004c 浮世絵
❏浮世絵
雷撃再現検証実験の準備。
サナさんに案内されて向かったのは宝物庫。
宝物庫と言ってもその中身は埃を被った色々な道具達。
歴代落神達のガラクタ倉庫ってわけ。
避雷針の準備の為に金属を探しに来ていたんだけど…
バサァと音を立てて崩れてきた紙の束。
-- なんだこれ?
落ちてきた紙には絵が描かれてる。
同じ絵が何枚も。
パラパラと確認してみると、絵は何種類かある。あるんだけど…
どの図柄も複写したかのように何枚もあった。
-- 版画か。しかも多色刷り。
-- あぁ。浮世絵だ、コレ。
その技術の再現には恐れ入ったが、肝心の絵はその、ね?
浮世絵を再現した落神様に絵心はなかったようだ。
-- モデルになってた女の子は複雑な気分だったろうなぁ。
サナさんだった。
苦虫を潰したような顔って奴だ。
-- そうだよね。
-- この絵じゃあねえ。
-- 顔はへのへのもへじだし。
雷撃実験のあとも俺はちょいちょいガラクタ倉庫に通っていた。
浮世絵に興味を持っちゃったからだ。
中学生の頃、誰もが通るだろう試練の道。
漫画家になる!ってヤツ。
俺もその道を通ってきたのだ。すぐ引き返したけどね。
絵はそこそこ見れるものを描けたと今でも思っている。だけど漫画道は険しい。
コマ割りや構図を考えるセンスが別途必要だった。
そのセンスを磨いても、さらなる試練が待っている。
-- 原稿一枚にいくつの絵を完成させなきゃなんないんだよコレ!!
俺は来た道を引き返した。即決即断。
あの作業量はせっかちさんには無理。
そして俺せっかちさんなの。生まれつき。
モデルをサナさんに頼んだ。
断られた。即答。
よっぽど嫌な記憶なんだな。
まぁ、あの出来じゃあねえ。
へのへのもへじ。
リアに頼むと死なない程度に殺されるはずなので、まずスイに声をかける。
『ジョン様に絵描いていただけるとは!!!』
-- ・・・。
簡単に落ちたスイに頼んでリアにもモデルになってもらう。
-- ふふ。俺も知恵がまわるようになったもんだ。
とは言っても長い時間をかけるわけにもいかない。
モデルさんはジッとしているのが仕事だけど、ジッとなんてしていられない性分なのだ、リアが。
-- 目が、目力がパネェ…。
とにかく全体をササッと絵描く。
全体の形とバランスさえ良ければ、細かいところはそこそこでも見栄えするからだ。
全体のバランスが整ったら手先と頭部を少し細かく描いていく。
顔のパーツも重要だが、今はバランス良く目鼻のカタチを描いたら終わり。仕上げの段階でいじるから。
人物画は表情がよくないとね。特に目。
あんなジト目を正確に描いたら、呪いの絵になっちゃう。
原画の清書、さらに原画を写し書き。
色の着いた版画は色の数だけ版木を用意するので、原画の色指定も考える。
どうせ部屋にこもっている時間が長いのだ。
-- ヒマな時にボチボチ進めよう。
-- せっかちさんな俺も大人になったもんだ。
こちらの世界にはテレビやマンガなんて無いからね。
暇な時間はとことん暇なのでちょうど良かった。
-- あぁインターネット環境が恋しい。
まだ底冷えのする寒い日。
こんなに寒いのにもう梅の花が咲き始めたと言う話を聞きながら、ばれんを持ちひたすら擦っている。
-- 出来た!!
出来上がった浮世絵はまるで昭和の宝塚ポスターのよう。
-- 我ながらよくできた。
-- 俺すげー。ここに来て才能開花たぜ。
出来上がったポスターに001と数字を書き込む。
現代っ子的発想。自分の作った作品1号。
その出来に惚れ惚れしていると、急に広間が騒がしくなる。
キラキラ組によるポスター強奪戦争。
-- 待て!待て!待てって!!
-- 同じの作ってるから!たくさん刷れるから!!
後日キラキラ組全員にポスターを進呈するということで落ち着いた。
その後色付き版画の種類が増殖。
キラキラ組が熱心に俺の元に通い、絵の練習、版木の理解と、道具の説明。
一組しかなかった版画製作用の道具は青年部に持ち込まれ分解、解析、複製。
青年部女子組にチームができた。
絵担当。版木担当。摺り担当。
出来た浮世絵にモデルのリアを褒め称える言葉を書きこんで完成。
-- その文字も版木を作って擦れば楽じゃない?
次の春には沢山の絵草紙が出回るようになっていた。
スイ本。リア本。
女子組に隠されていた脅威の能力。
俺本は出なかった。