004a 多々良ノ里訪問団 青年部代表
❏多々良ノ里訪問団 青年部代表
めちゃくちゃビビっていた。
今度の落神様は荒神様らしい。
気が短くてすぐキレる。キレたら雷撃もぶっ放す、本気でヤバイ神様らしい。
あのスイ殿とリア殿が魂の従者となっているとの報告もある。
スイ殿と言えば性格は温厚で何をやらせてもすぐにトップになっちゃう天才肌。
剣合会の会合でスイ殿がこちらの里にやってくると里の娘っ子達が道場に押しかけてきて大変な騒ぎになる。
なのでここ1年は参加を御遠慮いただいていたんだけど・・・まさか落神様に命を差し出してしまうとは。
リア殿。リア殿は個人的にめちゃくちゃ怖い人。
なんど蹴っ飛ばされたかわからない。
スイ殿と兄妹だと知った時は心底驚いたけど、冷静に考えると納得だった。
黙っていれば凄い美人だし。あちらの女子組のリーダーなので仕事の評判も耳にしている。
ヨシオ様ラブが行き過ぎているなんて噂もあったが…こちらも新しい落神様に従っていると言う。
これは本気で覚悟を決めねばならない事態。
言いたいことがないわけじゃないが、そもそも
『半年もあれば楽勝っすよー。』
なんて安請け合いしたこちらが悪いのだ。
許してもらえるとは思わないが、被害はなるべく小さい方がいい。
卑怯な手段だとは分かっているけど、最初から土下座で対応した。
『苦しうない、面をあげよ。』
重苦しい空気。
だが、顔を見せろと言われればそれに従うまで。
ゆっくり頭を上げると目の前に飛んできた。
ぴょーんってカエルのように。
何が?神様が。
土下座する我々に向かって五体投地の姿勢。
-- !!!!。
こちらの土下座の意味を潰しにかかる。
なんと言うことか!!
落神様が御自身の身体を張ってこちらの土下座を否定する。
こんなやり方で土下座を否定されるなんて夢にも思わなかった。
いきなり土下座という卑怯なやり方を選んだ自分を心から恥じた。
聞いていた話と違うじゃないか!
すぐキレる危なっかしい神様って言ってたじゃん!!
あ、リア殿?
なんで落神様を踏んづけてるのかな?
『ジョンのくせに調子にのるんじゃないわよ。』
ええ!
怖い怖いと思っていたけど、気軽に雷撃出しちゃう神様を踏んづけちゃうほど強い娘だったの??
ハッ!
思い出した。もう一つの噂。
今度の落神様はわざとダメ男を演じていると。
そうやって里の者達に怖がられないように気を使う神様だっていう噂。
それが真実なら目の前の寸劇も理解できる。
我々から恐怖心を取り去ろうとしてくれているに違いない。
剣合会の奴らの言う雷撃事件も何か理由があっての事だったのだ。
それを調べもせずにそそくさと逃げ帰ってくるとは…
我々はなんて浅はかな真似をしてしまったのだ。
ただただ恥ずかしい。
恥ずかくて息もまともにつけないではないか。
一体なんと言って詫びれはいいのだ。
懸案だった納期の遅れも笑って許してくれている。
我々。いや私の判断が間違っていた。
私はこの先どうやってつぐないの意を示せばいいんだ。
夜、酒の席を設けてくださった。
正直そんな気分になれなかったけれど断ることもできなかった。
落神様は上座に座らず
『まあ適当に座ってください。』
と言いながら自身で鍋の準備をしておられる。
ますます私の心が軋む。
どうすれば心からの謝罪を伝えられる?
職人代表が落神様に何度もお酌を断られている。
それを見た他の者達の表情も硬くなる。
仕事の話については許しても、無礼な対応への謝罪は受け入れてもらえないと言うことなのか。
落神様が席をスイ殿に譲っている。
ああ、あとは当事者同士で親睦を深めよ、という意味なのだろう。
だめだ。とても敵わない。
そもそも落神様に敵うはずない。
ヨシオ様だってそうだった。
どんな技術でもみんなが便利になるならと隠さずなんでも教えてくれたのだ。
みんなが幸せに過ごせるようにと心がけていらしたのだ。
なのに私は自分達の不手際を棚に上げて、あわよくば笑って許してもらおうなどと甘い考えでいたのだ。
新しい落神様のジョン様はそのことを指摘している。
仕事への責任感や交渉相手への敬意などが形だけになっていた自分の心の醜さを思い知らさせる。
ダメだ。笑うしかない。
自分がこんなに卑しいヤツだったなんて、笑うしかないだろう。
ああ、スイ殿。
随分と久しぶりだな。
ん?涙?
おお、お恥ずかしい。いつのまにか泣いていた。
はは、とんでもない姿を見られてしまった。
涙の理由か・・・。
いや隠すような事ではない。
自分が恥ずかしくなったのだ。
スイ殿が仕えるジョン様は本当に素晴らしい神様なのだな。
心からそう思うよ。
今日は会えてよかった。
本当にそう思うのだ。
え?
もっと話そう?
ん?別の席に移動?
ああ、わかった。ありがとう。
そうだな。
今夜は男同士腹を割って話そう。
心ゆくまで語り合おうじゃないか。
そうだ。新しい落神様。
ジョン様の事を。