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「王太子殿下は後宮に占い師をご所望です」SS

「お義母(かあ)さま……これはいったい……」


 父の葬儀を終えて数日後、フォルテの部屋は見慣れないメイド達に占領されていた。


「今日からこの部屋はマルベラが使うことになったの。改装するから出てくれるかしら」


 威圧的に告げる義母の隣には、彼女の連れ子のマルベラが口端を上げて微笑んでいる。


「じゃあ私の部屋は……」


「あなたには……そうそう、物置(ものおき)になっている小屋があるじゃないの。あそこがいいわね」


「そんな……」


「さあ、身の回りの物を持ってさっさと行きなさい。邪魔だわ」


 ひどい話だと思っても、十二歳になったばかりのフォルテは逆らうことができなかった。


 しかも仲の良かったメイドや執事達もいつの間にか知らない顔ぶれに変わっている。


 誰に頼っていいかも分からない状態で、頭に浮かんだのは婚約者のペルソナだった。


 幼い頃から家族ぐるみで仲のよかったペルソナ一家は、立て続けに両親を失ったフォルテと妹のビビアンの事を葬儀の間もずいぶん気遣ってくれていた。


(ペルソナ様に連絡して助けてもらおう)


 そう心の中で呟いて立ち去ろうとしたフォルテだったが……。


「ああ、そうだったわ。あなたに一つ言っておくことがあったんだったわ」


 義母が思い出したように呼び止めた。


「先日ペルソナ様ご一家にもマルベラを紹介したのよ。ペルソナ様はずいぶんマルベラのことが気に入ったようで、いっそ婚約してはどうかしらと言ってみたの。するとご一家は二つ返事で快諾してくださったのよ。将来はマルベラと共にこの家をお任せするつもりよ」


「まさか……」


 フォルテは信じられない思いで呆然とした。


 唯一頼れると思っていたペルソナ一家にまで見捨てられるとは思ってもいなかった。


「でもヴィンチ家の家督(かとく)は長子の私が……」


「いいえ。ヴィンチ公爵様は亡くなる前にすべてを後妻の私に任せると遺言を書いているのよ。王様の承諾書も、ほらここにあるわ」


 義母は王印の押された羊皮紙をフォルテに見せつけた。


「そんな……。じゃあ私とビビアンは……」


「ほほほ、心配しなくていいのよ。私は慈悲深い人間だもの。あなた達姉妹を追い出したりしないわ。でも、そうね。メイドを入れ替えて少し人数が減ってしまったから、働いてもらわないとダメかもしれないわね。置いてあげるのだもの。それぐらいできるわね」


 ショックを受けるフォルテだったが、突如、横から聞きなれた声が響いた。


「奥様。それはあまりに理不尽な話でございます。フォルテ様はヴィンチ公爵様の血が繋がったご令嬢なのですよ。王様は本当にそのような承諾をなさったのでしょうか」


「ゴローラモ」


 そうだった。


 この人がいたのだったとフォルテは安堵を浮かべた。


 亡き母の腹心の護衛騎士だったが、いまはフォルテの護衛騎士として働いている。


「な、なによ! 嘘だって言うの? ちゃんと王様の印もあるじゃないの!」


「どうでしょう。いずれ真実は明らかになると思います」


 鋭い眼光で言い放つゴローラモに、義母は青ざめた表情になっている。


 よかった。


 ゴローラモが残っていたならきっと助けてくれる。


 そう安心したのもつかの間、ゴローラモはその翌日死体となって発見された。


 病弱な妹と共にむごい運命の波に呑み込まれたフォルテだったが……。


 まだ希望を捨ててはいなかった。


 なぜなら王国の誰にも負けないと自負する特技があったから。


 小さい頃から色石を使った占いが得意だった。


 それはすべてを見通すように賢く柔軟に生きた母の遺伝かもしれない。


「大丈夫よ、ビビアン。私が占いで身を立てて、いつか王家に抗議してやるんだから」


 そう誓ったフォルテだったが、まさかその数年後、思いもよらない形で王家に関わろうとは知るよしもなかった。



 すべては父の死から五年後に動き出したのだった。


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