飴玉
「パムお姉ちゃん綺麗な流れ星だよ、ほらあそこ。」妹のジャムが空を指差した。
その日、空から大量の流れ星が降り注いだ、人々はこれは神の祝福だと喜び天に感謝して祈った。
「ジャムの大好きなアレみたい。」
「飴玉」「あめだま」
二人の声が揃って思わず笑い転げる。
それは今から1ヶ月前のことだった、
もう日が傾いてきている、背丈より高さの有る茂みの中を長剣で薙ぎ払うと唐突に視界が開けた、けれどもそれは安全とは限らない、見晴らしが良くなると言う事は彼らに見つかる可能性が高くなる、彼女は荒い息を整えて今来た山を振り返る、追っ手は無かった。
手にしたミスリルの剣は硬い外殻のために刃こぼれし、透明な体液で濡れて滑り鉱物油の嫌な臭いがしている。
妹のジャムが苦しそうに訴えてくる「パムお姉ちゃん、うちおなか空いた、おなか痛いよ!もう動けへん」
最後に食事をしたのは3日前、この子には辛いよね。
パムは非力な自分が悲しかった、昨日までは城の騎士としてはそれなりの地位にいたというのに今ではそれも何の役にも立たない、この子のための食べ物さえ手に入らない。
「わぁ、マスシロの実だ綺麗。」
そう言うとあっという間にその赤く美味しそうなイチゴの様な実をもぎ取り口入れた。
「食べちゃダメ!吐き出して!」
直ぐに背中を叩き吐き出させようとするが、その前に青い顔になって自分から吐き出した。
「げえ、気持ち悪うい。」
ジャムの口からは赤い果汁ではなく透明な鉱油が流れ出た。
ここの植物も既に駄目なの?、いったいどこまで行けば良いの?
手持ちの端切れで口を拭き少し残った水で漱がせ、落ち着かせようとした。
「ジャムちゃんもうちょっと辛抱して、そう少しいけば、次の山を越えたらどこかで食べ物もらうてくるさかい、そや、飴食べるか?」
「いいんか?でももう1個しかないんよ?」
「たべな、お姉ちゃんもう食べたから、おなかいっぱいやから」
「お父ちゃん、おそいな、いつかえってくるん?」
父も母も、もう帰る事はない、エルフの村は汚染されてしまい滅びてしまったと妹に言えたらどんなに楽だろうか、けれど今は自分が妹を護らなければいけない、どんなに苦しくても。
あの厄災は何なのだろうか、あの虫に刺された者は人でもエルフでも動物植物でさえ変異を遂げてしまった、変異したそれは襲って来るわけではなかった、ただそこに立ち尽くして大地と一体化していくのだった。
追いかけてくるかも知れない彼らとは虫の事だった。
虫たちを剣で斬り伏せてここまで逃げてきたが数が多すぎた。
ああ思い出した、あれは布教で立ち寄った人間が持ち込んだ球体の中にいたんだ、なんでも空から降って来た神様の贈り物だと言っていた。
それってあの降ってきた流れ星なの?
神聖皇帝自ら訪れて「世界に変革をもたらす神からの贈り物です、争いは無くなり差別も無くなる正に神のみこころを我らは世界に広めております、お受け取りください。」そう言って置いていった。
宗教が違うのに何故か村長はそれを受け取ってしまった。
「そう、平和には・・・なるわね。」
溢れる涙を小手で拭く、「この先の村も変異しているかも知れないけど、それならばさらに先に行くまでよ。」ジャムには聞こえない様に小さな声で自分の心を奮い立たせようとする。
変異した植物は食料にはならない、もし間に合わなければ加工された食品を探そう。
パムが向かおうとしている村にはその者達も向かっていた、彼らは意外と足が遅くそれは大量の球体を持ち歩いていたせいだった。
数日先に出発したと言うのに到着は、ほぼ同時だろう。
「宜しいのですか神聖皇帝様、あの様な亜人の者達に神の贈り物を与えて廻るなど、御心に背くのではありませんか。」
「司教よ此れこそが我等だけが神の選民である証なのだよ、異教徒、異民族は神の手で滅びるのだ。」
次の村を目の前にしてそんな話をしている同じ頃、神聖帝国の首都ミカサでは隣国より大僧正が友好の使者として訪れていた、神の贈り物の球体を友好の印として届けるために。