第15話 半分趣味で半分は時間潰しだ
新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。
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『相棒はご先祖サマ!?』 https://ncode.syosetu.com/n1665ho/ 火木土0時投稿予定。
森と荒野の境界を西に向かってガンダーラ。アイテムボックスは覚えたし、次は何を開発しようかな?
引き続き、歩きながら魔法の検証を行う。
新さんは、俺の『亜空間倉庫』がお気に召したみたいで、その習得に邁進中。ただ、ポイントで『空間属性魔法』を取得しなかったので自力取得は困難だろう。
しかし、『無属性魔法Ⅳ』があることと、原理が理解できれば無理なことではない。生活魔法『クリーン』は覚えられたしな。
俺もできるだけアドバイスはしているが、新さんは歩きながら、うんうん唸っている。こりゃ時間がかかりそうだ。
俺はそのアドバイスの傍ら、別の魔法の検証もしている。
オリジナル魔法の開発などではなく、既に取得している『付与魔法』の実践である。
異世界転移といったら冒険者で間違いないと思う。事実、身分証と日銭を稼ぐために街に着いたら速攻で登録しに行くつもりだ。
だが、日々バイオレンスばかりだと単なる高校生では精神が持たない。平穏な生活のためには生産系ルートもアリではないかと思うのだ。
幸い俺には『錬金術Ⅴ』がある。これに『無属性魔法Ⅹ』と『鑑定Ⅹ(ナビさん付き)』があれば魔道具の一つや二つ楽に作れるようになるだろう。更に『付与魔法』を加えれば効果的じゃないだろうか。
実験開始。
荒野から枯れ枝を拾ってくる。薪にもなるし、亜空間倉庫があるから移動中に目に留まったのを片っ端から収納している。
まずは、何も付与しない状態で手で半分に折り、その力の入れ具合を確かめる。計測器がないから感覚勝負なのは仕方がない。
そして二つになった枝のそれぞれに『不壊』と『硬化』のイメージを込めてみる。
ここで、鑑定。
『鑑定結果:枯れた木の枝・付与「不壊(微)」』
『鑑定結果:枯れた木の枝・付与「硬化(微)」』
付与魔法自体は一応成功のようだ。
ナビさん、ナビさん。(微)って何?
『回答:状態付与時に用いられた魔力量によって効果の程度が変わります』
ああ、なるほど。その理論はすごい納得できてる。
ま、とりあえず効果の程を実際に試してみよう。
まずは『不壊(微)』のほう……
むむむむ……ボキッ!
ふ~む。感覚だけでわかるぐらい硬くなってる。でも素手で折れるレベルだな。まあ、元が脆い枯れ枝だし。
じゃあ、『硬化(微)』は……ボキッ!
う~ん? 『不壊(微)』との違いがわからん。
これは言葉を変えても本質は一緒、という結論になるのかな。しかし『不壊』なのに壊れるって、(微)じゃなくって(笑)じゃない? おっと、イメージしたら俺の付与魔法が全部(笑)が付いちゃうかもしれない。気をつけよう。ププッ。
付与ができることはわかったから、次は効果時間でも調べよう。
『不壊』が破壊可能であるように、『永遠』だっていつかは終わるのが摂理だ。ましてやチンケな俺の魔法じゃ一体いつまで保つやら。(微)は最低レベルっぽいから一時間を超えればいい方なのか? 半日保てばかなり便利じゃないか?
