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遠い記憶
「じっちゃん。じっちゃんの手帳ひろったよ。」
彼は土や枝のついた自分の体には気にもせず、縁側に座るしわくちゃの老人に嬉しそうに手帳を差し出す。
「ワシの手帳?どれ見せてみぃ。...おおこれか。ありがとねぇ、どこに落ちてた?」
「山小屋の宝部屋にあった。」
宝部屋とは老人の持つ骨董品やアンティークなどの年季の入ったまさしく"宝"をまとめた地下室のことだった。
「あんれぇ宝部屋の蓋は重かっただろう。一人で開けたのかい?」
「うん!あれぐらいなら簡単に持ち上げられるよ!」
「大きくなったねぇ。もう9つぐらいかい?」
「12だよ。」
「早いねえ、ちょっと前までこーんなに小さかったのに」
そう言って老人は自分の手を腰の辺りに合わせて彼の昔を懐かしむ。
「そんなにちっちゃくなかったよ。それよりさ、その手帳何て書いてるの?僕じゃ読めなかったよ。」
「これは日本語じゃない字もまざってるからね。読めなくても当然だよ。」
「日本語じゃない字?英語とか?」
「いいや」
老人は彼の方を向き、笑いながら言う
「隣の世界さ」
その言葉が、今も頭を離れない。