表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/27

最初の出会い

碧は人の空いた区間に二喬と入った。

人の頭に邪魔されずにすかっと見える。

何人かの男の人が剣を操り火を噴いたりファイヤーショーをしていた。

夢中で楽しそうな二喬とは比べて冷静に見ていた。

技が決まるたびに拍手を送る。

パフォーマンスをしているがぐっと心が掴まれて惹きつけらえるような衝動はない。

碧もただ眺めていた。

パフォーマーたちはチラチラと客に視線を向けどんな客層がいるのか把握しているようだ。

火を噴く一番歓声が大きく起こる男性も全員の顔を見たあとも視線が二喬に向けられている。

他にも見物人の中には綺麗な女子たちがいるが二喬に目が止まるのは仕方ない。

「連日通っているけど今日が一番いい」

「最終だから気合が入っているんだよ」

「客は初日が一番多かったが今日も増えてきたな」

客同士の会話が後ろから聞こえたあとで舞台の裏方らしい人たちが小道具を用意しながらひそひそと会話も聞こえた。

「どうしたんだろうか。あいつら今日に限ってやる気に満ちてないか?」

「そうだな。気迫を感じるよ」

可愛い子がいる場所とただ見てもらうやる気がでるものだろうと碧は会話に同意して頷いた。



「お次はこちらの松明に火をつけます。一番大きな火を噴きます。今日で旅立つので今見ないと次はいつお目にかかることができるかわかりませんよ」

碧たちが大きく拍手を送るせいかパフォーマーたちも気分が乗ってきたようだ。

客寄せの司会者をする男性が煽るように言うと人目見ようと詰め寄られた。

碧は押されるが押し合いには慣れている。

足で踏ん張って重心をとりお尻で押し返し人の波を防波堤のように止める。

「二喬大丈夫?」

碧が隣にいる二喬を見るが横に流されいる。

「お嬢様! 大丈夫ですか?」

二喬の声だけが聞こえているが埋もれて姿が見えない。

「二喬どこにいるの? 二喬!」

叫ぶと白く細い手がすっと人の隙間から伸びた。

「ここです! お嬢様!」

「そこにいて! 私が行くから! そのまま見てなさい」

「分かりました」

外に出ることも考えて後ろを振り向くが移動ができない。

集まりが気になった通行人まで引き寄せられて集まっていた。

外に一旦抜け出したらまたこの位置に戻りたくても戻れない。

隙間はなく入らしてもらえない。

何とか空いているわずかな隙間に足を入れて移動する。

思いっきり踏みつけられて蹴られるが痛みに耐えて踏んだことに気づいてもらい間を通らせてもらった。

「うっ。すみません、通ります」

満身創痍でボロボロになるが今見ている相手はどう思われてもいい。

会うのも一度きりだろうし記憶には残るような恰好や外見ではない。

やっと移動して二喬の後ろに一人を挟んだところまでたどり着いた。

押されたり服や髪を引っ張られたりで散々だ。

二喬はさらに流されていていつの間にか前列の隙間にいた。


「二喬! 後ろにいるわよ」

「お嬢様! 大丈夫ですか? 帰りましょう」

二喬は碧を見て

「最後まで見て行きましょう」 

「きゃぁ!」

「あぶない」

二喬がふらついて前に出てしまった。

手を伸ばすが二喬は飛び出てしまい芸人たちは気づいてない。

二人並んでみていた背の高い男性たちは押し出された二喬に気づいた。

外側にいた男性は一歩前に出て倒れそうな二喬を支えようと手を伸ばす。

二喬の隣にいた男性が二喬の腕をとっさに掴んだ。

二喬は前のめりになったが支えられた手に肩を支えられて押し戻された。

「二喬!」

碧は自分が倒れないように後ろから弾かれているのを食い止める。

手に持った火のついた大きいマッチのような木の棒を口元に近づけると口から吹き出した酒で勢いよく火が燃えあがり相手のもつ大きな松明に火をつける技が披露されて大きな拍手を送っていた。

