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口裂け女と凶器

機械は定められた行動基準に従い工程を守るからこそ機械なのである。


ベルトコンベアは滑車の回転で上に乗った者を運ぶ工程を遂行するからこそ、機械でいられる。



工程を守れなければそれは機械ではない。



壊れた機械だ。


壊れて停止するのであれば問題はないだろう。


だが壊れたままで動き続ける機械があれば。




それは何と言えばいいのだろうか。




数日後。



次に彼女が出現したのは同じ町の別の場所だった。


薄暗い路地の奥。


乱雑に積まれた荷物が見える。


その荷物の前で後ろ向きの女が焦った様子で何かしていた。


殺人機械である彼女は深く思考せず、何時もの通りその女に声を掛ける。



「ねえ」



驚いたかのように女は振り向く。


手は荷物を抑えたまま。


そしてこう言った。



「逃げて」





普段の彼女であれば女の言葉は無視していただろう。


無視して次の工程へと移行していただろう。


「問いかけて」「殺して」「立ち去る」


何時もやっていたことだ。


だが。



だが彼女の眼は前回開かれている。


そう、彼女の認識は広がったままなのだ。


以前では見えなかった状況が見える。


狙うべき対象以外の情報。



……例えば荷物の隙間から女を掴もうとしている何者かの手。



女は荷物を路地に積むことで、その手の持ち主の侵入を防いでいるようだった。






「口裂け女」は人々の噂が生んだ存在である。


人間ではない。


フォークロアの化物。


その異形としての感覚が告げる。



「あの手の持ち主は」


「人間ではない」


「きっと自分と」


「同類だ」


「そして」


「私が質問を告げるべき相手を」


「あの女を」


「殺」



刹那、彼女の認識内に「殺す前に死んでしまった」という前回の状況が過る。


定められた工程を守れなかった。


今までになかった状況。


新たな環境。


それは彼女に殺人機械として相応しくない感覚を芽生えさせていた。


即ち。


 







「不快」





 





バリケードが崩され、その向こうに居た存在が路地に入り込んでくる。


それは人間と同じ姿をしていた。


だが彼女が問いかける対象にはなりえない。


「私きれい?」などと問いかけるに値しない。


何故ならば。



「あ゛あ゛あ゛」



人の言葉すら発せなくなくなっているそれは。


既に死んでいるからだ。


死んでいる身体で動いている。



そいつは。


いや、何体もいたそいつらは。


バリケードが崩れた際に転倒した女に手を伸ばし、路地から引きずり出そうと。






「口裂け女」である彼女は都市伝説の怪人として相応しい凶器を持っている。


対象の口を引き裂き首を落とすのに使用する、口裂け女の象徴。


コートの中に潜ませたその凶器は。



バツン!



大きな音がして、女を掴んでいた歩く死体の首が落ちる。


彼女の行動基準を妨害する「障害物」の首が落ちる。


九死に一生を得た女は、倒れたまま彼女を見上げて「それ」を見た。



彼女が持つ凶器。


つまり。


人の首を切断できそうなサイズの巨大な鋏を。


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