碧の兄たち
数日屋敷の中で過ごしている間にのんびりすることができた。
目覚めて二日間三食をしっかり食べて寝ると体力が戻り張りつめていた緊張感も解けて消えた。
ゴロゴロと部屋の中ですごし二喬を連れて屋敷のなかを散歩する。
なぜ数日だったというと倒れたことを聞きつけて家の中が大騒ぎになった。
「お嬢様は安静にすごされています。元気になられましたら挨拶にいくように伝えますからお戻りになってください」
「碧! 碧は大丈夫か!」
「菓子を届けにきたぞ」
なんとも騒がしくその声はよく似ているが一人じゃない。
「お待ちください。うわぁ!」
二喬が一人で必死に扉の前で止めていたが力でぐいぐいと推されている。
ギシギシときしむ音のあとガタンと外れた。
「「碧!」」
「若様どうか落ち着いてください」
扉を壊して二人の男性が入ってきた。
二喬はぐっと背中の衣を握りしめて妨害するが体格差で負けている。
二人とも年は二十歳前後のようだがすらっとした長身で大きくモデルのようだ。
足も長くて数歩で碧が座ってる椅子の前にたどりつく。
一重で猫目で色気がある一人と隣に優しい印象の垂れ目の二人を交互に見比べた。
顎のラインが尖がっていた。
小顔で十分推せるがなにか違う。
見舞いに花ではなく両手に菓子の包みを持たせられる。
「妹よ。こんなに痩せてしまった」
「汁物や粥しか食べてないのだろう。しかもお代わりをしていないと聞いた」
「病み上がりはおかゆは普通じゃない」
「お兄さん?」
「そうだよ。やっと俺たちのことをお兄ちゃんだと認めてくれたんだね。今日は記念日だ」
「失礼ですが兄上。碧が呼んだのは僕のことだと思います。長兄とは年齢差があるからお兄さんとは呼びづらいのでは?」
「有圭様、百里様お二人とも碧様を放してください。困っておいでです」
二喬が言うと離れてくれた。
二喬から話は聞いていたが有圭が長兄、百里が次兄らしい。
兄妹は多いらしく碧は一番下だと聞いた。
滅多に合うことはなく今いる部屋ももとは母のために建てられた離れだった。
有圭が二喬に尋ねた。
「碧の母上は知らされてないのか?」
「碧様が屋敷から抜け出したので心配かけないように黙っているんです。有圭様も百里様も都から戻られたばかりですよね。奥様に挨拶は済まされましたか?」
「碧の好物を買いに行ったら数日町に来てないと聞いたんだ。今回は都に行くなら一緒に行こうと迎えに来たんだ」
よく町に抜け出しているらしい。
そして買い食いの常習犯のようだ。
通りで頬の肉で目が食い込んでいたはずだ。
むくみを取るためずっと顔をマッサージしてやっと目が一本の筋ではなく若干開いたアーモンドアイに近づいた。
「都に行くの?」
碧が尋ねると外からの風に運ばれて部屋の中に花の香りと一緒に一人の女性が壊された扉の前にたっていた。
「迎えなら私が来たのでお兄様と百里はゆっくりお過ごしくださいな」
「玉珊様!」
二喬が喜んで出迎える。
玉珊と呼ばれた女性は碧の見舞いにきたのか手は花束を抱えていた。
そして碧のそばにいる有圭と百里に向かって花束を振り回し追い回す。
「碧のそばから離れて!」
「なんで玉珊がいるんだ?」
「大好きな妹を誘いにきたのよ」
兄たちは慣れているのか当たる寸前でうまいこと逃げている。
そして碧と二喬をくっつけて立たせると後ろに回り屈んで盾にした。
有圭も百里も膝をグッと曲げて頭を低くした。
殴ろうと腕をあげるが碧の顔を見て玉珊は振り下ろせない。
ギュッと花束を握りしめている。
「兄さま碧のうしろに隠れるなんてずるいわ。百里、出てきなさい」
碧の肩を掴んだまま有圭はそっと顔をあげ後ろから覗かせた。
「二喬はやく玉珊から花を受け取れ」
二喬は百里に腕を押さえられていて手を出せない。
身動きすら取らせてもらえないようだ。
「私がいただきます。持ってきてくれたんでしょう?」
「はい。碧に贈り物よ」
碧は玉珊から萎れた花束を受け取った。
花は散ってないから摘みとってきたばかりなのだろう。
握りしめていたところを切り水に活けたら復活するだろう。
碧が受け取ると休戦にやっとなった。
机を囲んで座ると広く思えていた室内が圧迫されて感じる。
二喬に水を平たい桶に運んできてもらいハサミで水の中で花の茎を切り水が吸いやすいように切り込みを入れる。
机の上に花瓶に入れて飾った。
玉珊が碧の隣に座り説明をする。
「食べ物もいいけど目は美しいものを見て感じて愛でることで心を潤すのよ。何がいいか分からなかったから庭の花を摘んできたの。可愛い花でしょう?」
「うん」
碧の心はぽっかりと穴が開いたようだった。
燃え尽きて灰になるとはいうけれど失恋とも違った喪失感を感じた。
生活は願った通り衣・食・住の心配がなくのんきで気楽に過ごせると思っていた。
今まで推しは花と同じで心に潤いを与えてくれていた。
推しの写真は生け花と同じだった。
満たされてない気分になったのはずっと忘れていた感覚で久しぶりだ。