実験の後でナビさんに聞いてみよう。何故今じゃないって? そりゃ、半分趣味で半分は時間潰しだからだよ。
また枯れ枝を拾ってきて、『不壊(笑)』ではなく『硬化(微)』を付与する。後はこの効果がいつまで続くか観察するだけの簡単なお仕事である。
……うん、暇になった。
新さんの修行状況でも確かめてみよう。まだ、うんうん唸ってるから予想はわかってるけど。
「新さん、どんな具合だい?」
「む? ケント殿! どうもこうもござらぬ。剣を振る方がよほど楽でござるよ」
「アハハハ。まあ、とりあえず今日一日はがんばってみようや。どうせ歩くしかすることないしさ」
「む! いや、某はきっと成し遂げてみせるで、む! ケント殿! 気をつけられよ!」
「え? ど、どうした?」
新さんが突然森の方を向いて刀に手を掛けた。
俺も思わず実験用の枯れ枝を構えた。
「誰かに見られている気配がした。油断召されるな」
「お、おお……」
確か、新さん『気配察知Ⅳ』を持ってたよな。俺はスキルレベルⅢだからパッシブだと新さんの方が早く効果範囲に入ったのかな?
だが、俺には『無属性魔法Ⅹ』がある。意識して『気配察知』スキルを使うようにすれば……
「お、俺にもわかった。森に何かいる!」
レーダー画面みたいにハッキリしないが複数の生き物がいるって感じがする。ん? そうだ!
「ナビさん! マップに生き物の表示はできないか?」
『回答:了解しました。スキル「気配察知」の結果をマップ上に表示します』
おお。俺を中心に300mぐらいの円が表示された。その円の上部に光点が多数。一つは俺のすぐ横。勿論新さんだ。
「敵味方の識別はできない?」
『回答:スキル「気配察知」のレベル不足により現時点では不可能です』
あ、そうですか。
「じゃあ、相手が何者かっていうのはわかる?」
『回答:目視による確認ができていないため回答不能です。魔力波形からの推測でゴブリンである確率90%』
90って、そりゃもう確定でいいんじゃない?
「新さん! そいつらはゴブリンだ! 森で会ったやつの仲間だ!」
「なるほど。某たちを追いかけて来たか……ケント殿、如何いたすべきか?」
「うん。新さん、爺さんから魔物の話聞いたよね?」
「うむ。大氾濫であったか。魔王とやらが魔物を扇動すると」
「うん。たぶん、この世界の人にとっては敵なんだろうけど、俺たちにとっては敵かどうか判断つかないんだよね」
「む、それは、あの小鬼もこの世界の民と考えろと?」
「うん。そんな感じ。もちろん、向こうが攻撃してきたら戦うことに反対はしないけど、もう言葉交わしちゃったし、こっちの世界に来て初めての言葉の通じる相手だったから」
「確かにその通りであるが、向こうに敵意があったとしたら……」
「だから、それがわからないから悩んでるんだよね~。この世界の人と魔物の関係も聞いたでしょ?」
「うむ。神仏の人に対する試練と某は受け取ったが」
「俺には遊び半分にしか思えないんだよね。新さん、ゴブリンの姿見て『餓鬼』だと思ったよね? そんな見た目の生き物を『善なる存在』と思える?」
「……いや、仏道では悪事を犯した者の末路だと……」
「だよね~。でも、神サマがそういう風に作ったんだと思うよ。人間の敵となるため、わざと醜く」
「ありえな……くはないであろうな。あの御老体の話からすると」
「うん。信じられないのは仕方ないよ。でも、その裏側がわかっちゃうと、嫌われて殺されるだけの魔物に同情しちゃうんだよ。俺は何の被害も受けてないし。新さんの時代の戦争だって、敵が悪人だから戦ってるわけじゃないだろ?」
「う、うむ。そのとおりでござる。では、いかがなさる? 某は剣を振るうことしかできぬ故、判断は任せたい」
「そう? ありがとう。とりあえず、向こうが俺たちをエサとして襲うつもりなのか、『魔王』だと思って接触したいのか確かめたい。最短コースは諦めて荒野方面に移動しよう。エサ扱いならそのうち諦めるだろうし、どうしても接触したいんだったらきっと少数で追っかけてくると思うんだ。大人数もままで襲われても荒地だったら魔法で対処しやすいから」
「わかった。そのようにしよう」
こうして俺たちはゴブリンたちの集団から逃げるように南西方向にコースを変更するのだった。
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