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目覚めはローストチキン

 吸い込まれる直前に思いだしたのはサインが入った大当りのカードだ。

 念じれば今なら異空間でも思ったところに繋がって見えるかも。

 グッズを買ってから袋に入っていた大当たりのカードは入っていた袋の中に入れてある。

 母なら捨ててしまうかもしれない。

 執念で吸い込まれるのを必死に耐えた瞬間にスクリーンの中に小さな画面のようなものが現れた。

 母の姿があった。

 多分家の中のようだがそんなのじっくり気にしていられない。

 私のライブ専用かばんの荷物を取り出していた。

 ゴミも入っているが会場のレシートも購入したグッズの外装の袋もゴミではない。

 袋に戻してグッズを収集している。

 サイン入りのカードの袋は手紙のような紙の封筒に入っていた。

「捨てるまえにカードの袋を開けて」

 必死に訴えると聞えたのか伝わったのか捨てる前に袋を開けられた。

 そしてサインが入っていたカードと重なるように二枚のくじが入っている。

 サイン入りがうれしくて忘れてたがあの日、運気がいいと思って買っていたくじを財布から同じ袋と一緒にいれていた。

 まだ開演前の一時間前に開場してすぐに会場の中に座って待っているときだ。

 まだ削ってない運だめにに買ったスクラッチとコンビニでチケット発券時に購入したビッグくじ。

 私は削ってないのに躊躇なく削られる。

 まさかの一等。

 母は嘘だと思って何度も削った後を削ってる。

 それにくじは両方とも当たっているようだ。

「あたった……。きゃぁぁ! 碧ちゃん当たったよっていないんだった」

 夢でないのなら私との約束を守ってくれたらしい。

 母は棚に置いてある神棚に当りのスクラッチを置いて手をあわせ喜びを報告している。

 今見ている場所にピンときた。

 この小さく見えているのは自宅の神棚のお札から見えている景色だ。

「――碧ちゃんにいつも話していた通り死ぬときも未練を一切残さずに成仏してと伝えてください。残してくれたもので碧ちゃんがいなくてもライブで神席が当たりますようにお願いします」

