理想の結婚〜完璧主義な出来る男は自宅警備員に捕まる〜
俺の名は間壁 朱義。親しい者からは「しゅぎっち」と呼ばれる。ふっ。省略しようとあだ名を付けるのは良いが長くなっているとは本末転倒だな。いや、良い「しゅぎっち」と呼んでくれ。親しみ易さとは時に必要だと俺は知っている。
俺は大企業のエリート社員だ。誰もが俺を尊敬した目で見てくる。仕事の出来る男は辛いな。容姿も完璧な俺。まさに「3高」な俺。 「3高」とは「高学歴・高収入・高身長」の略だ。これが昭和ならモテモテだった。……だった。ところがどっこい時は令和。平成でさえ「3K」などと妥協した女性の理想があった。因みに「3K」とは「価値観が合うこと」「金銭感覚が一致していること」「雇用形態が安定していること」だ。俺は世間の女性は心の中では「3高」を求めていると思う。だって金があるに越したことはないだろう?
俺の歳は27。もうそろそろ身を固めたいと思ってはいる。彼女はいた。いた……そう過去系だ。昨日、誰もが理想とする美人な彼女に振られた。同じ職場だった。だが、俺に内緒で転職活動をしていた様で、(俺からしたら) 急に仕事を辞めた。
振る理由はこうだ。
「完璧主義過ぎて疲れた。もう終わりにしましょう」だった。
完璧主義の何がいけないんだ? 彼女の容姿は綺麗だった。だが、もうちょっと鼻が高い方が完璧だなと思い「整形代を出すから整形した方が良い」と助言をした。ただ整形してこいじゃない。金を出すんだぞ? 破格の待遇だ。なのにっ泣きおった。意味が分からない。
あれか? 古くさい日本の文化で親から受け継いだ身体を弄ってはいけないと思っているのか? 俺には理解出来ん。より良き暮らしの為に容姿ぐらい弄って何が悪い? 俺の様に産まれた頃から容姿端麗じゃない人間が可哀想過ぎるだろう!
そんなこんなで俺は合コンに参加している。俺は完璧だ。ちょっとつまずいたところではへこたれない。元カノとは相性が悪かったのだと、元カノの記憶を俺の記憶から抹消する事にする。完璧主義な俺の脳に汚点など記憶する必要はない。
余談だが、世の女性は彼氏と別れた後かなり落ち込むらしいが、数日経つとケロッと立ち直ってたりするらしい。
逆に世の男性は彼女と別れた後、「いやっほー自由だぜー!」とか割と平気そうだったりするが、数日すると「……寂しい」と彼女を失った悲しみがぶり返してくるとか聞いたな。
……ぶるりっ。お、俺は違う。決して落ち込まんぞ!
よしっ! 目の前の女性達に集中しよう! えーと、男は俺と同じ職場の人間だ。俺を含めて3人だ。インテリジェンス眼鏡と陽気なムードメーカーな2人だ。席は俺が左端、真ん中がインテリジェンス眼鏡、右端が陽気なムードメーカーだ。因みに都内の居酒屋だ。非常に狭い。
対して女性も3人。俺の正面には綺麗系な女性がいる。美容師らしい。隣は可愛い系な女性で雑貨屋の店員らしい。最後に俺から見て右端に座っているじょ……女性? ふくよかで性別が分からないぞ? 机の下はここからでは見えないからスカートかズボンかが分からない。性別を当てるのは……センター試験より難しいな。
じっと、ふくよかなお方を見ているとムードメーカーな友人が「え? 何々? しゅぎっちクサさんに興味深々?」
クサさんとはふくよかなお方の名前だ。フルネームは「面堂 草」だそうだ。職業は自宅警備員らしい。ふむ。危険を伴う警備とは女性だとするとなかなか気骨がある方だな。
クサさんは「えっ」と俺を驚いて見ると意味深な笑みを浮かばせ「お手洗いに行ってくるわ」とクールに立ち上がって去っていく。
これは性別が判明するチャンスだ! じっと観察しているとムードメーカーな友人が「しゅぎっちが本気だぁ!」と笑ってうるさい。 無視して観察を続行していた……が、な、何だとっ!? あ、あれはズボンかっ?スカートかっ?
インテリジェンス眼鏡に「あれは何というボトムスだ?」と質問する。博識な彼ならば分かる筈だ。が首を横に振る。「分からない。服に詳しいのはこっちだ」とムードメーカーな友人を示す。「へー。そんな事も知らないんですか? スカンツですよ」と小馬鹿にして来た。
スカートだかパンツだかはっきりしない服何ぞ知らんわ。肝心なのは性別だ。
「スカンツは女性と男性どちらの服だ?」
「へ? 女性でしょう? あっけどニューハーフは履くかなぁ」
ニューハーフだとっ!? クサさんはニューハーフなのかっ!? ニューハーフは男性なのか女性なのか……くっ俺には難解過ぎる問題だっ!
クサさんが戻ってきて、ムードメーカーが質問を皆にしていく。
「特技は何ですか?」
美容師さん「髪を切る事です」
美容師だからそうだろうな。
店員さん「イヤな客相手でもスマイルです」
……闇がありそうだ。
クサさん「暇だと発狂する人いるじゃないですか。私はいくら暇でも自堕落に生活します。自発的に動くなどしたくないんです。楽の為には妥協しません」
俺は深く感銘を受けた。妥協をしないだと? まさに俺の理想だ。しかしっ性別が分からないっ!? 合コンで性別の質問を先ずするべきだろうっ!? ムードメーカーにギロッと睨んでやった。ムードメーカーは気付かずに続ける。
「じゃあ次〜。この中で気になる人いる〜?」
女性2人がもじもじと俺を見つめる。ふっ3高な俺だから当然だな。だがなっ俺は妥協しないぞ?
「あえて言えば……美容師の君は豊胸手術を受けるべきだ。定員の君は小顔整形をするべきだ。それなら俺の理想だ」
女性2人が固まった。ん? どうした? あっ金がないのか。付き合うのならば出すが、流石に出会ったばかりでは金を渡せないな。
そして気になって仕方ないクサさんだ。じーと見てもやはり性別が分からない。
「クサさんは脂肪吸引からだな」
じゃないと性別がまず分からん。クサさんは微笑んだ。
「養っていただけるのならば構いませんよ? 脂肪吸引でも整形でも豊満手術でも何でもします」
「ほお?」
俺はクサさんに釘付けになる。こんな反応をする人は初めてだ。
「私は仕事や家事を一切しません。その代わりに貴方の理想になって見せますよ?」
す、素晴らしい! 何て素晴らしい方だっ! 自分の信念を貫きつつも相手を立てるとはっまさに理想的な方だっ!
思わず立ち上がりクサさんの元へと向かう。床に跪きクサさんへと手を差し出す。
「結婚して下さい」
周りが驚くがそんな事は些末な事だ。この方こそまさに理想。まさに運命。
クサさんは微笑み「喜んで」と俺の手を握った。
周りは拍手する。俺とクサさんはまさに理想の夫婦となるのだ。
後で性別を訊いてみたが、「性別など些末な事でしょう」とはぐらかされた。ミステリアスで素敵であった。
新居を構えて俺とクサさんはそこで暮らす事にした。クサさんに「脂肪吸引しないの?」と催促するが、「まだ、私は貴方が嘘を吐いてないのか疑っているの。私をちゃんと養ってくれるのか試させてもらいます」と微笑んだ。
そりゃそうだ。まだ出会って日も浅い。先ずは信頼関係を築いていかねばな。
終