伝説の碧
ある日伝説と噂されてたファンがいた。
その名は碧。場数を踏んだのは数知れず。
運営に問題があって会場でトランクが置けない状況でも解決させる。
問題が起きる会場に碧が居合わせるのか、碧が運営側の問題を引き寄せているのか。
また急に握手会を舞台上ではなくステージの下でしたいという急な握手をする人である推しの要望にも応えて椅子をスタッフよりも手際よく片付け整列の列もつくる。
合同の会場でも同じグループのファン同士でも碧の姿を探す人がいた。
いるだけで安心感がでるのかいる会場といない会場では終わったあとが違う。
ライブ中に舞う金銀テープも前列で受け取ったときは全員に碧がいたときには会場で会場の全員がもらった。
碧がライブ中に集めたテープを客席に配りだしたからだ。
その日のライブをみて関係者から各自ソロの仕事が入った。
招き猫という伝説があった。
その目に狂いはなくデビュー前や間もない新人たちを見抜く目を持つとライブ会場や劇場でも現れるたびにひそひそと話題になる人だった。
ファンクラブをいくつも掛け持ちするがすべて入会したグループや俳優は大人気になるという噂がたち名前を探されるようになる。
関係者席の前やよく見える場所に座席を偶然か必然なのか。
それは今では世界中にファンがいる大人気アイドルがまだ来日したての高校生のころから追っかけていた。
追っかけているうちにフェスや合同のミュージカルを見ては人を惹きつける人物を見つけることができるようになった。
それがある日ライブ中に幸せ絶頂だった瞬間意識が真っ暗になりプツンと切れたようだった。
目の前の推しを幸せにするのもファンの役目だと考えている。
しかし弾き飛ばされて死んでしまったと思ったが異空間にいた。
死ぬなら推しを一目みてから死にたいと願っていたが叶うとは思わなかった。
すべてを捧げた反動か前世のような記憶は薄れている。
彼らということしか覚えてないのは天命のせいだ。
それでも記憶を忘れずに引きづいているのは推しへの愛情だ。
碧が伝説と呼ばれているのはファンが推しを命をかけて守ったからだった。
その伝説を碧が知ることはない。
そもそも私がこの世界に呼ばれたのはたしかクリスマスイブのライブだった。
アラサーになってから最後のつもりだった。
しかも今日はジャスト三十歳になる前日。誕生日は25日。
地方在住で新幹線に乗るために車で2時間。
車の免許はないが母に運転してもらい連れて行ってもらう。
友達のような関係の母だ。
チケットは連番でいつも一緒だった。
追っかけをしていると友達とは疎遠になった。
会場であう話をしたことはないけど顔を合わせる人の方が友達や親せきよりも顔を合わす回数が多い。
オタクはドラマオタクだった。
話題になっていたドラマのせいで中学のとき眼鏡がよく似ていたからかついたあだ名は微笑みの貴公子。または碧様。
呼ばれているだけではいけないとドラマを見だすと止まらなかった。
漁るように他のドラマもみるためレンタル屋さんに毎日通った。
知らない世界にどっぶり浸かり入ってから抜け出せなかった。
今では沼というがオタクとして一括りにされて呼ばれていた。
十代や二十代の流行りにはついていけないというか流行を知らない。
ニュースは見ない。雑誌は韓流雑誌、華流雑誌だ。
ドラマのインタビューやグラビア関連しか読めてない。
すべては一目惚れという感覚だ。
爆発的に売れるまえにすでに沼ったあとで話題になったときにはすでに違うのを見ている。
それはリアルタイムで見たいという欲望によって見まくった経験からだ。
見終わったというのは字幕がつく前に見てしまっている。
日本で放送や円盤というDVDやBRになったものは別物として繰り返しは見る。
会場で友達ができないのは多くのグループを広く深く推していたからだろうか遠巻きにされていた。
私はグループ全員が好きだった。
その人がいるグループだから好きだという気持ちもある。
メンバー単独にも行けるところはすべて行く。
始めて出会ったのは16歳の時。
高校に入ってすぐ人生間違えたと思ったがやめられない。
