かない。『治療魔法』もまだ習得していないので、瀕死の人たちの処理は口を挟むべきではないだろう。
「わかった」と短く返事をしたカマロは一度アマンダさんに断って馬車から何かを取ってきたようだ。
そして新さんに案内され、瀕死だが息のある人のところに向かった。『気配察知』で判別が付くから見落としはないはず。
カマロは、一人一人顔を見て、ある者には止めを刺し、ある者には何か液体を飲ませたり掛けたりしていた。
ポーション!
なるほど。鑑定すると『HPポーションⅢ』と出た。異世界あるあるで定番のアイテムだ。そういやカマロのおっさんも結構ケガしてたのに今は元気そうだ。先に治療してきたのだろう。
う~む。ポーションの種類と品質が気になる。Ⅲって、どのぐらいのレベル? (微)とかじゃないんだ?
『回答:付与レベル表示をⅠ~Ⅹに変更しますか?』
いや、質問したわけじゃなくてね、そして、何故表示が違ってるのか不思議だっただけでどっちでもいいですよ?
『回答:了解しました。現時点の表示を維持します』
とかなんとか、俺がナビさんとおしゃべりしている間に治療は終わったようだ。
盗賊は勿論、助かりそうもなかった人たちも苦しませるよりは、と止めを、いや、介錯をしてあげたらしい。
後で聞いた話だが、商家の関係者13人中6人が死亡。護衛の冒険者はカマロを含めて2パーティー12人中8人死亡だったようだ。
タイミングよく通りかかり、無双して全員怪我もなく助かった、なんていうのはそれこそ御伽噺の中だけだ、ということを実感した出来事であった。
「くそっ! 盗賊ごときにっ!」
カマロのおっさんが蓑虫状態の『おかしら』を足蹴にしている。
あ~あ、モロに顔面に蹴りが入った。口の中に石ころが入ってるから歯がボロボロになったんじゃね? 全然同情できないけど。
「カマロのおっさん、俺たちはこれで。先に行くわ」
別におかしらを助けるつもりはないが、ただ見ていても時間の無駄であるので話かけてみた。
「え? ちょ、ちょっと待った! アマンダさん! アマンダさーん!」
何か引き止められた。次の展開はラノベを読んでなくてもわかる。
新さんも、目を合わせると黙って頷いた。はいはい。見捨ては置けん、っていうヤツですね?
案の定アマンダさんからドルノースまでの護衛を頼まれた。
新さんとの協議の結果、引き受けることにしたが報酬は断った。アマンダ婦人が困り顔だったが、新さんが『人の弱みに付け入るなど武士の恥!』と男気を見せたので、俺も全面的に賛成したのだ。あ、入場料が必要なのでそれだけは出してもらうことに。
盗賊の持っていた現金は全てアマンダさんに渡す。どれが奪ったお金でどれが元々持っていたお金かなんてわからないからだ。被害者に返してほしい。
代わりに盗賊たちの装備品は全てこちらがいただくことになった。
死体から剥ぎ取ることに嫌悪感があるし、何より臭かったが、念入りに『クリーン』を掛けて『倉庫』に収納する。
革靴もあったが、新さんに使うか聞いてみると、珍しく嫌な顔をされてしまった。そうだろうな、俺だってイヤだ。
新さんの靴は街で新調しよう。
さて、馬車の用意ができたら、今度こそ街まで向かおう!
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