防いでもらえなかったら二喬が火だるまになっているところだった。

「ありがとうございます」

碧が礼を述べると腕を掴んだ男性は振り向いて碧をみた。

掴んでいるのを忘れているのか二喬の腕を自分の目線まで持ち上げた。

男性は背が高く腕を掴んだまま高く吊り上げた状態で引き戻すので二喬が浮いている。

「二喬!」

男性は目を後ろにいた碧に向けたられ碧に二喬の全体重が肩にのしかかった。

後ろに倒れるわけにはいかないとぐっと持ち堪えた。

二喬が軽くても全体重を預けられたらさすがに重たい。

二喬は驚きと呆気にとられているのか何も話せないようだ。

吊り上げた手を下ろしてもらわないとと碧は男性の顔を見た。

舞っていた火の粉が鳥の羽のように見えた。

鳳凰のように火の中から生まれた綺麗な鳥に見えて目が離せない。

名前も何もかも知らないのに突然推しとの出会いになるとは予想はつかなかった。

ただ忘れられないように網膜にしっかりと焼き付けた。

惹かれるように周りには火の羽が舞う。

男神が目の前に存在した。

水墨画の中から出てきたようなずっと見ていても飽きることのない絶景は花よりも心を一瞬で潤す。

吊り上げたままの男性を隣で支えるために手を伸ばした人が叩いた。

「女子を吊り上げてはかわいそうです。降ろしてあげてください」

「あっ。すまない」

掴まれていた手を放されて二喬は碧からもたれず立った。

吊り上げていた男性は我に返ったのか手を放したあと顔を真っ赤になった。

もじもじとしていて肩を丸めて小さくなろうとし碧の視線から隠れようとする。

なんとも可愛らしい反応なのか。

さっきまでとはギャップがありすぎる。



パフォーマンスが終わり人々が立ち去っていくなか見たまま目を逸らさなかった。

「碧様重たかったですよね。大丈夫ですか?」

「先にあの人たちに礼を。二喬を助けていただきありがとうございます」

「ありがとうございます」

碧と二喬は同じく二人に礼を言った。

「いえ、礼を言われるような大したことはしてません。これからは気をつけください。しっかり食べて大きくなってくださいね」

男性は二喬に言いつつもちらっと碧が見られすぐに視線が逸らされるが気にしない。

碧は一般的にはぽっちゃりまでとはいかないが隣に二喬がいるから比べて太って見えるだけだ。

二喬より一回り、二回り大きい。

「ですが命を救ってくれた礼をしなければ律家の碧お嬢様の顔に泥を塗ることになります。何か礼をさせてください」

「律家のお嬢様でしたか。礼はまた会えたときに受け取ります。寄り道をしていたのでもう行かないといけません」

 男性は真っ赤になったままの連れの肩に腕をまわし立ち去ろうとした。

「あの、名前を伺ってもよろしいですか?」

二喬が尋ねると立ち止まった。

「俺は六野りくや、そしてこの隣はほう殿です。ではお二人もお気をつけてお帰りを」

「はい。ありがとうございました!」

二喬が叫んで見送った。

「どこかの若様たちですかね? かっこよかったです。お嬢様もありがとうございます」

「二喬が楽しめてたらいいのよ」

「きゃ! お嬢様傷だらけです。こんな姿になったまま町を出歩けませんし屋敷にもどって手当しましょう。とりあえず着替えないと」

「また会えたら運命でしょうけどこの人が大勢いる都で偶然会うことはないでしょう。痛かったのよ」

「玉珊様を呼んできます。そのままいてくださいね! すぐに呼んできますから」

「うん。待ってる」

碧は遠ざかり人混みに紛れていくなかでも鳳を見つけた。

会うことはないだろうけどなぜか目が自然と鳳を追いかけていた。



碧と鳳が出会った最初だった。

身なりがボロボロの姿で出会いたくはなかったがそれが初対面での姿だった。

今までの妄想で現状を置き換えいえば完全に素の状態でであった。

ノーメークで寝起き。

顔だけ水で洗い髪も櫛で梳かずにフードをかぶり気を抜いていたのに大好きな人に出くわしたような心境だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