辞めたら次の年の後輩に影響が出る。
特別選抜入試というもので合格すると一年以内にやめると卒業した中学に連絡される。
最初は友達も多くいたしいじめにあっているとはまた違う。
居場所がない。それも耐えられたが実習を休んだら進級不可となり留年決定というときに熱が出た。
通うつもりはなかったが真面目に生活していたが限界がきていた。
4月に入ってすぐに退学届けを持っていたが校長室に呼ばれたが、無遅刻無欠席という一年生を過ごしてしまったせいで保留扱いにされてしまった。
ちょうど先月に留年が決まった先輩たちの飛び降り騒ぎが立て続けにあった。
もちろん誰も死んでないので新聞やニュースにはなってない。
叫びながら旧校舎の自転車置き場の屋根に飛び降りて凹みができたのと、二階の教室から飛び降りようとして窓から足を出していたが実習中に外を見ていた生徒の発見によって防がれた。
学校の評判が下がるからっていう理由で私は辞めさせてもらえず一旦休学扱いにされた。
もう一度通うことになる未来なんて苦しすぎた。
退学するのにもあの担任と顔を合わせるなんて拷問だ。
心が砕けてもぬけの殻となった16歳で出会った。
そして天の導きで出会ったのは運命があった。
家から離れたところで行われていたショッピングモールのイベントだった。
見たことも聞いたこともないグループで固定ファンは数えるぐらいしかいない。
都内では集まるだろに田舎にきてもしょうがないのにと思っていた。
韓国出身の男性アイドルは長身ですらっとしているが顔立ちはまだ幼く今じゃないと思った。
でも二年のうちにアリーナや全国、世界中から愛されるのだろう。
人の人生を救う人たちだと感じた。
「僕たちにまた会いにきてください。あなたにまた会えると思って活動を続けます」
勘違いではなく目を合わせながら言ってもらった。
私は彼らに出会って救われた。
目で追いかけているうちに魅了され救われた。
自分たちは知らないだろうが命を救われた。
この人たちの行く先を一緒に見ていたい。
すぐにファンになり推しという生きるための衣・食・住と同等以上だった。
また会いたいという気持ちだけで勇気がでて人生に幸せを感じれるようになった。
「今日は僕たちのライブに来てくれてありがとう。メリークリスマス」
「「キャー」」
「ファンクラブ限定ライブだよ。僕たちからのプレゼント受け取ってね」
誕生日のプレゼントなのかと思うぐらい神席だった。
小さめの会場でチケットが取れたのも奇跡だったがなんと実質3列目。
中央よりの通路側で安全だと思っていたら隣でおどっている人が通路にはみ出して踊っていたときだった。
ずっと耐えていたが私の隣まで出てきた。
ちょうどアンコールでメンバーが通路を通ってくれるため会場の後ろの扉が開いた。
警備の人が最初に通って隣の席の人を座席に押し戻したがすぐに飛びだしてきた。
ブンブンと大きく腕をふる。
このままでは推しが通るときに怪我をさせそうだと見ていたが段差を降りてきて距離1mになったときペンライトが振り下ろされた。
このままでは警備の人がで推したちの前を屈みながら防いでいるが腕まで防いでない。
殴りかけた瞬間横に体を乗り出して推しの代わりに防いだ。
ごんと衝撃でくらくらとめまいがした。
ペンライトのとがったものが突き刺さっただろう。
さすがに当たったのが分かったのか通路を挟んだ隣の人はシュッと腕をひっこめたが謝らない。
関係ないふりをするらしい。
「大丈夫?」
声をかけられたのは推し一人のケイだ。
人目で魅了され人生を救ってもらったのもケイだった。
私を殴った人に背を向けて目の前で立ち止まっていた。
すごく近い距離で手を動かせば触れられる。
しかも顔も体も体温を感じられる距離だった。
「ありがとう」
私だけが聞こえる声だった。
死んでも後悔はない。推しを守ったし隣にいる母も守れたことになる。
『後悔はないならこちらに来てほしい』
だれかの中世的なソプラノの心地いい声が頭の奥から聞こえた。
ぱっと目の前が暗転すると真っ白な空間にいた。