結納品の隙間
鳳だけを兄たちは客間へと連れて行き案内し碧もその場に残された。
「済 碧お嬢さま結納品はどこにおきますか? 指示していただければ運びます」
碧に屋敷の門の外にまだいる参列からついてきた官吏は碧に尋ねる。
「結納品?」
碧は思わず聞きなおした。
「はい。宮廷からきたのはそのためです。私は陛下に命じられて鳳様のそばにつく洪と申します。鳳殿下の許嫁となるのですから陛下もご用意するように言われて持ってきたのです。不要でも受け取っていただかないと持ち帰れません」
「そういわれても兄たちもいないし。とりあえず庭の中でもいいかしら?」
小藻は戸惑いながらも茶を淹れに離れたため受け答えできるのは碧と二喬のみだが都の屋敷に慣れていない二人に案内も荷物の指示は適当しかできない。
「持ってきたのは一部です。次に第二段が届きます。そして正式に許嫁となり成婚と決まればまた品をお持ちします」
「そんなにくれるの?」
「はい。鳳殿下の正妃になるのですから当たり前ですよ。では言われた通り庭にまずは運ばせてもらいます。誰か!」
洪が呼ぶと門の外で控えていた列の中から一人が走って入ってきた。
「はい」
「結納品を運び入れなさい」
「わかりました」
洪が命じると門の外にいた一行が中に入ってきた。
屋敷の中に運び込まれるのは赤い大きな箱ばかりだ。
碧と二喬は庭の中央に出て置いてもらう場所を指示を出した。
「お嬢様どうするんですか?」
「分からないわよ。片付けとかは苦手だし適当に置いてもらいましょう。そのあいだに小藻
広い庭が大小の箱や盆でテトリスのように埋められていく。
一行がすべて置き気づいたときには道が埋められていた。
通り道を確保することは頭の中になかった。
「どうしてこんなことになってるんだろう。碧は? 碧はどこにいるんだ? 玉珊も連れてきたらよかったかな」
「その声は清修義兄さん! ここですよ!」
碧は二喬と一緒に抱きついてよろこんだ。
孤島のように庭の中で遭難しかけていた。
箱を持ってきた張本人の鳳は戻ってこない。
静修が屋敷に来てたようで天からの助けにみえた。
「どうしてここに?」
碧が聞くと静修は洪と挨拶を交わしていた。
「使いだよ。詠星水からの用事でね。廟に来てほしいと国師さまから直接仰せだから碧を迎えに来たんだ」
「わかりました。今行きますね」
「お嬢様危ないですよ」
「大丈夫」
碧は静修のもとにいくのに荷物を跨ごうとしたが足が地面に届かず箱の上に座った。
敷き詰められていて足の置き場がなかった。
「無理ですよ。はしたないです」
「二喬手を貸して」
「はい」
碧は箱の上に両足をのせてしゃがみ立てないかと二喬の手を支えに掴んだ。
「お嬢さま! やめてください」
「箱は頑丈だから大丈夫。二喬はそこにいなさい。怪我しないようにね」
「私が言いたいことです」
「しー!」
碧は腰を上げて中腰のままだが立った。
二喬から手を放して次の箱の上に手を置くと片足を伸ばして叩き、詰まった音がする方を選んで乗る。
碧は箱の上を移動しながら庭を渡っていく。
静修は屋敷の家人を呼び広間を開けさせると洪も荷物を運び入れた者たちを呼び結納品を移動をする指示を出していた。
斗羅に呼ばれているのはここから逃げれるチャンスだった。
鳳が去ったあとで碧は兄たちから質問攻めにされ室に閉じ込めれれそうな予感がしていた。
今のうちにと移動するが箱を移動し始めた静修が碧に気づいた。
荷物を運んでいくのに外堀のように周囲に置かれていた小さな箱と盆に乗せられたいた品から先に広間へと静修は運ばせた。
大きな箱を選んで移動していた碧には影響がないが飛び石のように箱に乗る。
「碧何をしてるんだ?」
静修が驚いて碧に言った。
振り向くと二喬の救出を静修がしていた。
外周から中心に通れるように移動していたらしいが待てなかった碧の周りは一面にまだ荷物が置かれている。
通ってきた道をもどるのにも箱の上を通らないといけないし半分ぐらい過ぎていた。
もう少しで辿りつくからと碧はそのまま進むことを選ぶ。
「あともう少しだから」
目の前には庭から出れる通路が見えていた。
もう少しだと気が急いて次の箱へと足を届かせたが箱を叩いて確認をしなかった。
思っていたよりも中身が軽かった。
「きゃっ!」
箱が碧の重さに移動して隙間ができるとちょうど碧のお尻が嵌った。
「碧お嬢さまが消えました!」
二喬の声がした。
「碧? どこに行ったんだ?」
二喬の声が大きくて静修まで碧を探し出し始めた。
「隙間に落ちたのかもしれない。済碧お嬢様を我々も探せ。無理に荷物は動かすな」
「はい」
洪の声もして捜索されているらしいことが理解できたが恥だ。
重たいという恥をかかされているような気がする。
「大丈夫だから! うっ」
力を入れて抜け出したいがお尻がぴったりすぎて手に力を入れる場所もないし足もバタつかせても箱はびくともしない。
食べすぎたのかお腹が圧迫されて苦しい。
碧の前に手が差し出された。
反射的に手を掴むとその手首には見覚えのある腕輪が巻き付けられていた。
「えっ?」
「碧殿!」
碧を見つけたのはなぜか鳳だった。
鳳はなぜ兄たちから解放されているのだろうか。
飛んできたらしく両足を箱の上において碧を引っ張ろうとしていた。
逆光で表情はよく見えないが鳳が心配しているのは伝わってきた。
碧は鳳にだけはこの姿は見られたくなかった。
碧は俯いたが顔だけでなく鳳の手を掴んだ手まで赤くなりひっこめようとしたが鳳に手を握られていてぐっと力をいれられて張り上げられる。
一度では抜けず大きなカブを抜いているようだ。
鳳は無理には引っ張ろうとはしなかった。
重たいと思われたくなくて碧は頭をフル回転させて鳳に向かって話す。
言い訳になるが言わせてもらう。
「重たく感じてもこれは隙間に挟まったせいだからね。本当は軽いのよ」
鳳が笑った気がした。
「引っ張ると痛いと思ったんだ」
「私は大丈夫」
碧を引き上げるのに鳳は掴んだ手を自分の首に回させて足の下に手をまわして碧を抱きかかえるように抜いた。
ぴったりと挟まっていたお尻が抜けると鳳にお姫様のように抱き上げられていた。