即位10年の祝賀
吉国鳳皇帝即位十年を祝う祝賀が行われていた。
「皇后は皇帝が皇子だったときに献身的に皇子を支えられて今があるのです。皇后は国母として歴代に稀をみない賢母であらせられます」
「皇帝を支持するものが大勢いるのも皇后のおかげ」
「皇帝と皇后を見ていると月と夜空です。皇后は皇帝を輝かせる夜空だと言ったようです」
「なんと太陽である皇帝に向かってよく言えたのもですね」
「皇帝は月、皇后は夜空だと書き直されていますので口に出しても大丈夫です。おとがめはありません」
「ほっとしました。よかった。私は年が離れていますので若い話には疎いのです。教えていただけますか?」
「もちろんです。今日も妃教育のために王室から皇后の書を持ってきましたので講義を聞かれてはいかがですか?」
「いいのですか?」
「私も読んでいて難解な用語が出てくるのですがご教示いただきたくぞんじます」
「難解?」
「はい。なんとも教えは『推し活』というのですが古い書物を調べても出てこないのです。そこで推しという意味を皇后に伺いましたところ『尊い存在』と教えていただいたのですが皇帝のことかと訳すことにいたしました。親衛隊のことをファンクラブと申すらしく陛下の軍はすべてファンクラブで名前があるらしいのです。将軍は支部長だとか意味が分からないことが多いのです」
「それは興味深い話ですね。将軍が率いている軍は将軍の親衛隊というファンクラブだというのですね」
「皇后様の改革のおかげで兵の志願者が増え女子も活躍しています。特に秀でているのが皇后様の情報量です。皇后が事前に調べているため皇后にはすべて知っています。情報網が宮中から市井まで幅広いと噂されています」
「皇后に目をつけられたら終わりということですね。錦衣衛よりも恐ろしい」
「皇后の目利きは神官より優れていて官吏の最終試験は皇后との面会だと伺っています。後宮に住まう者たちは皇后が選び団結がすごいらしいのです。皇帝の情報は共由されていて、刺客が命を狙えないといいます」
「話をしていれば皇后と皇帝です」
噂話を止めて迎えるため身なりを整える。
小さな鐘がチリンチリンと音が響き輿が止まった。
「皇帝陛下と皇后様のご到着!」
宦官が外の太鼓を鳴らして到着を知らせると臣下は膝をつき跪拝をする。
手を取り合いながら皇帝と皇后が歩いて通る。
上座に着くと太鼓が鳴らされ玉座に腰かけた。
「余の即位10年の祝いだ。面を上げ楽にせよ」
「「陛下万歳、万万歳。拝謁いたします」」
「鳳皇帝陛下。皇后様今日も麗しいお二人ですね」
「碧皇后様に控えている女官は何を書いているのですか?」
「手記を残されいるのです。宴というのは皇后様が仰られるにはステージというものらしく意味は分かりませんが会誌というものに記載されるらしいです。そして記録をレポートといい速報でこの場に来れない後宮や軍衛にも伝えるとか」
「碧皇后に感謝を伝える。この即位した十年は皇后の手厚い支えがあったからだ。この場にはいない老臣たちは余を王の器ではないと存在を無視していた。見えなものとして事実上は余を抹殺していたのだ。自信がなかった公子のときから自信を持たせてくれたのは碧皇后だ」
鳳皇帝は隣に座った碧皇后の手を握った。
「この世界にきて生きる道を支えてくれたの鳳様です。支えるのは当然の事です。私の目を信じてくださったからです。即位なされるころに話したことを覚えておいでですか?」
「なんのことだ? 思い出がありすぎる」
「生まれたところでの話をしました。ファンは推しを選べても推しはファンを選べない。つまり臣下や民は皇帝を選べても皇帝は民を選べないということを。ファンはあなたを皇帝に選びました。誠実にファンと向き合ったからですよ」
「そなた目では余はどう映ってる?」
「神々しいほど輝いています。出会ったときと同じです。あなたの輝きは心を惹きつけて離さない。よそ見などしている間があれば目に焼き付けていたほどです」
碧は鳳の瞳の中に映される自分の姿をみた。
碧は鳳と出会ってからの十数年を思い返した。
一瞬だとしても私を見つけてその瞳に映してほしいと願っていた時があった。
それはこの世界に来る前からの想いだ。
私だけの推しを見つけたときにこの人を支えたい。
今生のすべてをかけてもいいと思ったことを叶えてくれた。
私の目には狂いがない。
その艶やかな口元。その瞳はしっとりと濡れていて冷たそうにもみえるが奥に情熱の炎が見え隠れする。
出会ったころの少年から青年へとなったばかりの可愛らしさがかっこよさと共存していた姿も好きだったが可愛らしさが消えて大人の色気と変わり今では若返っている。
「うん?」
覗き込んできた鳳は首を少しかしげて子犬のように上目遣いで見上げてきた。
ごくたまにこの昔を思いださせる可愛さがどきゅんと胸を貫いた。
頭がぼおっとすると鼻水を垂らしたのか鼻の下が濡れた気がして擦った。
「碧、また血が! 誰か侍医を呼べ!」
手のひらをみると血がついていた。
鼻血が流れてきたようだ。大勢のまえで鼻水を垂らすのと鼻血がでるのとどちらがましだろうか。
微笑みを絶やさないであろう国母の皇后が色気にやられて鼻血を出して退座するなんて前代未聞だろう。史実に書かれないように書き換えることを考えていた。
未だに鳳の顔をじっくり見るとすべてが尊いと拝んでしまう。
碧から以前の自分に感覚が戻っていた。
出血多量で寝台に運ばれた。血を補う苦い薬湯を飲むと安静に寝かされた。
宴の準備とかもろもろで数日ろくに寝てなかった。
碧は目を瞑るとすぐに深い眠りに落ちる。
そして昔をゆっくりと思いだした。