 私も天命というのを果たさないといけないらしいが推しなんてすぐに見つからない。

 叶えてくれたのに人質に取られた気分だ。

 母はスクラッチの削りカスを手にくっつくのが嫌でカードを使ったらしい。

 机からカードが落ちた。

「母は碧ちゃんが見せてくれなかった取りだめしていた海外ドラマにどっぷりと沼に入れるから、一人で幸せに生きていけるわ」

 一等も大事だがサインも大事だ。同じなら神棚に飾ってほしい。

「サイン入りカード!」

 叫ぶ声は届かずシュッと小さな画面が消えた。



 目を瞑ったままままだが目の前を何かがかすめ手を伸ばすとパシッと何かを掴んだ。

 いい匂いがする。

 照り焼きのような香り。

「お嬢様!」

 聞き間違いだろうか。私のことをお嬢様なんて言う人はいない。

 私をお嬢ちゃんと呼ぶのは母の友達からついたあだ名だった。 

「碧お嬢様!」 

 名前を呼ばれて目を開けると目の前には見慣れたアジアドラマの宮廷時代劇のような煌びやかな部屋の中に寝かされていた。

 手を握っているのは骨付きのローストチキン。

 照り焼きで香ばしく焼かれている。

 皮はパリッと飴色で北京ダックのようだ。

 ごくっと生唾を呑み込んだ。

 おいしそうな香りに負けてとりあえず口に運んだ。

 肉は柔らかく繊維が口の中でほぐれてジュワっとして肉汁が広がる。

 一口食べてから皿を渡された。

「ありがとう」

「お嬢様さすが美食家ですね」

 皿の上に食べかけのチキンを置いた。

 そばにいる女の子が濡れた手拭きを渡してくれて手と口を拭いた。

 目が大きくて美少女アイドルみたいにかわいい子が私をお嬢様と呼んでいる。

 顔は小顔で手のひらで掴んでしまいそう。

 一口だべたチキンで顔が隠せてしまう。

「お嬢様はこれが食べたくて町に行ったのは覚えていますか?」

「待っている間にお腹を空かせて倒れてしまったんですよ」

「空腹で倒れたの?」

「はい。昨日から食べてなかったのでお倒れになったのです。頬もこんなにやつれてしまった」

「一日ご飯を抜いても痩せないわよ。見た目に変化はないのは実証済みだから騙されない」

 チェキ会のときにご飯を抜いたが全然見た目に変化はなかった。

 体重計は捨てた。

 体重計じゃ見た目は変わらない。体重よりも見た目の変化が重要なんだと知った日から十年は体重計の世話になっていない。

 目安は膝だ。

 膝が痛くなると体重が増えている。

 そしておやつをスルメイカやおしゃぶり昆布にしてご飯は豆腐尽くしや蒟蒻という特別メニューを三日続けると痛みは自然と消える。

 




 久しぶりに食べたもも肉だった。

 唐揚げはもも肉ではなくて胸肉やささみで自分でレンジで油を少量しにて食べていた。

「さすが目だけで本質を見抜ける眼力をお持ちですね。温めなおしたら目を覚ますと思ったんです。外で焼いたのですが香りが部屋には入らなかったので顔に焼いた鶏肉を近づけてみたんです。お嬢様が大好きなもも肉ですよ」

 起き上がって部屋を観察すると調度品は整えられていて部屋の中も日差しが差し明るい。

 今は春のようで気候がいい。

 化粧台があり鏡が置かれているがその銅鏡では今まで使っていた鏡とは違ってぼやけてまともな姿は映らないだろう。

 水面に映った姿を見るほうがいいだろうがどっちかというと姿は見たくはない。

 転生と言っていたから今は十六歳なんだろう。

 頬を両手でつかんで引っ張る。

 もちもちしていて両頬にたこ焼きができる。

 これは十代の時の特技だ。

 うろうろと部屋を歩いて回ると女の子が手を掴んだ。

「お嬢様安静にしていてください。心配です。いつものように二喬じきょうとお呼びください。お嬢様付の侍女ですよ。どこに行くのもなにをするのも一緒です」

「二喬」

「はい。碧お嬢様なにか聞きたいことがあるのですか?」

「私はどうしてここに?」

「ご説明いたしますが、まずは身なりを整えないと室から出れませんよ」

「分かった。ではお願い。手伝ってくれる?」

「もちろんです。そちらにおかけください」

 手をひかれたまま着替えをさせられて座らされた。

 肌着の上から巻きスカートを紐で結び着つけられる。

 そして今は化粧台にすわり二喬に髪を櫛で梳かれている。

「ご無事でよかったです。出かけてから目を離した隙に居なくなってしまって探しました。突然屋敷で倒れられてどうしようかとおもいました。でもさすがですね」

「綺麗な衣ね」

「碧お嬢様がおでかけに着なさいとくださったんですよ。自分は採寸したときよりすこし大きくなって合わないからとくださったのに覚えていませんか? 仕立てのときに小さく縫い込んでしまったんですよ」

「二喬が来た方が可愛いからよ」

 自分と同じ顔をしているとすれば薄ピンクと白の可憐な色合いは小柄で色白の二喬のほうが似合っている。

 可愛いのは正義だ。

 可愛い女の子がさらに可愛く似合ったものを着せれるとはなんていい世界だろう。

 碧は部屋を観察するように見渡した。

 部屋の中は寝台にはお姫様ベットのように蚊帳のような帳がされている。

 廟と飾り棚で部屋の仕切りになっていた。

 体を休める寝室が一室、食事や針仕事をするような室が一つあった。

 着替えに用意されている服はサテンのような光沢のある滑らかな生地の薄い衣で刺繍で舞台衣装のようだ。

 時代を考えると絹糸で織られたシルク素材のようだ。

 自分の頭をに触れると簪でハーフトップに持ち上げた髪をまとめて挿している。

 耳には小さな玉がついたピアスだ。

 ピアスを開けたことがなかったからうれしい。

 日本だと飛鳥・奈良時代ぐらいの服装に近い。

 


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